谷繁元信VS大阪桐蔭。「吉田輝星がふたりいれば抑えられるかも」

谷繁元信VS大阪桐蔭。「吉田輝星がふたりいれば抑えられるかも」

◆谷繁元信が見た甲子園・後編

 プロ野球で27年間現役を続け、歴代最多の3021試合に出場した名捕手・谷繁元信は、キャッチャーという激務をこなしながら2000本安打を達成した好打者でもあった。プロ1年目から引退するまで27年連続でホームラン(プロ野球記録)を放っている。

 そんな谷繁の目に、2018年の高校野球を席巻した大阪桐蔭はどう映ったのか。

――チーム打率3割2分8厘、本塁打8本を放った大阪桐蔭打線が、決勝で好投手の吉田輝星(こうせい・金足農業)を打ち崩して春夏連覇を果たしました。根尾昴(あきら)、藤原恭大(きょうた)など左の好打者に注目が集まりましたが、谷繁さんの目に留まったバッターは誰ですか?

谷繁 やはり大阪桐蔭の根尾、藤原、それと中川(卓也)ですね。”二刀流”に注目が集まっている根尾は「ピッチャーではなくショートで育てたい」と、プロ野球関係者なら思うはず。あとは、報徳学園の小園海斗(かいと)も欲しい選手でしょうね。どの球団もショートを守れる人材が少ないですから。

――確かに、根尾、藤原、小園を今秋のドラフト1位候補に推す声が多いですね。

谷繁 プロに入ってすぐ戦力になるかどうかはわかりませんが、将来的な可能性をものすごく感じる選手たちです。根尾のバッティングに関しては、インコースの甘めのボールが得意で、うまくさばける。でも、アウトコースにしっかり決められるとまだ少し厳しい。

 今夏の甲子園でホームランにしたのも、ベルトより少し高いボールが多かった。まだ体の軸で打てていないので、どうしても前に(ピッチャー寄りに)出て反動で打つところがある。そういうとこが課題でしょうね。現状なら、サードの中川のほうがいいバッティングをしています。彼の打ち方であれば、さまざまなボールに対応できます。

――プロで一人前のショートになるのには時間がかかると思いますが。

谷繁 それでも、根尾にはショートで勝負してほしい。プロが求めるショートのレベルが高いのは事実。内野のなかで守備範囲が一番広いし、フットワークもハンドリングも必要で、頭もよくないといけない。それらをすべて兼ね備えている選手じゃないと。

 一軍で戦力になるのは簡単ではありませんが、根尾は頭もよさそうだし、スローイングの安定性がある。変なクセがなくて、身のこなしがいい。ピッチャーとしてもあれだけのボールを投げますしね。プロの打球のスピードにさえ慣れれば、十分通用すると思います。

――プロになれば毎日が試合の生活になるので、体力も必要ですね。

谷繁 プロの選手は1年間ずっと試合に出続けなきゃいけないので、もちろん体力がないともたない。僕がレギュラーとして試合に出るようになったシーズンも、疲労はすごかったですよ。プロはケガをしないで何年もいい結果を出し続けないといけない。体と心の両方を鍛えながら、同時に技術も磨いていく必要があります。

――藤原のバッティングはどう評価していますか?

谷繁 彼の課題も根尾に似ています。外角の緩い変化球で打ち取られる場面もありましたが、どんなにいいバッターでもすべてのボールを打てるわけじゃない。弱点があるのは当たり前。大切なのは、自分が得意なボールをミスなく仕留められるかどうかです。

 そのいい例が、読売ジャイアンツの岡本和真です。彼はもともと自分の”ツボ”を持っていたけど、プロのピッチャーのスピードやキレに対応できず、ミスをして追い込まれていた。それが今年は、得意なボールを確実に打てるようになったため、好成績を残すことができています(9月10日現在、打率3割1分6厘、30本塁打)。プロのピッチャーに慣れるまでには、どんなバッターにも時間が必要です。でも、高校3年生の時点であれだけバットを振れるのはすごい。そこは評価したいですね。

――優勝した大阪桐蔭では、クリーンアップの中川、藤原、根尾だけではなく、一番の宮崎仁斗(じんと)、二番の青地斗舞(とうま)などもいい働きをしました。

谷繁 よくぞここまでいい選手を集めたなと思います。高校レベルでは反則じゃないかと思うくらい(笑)。彼らに勝とうと思ったら、万全の状態の吉田で勝負するしかない。それも、大会の雰囲気に慣れる前の1回戦で当たりたいですね。今年の大会でも、ベスト8に入れる力のあるチームが1、2回戦で当たっていたら・・・・・・結果は違っていたかもしれない。

――谷繁さんが甲子園で大阪桐蔭と対戦するとしたら、どう戦いますか?

谷繁 1回戦で大阪桐蔭と当たるように、キャプテンに「大阪桐蔭を引いてこい」とプレッシャーをかけます(笑)。「組み合わせ抽選に全神経を集中しろ」と。先のことは考えないで、1回戦でぶつかって全力で倒すしかない。大阪桐蔭の選手たちが2、3試合して状態を上げたところで対戦したら、勝つ確率は低くなる。まだ相手が探り探りやっているところで”番狂わせ”を狙うしかないですね。

 僕なら、大阪桐蔭のデータをとって、相手が「嫌だ」と思うくらい徹底して弱いところを攻め続けます。たとえば、藤原の弱点がアウトコースの変化球だとするならば、そこばかり攻めて意識させておいてから違うボールで勝負する。それでも、やられそうな気がするなあ(笑)。

 そういう攻め方をするためには、ピッチャーにある程度の力が必要なんです。130キロそこそこのボールでは攻めきれない。序盤はよくても、3回り目、4回り目には通用しなくなってしまいますから。吉田のようなエース級をふたり用意することができればいいんだけど。

――そうなると、単独チームでは太刀打ちできませんね。そのくらい今年の大阪桐蔭が強かったということですか。

谷繁 高校生レベルで考えたら、今年はそうですね。彼らのレベルは本当に高かった。クリーンナップを抑えても、6番、7番が打つ。下位や1、2番がチャンスを作ってクリーンアップが返す。脇役や控えの選手も含め、チーム力が突出していましたね。(取材協力:寺崎江月)

著者:元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro


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