ロベカルがプレゼントした一時的熱狂。Fリーグは無策で無駄にするな

ロベカルがプレゼントした一時的熱狂。Fリーグは無策で無駄にするな

 8月上旬、Fリーグは公式ホームページで「8月17日に重大発表をする」と、異例の声明を発表した。

 Fリーグができて12年。2016年には日本代表がフットサルW杯出場を逃したこともあって、リーグは集客力を落としており、業界は明らかにシュリンクしている。そんななか、何が発表されるのか――。

 不安と期待が渦巻くなか、17日当日に発表されたのは、レアル・マドリードで活躍し、2002年日韓W杯で世界一にも輝いた元サッカーブラジル代表DFロベルト・カルロスのFリーグ参戦だった。しかも、9月8日に行なわれるエキシビションマッチのみならず、翌9日にはFリーグ選抜の一員として1試合限定で「現役復帰」し、公式戦に出場するというのだ。

 当然、発表と同時に、賛否の声が挙がった。

 おそらく、エキシビションマッチだけの出場であれば、「否」の声は、ほとんど挙がらなかっただろう。アジアでトップレベルの競技力がある日本のフットサルだが、今季のFリーグは観客数が1000人を下回る試合が当たり前のようにある。アリーナでプレーする選手たちは観客数の減少を強く実感しているし、何か起爆剤となるようなことが求められていたからだ。世界に名を轟かすサッカーのスタープレーヤーのFリーグ参戦は、これまでフットサルを見ていなかった人たちの関心を集める可能性が十分にあった。

 Fリーグは2012年2月にも、サッカーのスーパースターの力を借りている。現在も横浜FCでプレーする元日本代表FW三浦知良が1試合限定でFリーグに参戦し、エスポラーダ北海道の一員として府中アスレティックFC戦に出場。チームを勝利に導いた。そのときに記録された「5368名」という観客動員数は、現在もFリーグのホーム&アウェーの試合では最多動員記録となっている。

 ただし、カズのFリーグ参戦と今回とでは、大きく意味合いが違った。現役選手だったカズに対し、日本国内でも「ロベカル」の愛称で親しまれるスーパースターは6年も前に現役を引退しているからだ。

 45歳になって体型もふくよかになった元トップアスリートを、真剣にフットサルに打ち込んでいる人々が集まっているリーグ戦の公式戦に出場させることは、リーグを軽んじることになるのではないか。そして、もし活躍しても、「やっぱりフットサルは、サッカーを続けられなかった選手がやるものだ。だから引退したサッカー選手でもフットサルならすぐに活躍できる」という声が強まるのではないか。

 一時的に盛り上がったとしても、フットサルにマイナスの影響が残ることが懸念された。

 日ごろからフットサルに関わっている人の間では、そうした声が多かった。ただその一方、「ロベカルの現役復帰」は、一般には好意的に受け止められた。普段は取り上げられることがない「Yahoo!トピックス」にも取り上げられ、SNSを中心に「ロベカルの現役復帰、熱い!」「悪魔の左足を見に行きたい!」「FKの壁に入る選手は危険じゃないか?」といった声が挙がった。

 そうしたメディアや一般の人たちの反応を目の当たりにしてからは、選手たちの間でも徐々に今回のリーグの試みをポジティブに捉える声が挙がり始めていった。

 そして迎えた9月6日、ロベルト・カルロスが来日した。空港での囲み取材に応じたロベルト・カルロスは、第一声で「盛大な大会に呼んでもらえて、非常にうれしいです」と喜びを語った。そして「フットサルが得意だという私のプレーを見に大阪に来てください。間違いなく、ストロングキックはお見せします。今は悪魔の左足ではなく、悪魔の右足です」と冗談交じりに話し、自らのスマートフォンでメディアを撮影するなど上機嫌だった。

 翌7日には、試合会場となる丸善インテックアリーナ大阪で軽く汗を流し、8日のエキシビションマッチを迎えた。前半はFリーグでプレーする現役外国籍選手や元サッカー日本代表DF加地亮氏、元Jリーガーの近藤岳登氏とともに、「Abema TV DREAMS」の一員としてプレー。先制ゴールを許すと、その直後に左足で挨拶代わりのゴールを決めて、試合を振り出しに戻す。

 圧巻は前半7分、ディフェンダーの寄せが甘くなった場面で左足を振り抜くと、強烈なシュートが相手ゴールに突き刺さった。このときゴールを守っていたのは、現役FリーガーであるGK石黒紘久(ひろひさ/アグレミーナ浜松)だった。

 この失点の前に直接FKを止めていた石黒だったが、「1本目のFKを止めたことで、2本目はトゥーキックで本気を出してきましたね。体重が乗ると、ボールが速い。イメージしていたより、速かったですよ。コンスタントにあのキックが蹴れるとしたら、すごいですよ。エキシビションとはいえ、無失点にするつもりで守っていたんですけどね」と、悪魔の左足に舌を巻いた。

 ロベルト・カルロスは後半、ユニフォームを着替えて、FリーグOBを中心とする「F.LEAGUE DREAMS」の一員としてプレー。こちらでも第2PKを決めるなど2得点を挙げる活躍を見せて、4−3の勝利に貢献した。

 試合後には「非常に楽しかったです」と笑顔を見せたが、翌日の公式戦出場について聞かれると、「今日は楽しむ試合でしたが、明日は勝ち点がかかった試合です。チームが勝つために、会場が満員になるように、みなさんご協力お願いします」と、勝利を目指す気持ちを言葉にし、集客を呼びかけた。

「現役復帰」当日、ロベルト・カルロスが加わるFリーグ選抜と、ヴォスクオーレ仙台の試合には、3015人の観衆が集まった。前日のエキシビションとは異なる張り詰めた公式戦の舞台で、現役時代に数々のタイトルを獲得してきたロベルト・カルロスが魅せた。スピードは決して速くなく、フットサルの基本的な動き方もできていない。それでも、周囲を気遣いながら少ないタッチ数でプレーし、そのキックのうまさは際立っていた。

 両チームにチャンスがありながらも、なかなかゴールが決まらない展開のなか、前半16分にFP(フィールドプレーヤー)齋藤日向(ひゅうが)のパスを胸で受けると、ボールをコントロールして左足でシュート。これがGK鈴木紳一朗の股を抜きゴールが決まると、会場は大盛り上がり。だが、見せ場はこれだけにとどまらなかった。

 前半終了間際、日本代表候補のFP堀内迪弥(みちや)に同点ゴールを許したFリーグ選抜は、後半もチャンスはつくるものの、なかなかゴールを挙げられない。だが後半9分、ロベルト・カルロスがふたたびピッチに立つと、その約2分後だった。

 自陣からボールを運んだロベルト・カルロスは、左サイドにアウトサイドでパス。「練習からアウトサイドで強いボールを蹴っていたから、みんなで『ああいうパスが来るぞ』と話していた」というFP北野聖夜がパスを受けて、縦に仕掛ける。深いエリアから浮き球をゴール前に折り返すと、そこに飛び込んだのがロベルト・カルロスだった。利き足とは逆の右足で合わせると、ボールはゴールに突き刺さった。空港での宣言どおり、「悪魔の右足」での一発に会場のボルテージは最高潮に達した。

 Fリーグ選抜は、このロベルト・カルロスの2ゴールで2−1と勝利し、エスポラーダ北海道とヴォスクオーレ仙台を上回って8位に浮上。さらに45歳のロベルト・カルロスのゴールは、これまで甲斐修侍が持っていた44歳109日のFリーグ最年長ゴール記録を更新して、歴史に刻まれることとなった。

 圧巻の決定力を示したロベルト・カルロスは、右足でのゴールが26年間のキャリアでふたつ目となるレアなゴールだったことを明かし、「強度、集中力、モチベーションの高いゲームのなかで、ゴールを決められたので幸せでいっぱいです」と喜んだ。その活躍ぶりは、ふたたびYahoo!のトップにも掲載されるなど大きなニュースとなった。

 また、キャプテンの三笠貴史が「僕らや高橋(優介)監督に対しても、すごくリスペクトをもって接してくれましたし、勝者のメンタリティをすごく感じました。スーパースターだから特別という感じはなく、いつもチームにいるような感覚で、世界一の選手はそういう選手なんだと肌で感じられました」と話すように、1試合限定ながらチームメイトとしてロベルト・カルロスとともにプレーしたFリーグ選抜の面々が受けた刺激も大きかった。

 ロベルト・カルロスの大活躍により、祭りの現場はひとまず成功に終わったといえるだろう。だが、祭りの後もFリーグは、フットサルは続く。

 この試合の後に行なわれた第4試合のシュライカー大阪vs立川・府中アスレティックFC戦、第5試合の北海道vsペスカドーラ町田の試合の観客数は、それぞれ1472人、658人だった。試合の順番は正しかったのか。そもそもロベルト・カルロスを招聘した目的は何であり、費用対効果はどうだったのか。今後も年に一度はこうしたイベントを続けるべきなのか。そうした検証は、現場の雰囲気や空気に流されずに、しっかりとするべきだ。

 Fリーグ選抜が仙台戦に臨む前、高橋監督は「世界一の選手を、敗者として帰らせるわけにはいかない!」と、選手たちに呼びかけたという。今後は関係者も「世界一の選手がプレーしたリーグを、このまま衰退させていくわけにはいかない」という意識を持ち、「Fリーグでプレーしたい!」と逆オファーが来るようなリーグにするくらいの気概で取り組む必要がある。

 ロベルト・カルロスは、記憶にも記録にも多くを残してくれた。「Fリーグ」という言葉を普段以上に多くの人々が認識した今、彼の招聘が本当に成功だったのか、失敗だったのかを決めるのは、今後の取り組み次第だ。

著者:河合拓●取材・文・撮影 text & photo by Kawai Taku


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