今の田中将大は真っ直ぐがエグい。プレーオフ進出へトップギア

 8月5日(現地時間)にボストンで行なわれたレッドソックス戦で、4回3分の2で降板――。この結果だけを見れば、先発したヤンキースの田中将大にとって厳しい内容だったと思われるかもしれないが、ポジティブな要素も少なくなかった。


ケガから復帰後、好投が続くヤンキースの田中

 0−0で迎えた5回、ムーキー・ベッツにグリーンモンスター越えの特大弾を浴び、7月15日のインディアンス戦途中から継続してきた連続無失点記録は21回3分の1でストップ。それでも、チーム打率、得点、長打率、盗塁など、あらゆる分野でメジャー1位の強力打線を相手に粘りを見せた。4回2死から味方のエラーでランナーを許し、5回を投げ切ることは叶わなかったものの、絶好調のレッドソックスを1点に抑えたことは評価されていい。

「MLB全体でも1、2を争う打線。みんなそれぞれ狙いがあって粘ってくる。球数は増えてしまいましたけど、『今日はこういう日。我慢比べで先に折れてしまったら試合が終わってしまう』と思っていた。なんとか粘りながら投球ができたと思います」

 田中がそう振り返ったように、この試合では毎回のようにピンチを招きながら、今季最多タイの9三振を奪うなど決定打を許さなかった。4月11日の対戦で満塁弾を打たれたMVP候補のJD・マルチネスに対しては、得点圏に走者を置いた1回と3回に対戦して2打席連続三振。球数は増えたが、長いイニングを投げるより最少失点に抑えたいという意図が見える投球だった。

 直近3試合で1失点の田中の好調ぶりは、記録、数字でも証明されている。自己最高の21回3分の1連続無失点は、ヤンキースの投手としては2011年にCC・サバシアが23回3分の2を達成して以降、最長となる記録だ。また、7月は4試合に先発して防御率1.75。故障者リストから復帰した7月10日の時点で4.68だったシーズン防御率を3.76まで引き下げた。

 好成績は最近に限った話ではない。開幕直後は大量失点を喫する試合もあったが、4月23日以降に先発した14試合は7勝0敗で防御率3.12。シーズン全体でもここまで9勝2敗と高い勝率を維持している。昨シーズンから今年の春先までアップダウンが目立っていた背番号19は、持ち前の安定感を取り戻したと言っていいだろう。

「(6月9日から)故障者リストに入ったことが休養という意味でプラスに働いたのか、その期間に修正に成功したのかはわからないが、復帰後は力を入れて投げたときの速球に力がある。おかげでスライダー、スプリッターといった変化球がより生きている」

 メジャーの某チームのベテランスカウトに田中復調の理由を聞くと、すぐさまそんな答えが返ってきた。また、これは以前から主張していたことだが、「”魔球”スプリット」が代名詞になっている田中に対して「真っ直ぐがカギ」と主張する。

 今シーズン開幕直後、同スカウトにスカウティングデータを特別に公開してもらう機会があった。メジャー特有の20〜80点の採点で、田中の速球のコマンドは50点、制球は60点、キレは55点で、総合評価は60点。この指標では「50点が平均、60点が優秀、70点が超優秀、80点が最高」という評価になるため、田中の真っ直ぐは平均以上とみなされていたことになる。

 一方で、そのレポートには「(田中の速球は)空振りを奪うためではなく、第3の球種として使われている」という寸評が添えられていた。たとえ及第点でも、メジャーのエース級の先発投手としては”やや物足りない”と見られていたのかもしれない。

 しかし、最近は速球に力があり「それが成功につながっている」という。実際に7月31日のオリオールズ戦では、アダム・ジョーンズ、クリス・デービスといった中軸を150キロ前後の速球で空振り三振に斬って取っている。8月5日のレッドソックス戦でも初回から94マイル(約151キロ)の速球を投げ、4回、5回にはミッチ・モアランド、アダム・ベニンテンディといった左の強打者たちから速球系で三振を奪った。

 これらの結果は、配球や打者との力関係も影響してくるため、すべてを速球の精度アップに結びつけるのは早計かもしれない。上記のジョーンズとの真っ向勝負に関しては、田中本人も「裏をかきにいっただけ」と振り返っていた。

 ただ、今の田中が「真っ直ぐで空振りを奪えている」ことは紛れもない事実だ。速球の質が向上した時期と、調子が上がってきた期間が被っていることは単なる偶然ではないだろう。

 上昇気流に乗る田中に対し、チームは苦しんでいる。5日のレッドソックス戦でも9回裏に3点差を追いつかれ、延長10回にサヨナラ負け。ア・リーグ東地区2位のヤンキースは、首位を走るライバルとの直接対決で痛恨の4連敗を喫し、ゲーム差は一時、今シーズン最大の9.5まで開いた。

 ワイルドカード争いではトップに立っているが、2番手のアスレチックス、3番手のマリナーズとの差も急激に詰まっている。地区優勝を逃すだけでなく、”悪夢のプレーオフ逸”もありえない話ではなくなってきている。

 そんな悲劇のシナリオを避けるべく、今後の田中には”投手陣の柱”らしい活躍が求められる。強豪チームをきりきり舞いさせた昨年のポストシーズンのような投球を、今年はより早い時期から披露しなければならない。

 チームの明暗を分ける右腕の調子を測るバロメーターは、スプリットの切れ味だけではない。ベテランスカウトの指摘どおり、今後は真っ直ぐの球威にも要注目だ。

著者:杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke


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