常勝より成長を選んで正解。大谷翔平は「一刀流」でもドキドキさせる

常勝より成長を選んで正解。大谷翔平は「一刀流」でもドキドキさせる

 2018年のMLBシーズンも終盤に入り、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平が打者としての”本領発揮”を感じさせるペースで打ち続けている。

 9月10日(日本時間11日)まで8試合連続でヒットを放ち、その間は打率4割4分8厘(29打数13安打)。3日〜9日までの1週間では打率4割7分4厘、4本塁打、10打点の成績を残し、自身2度目のア・リーグ週間MVPに輝いた。

 再び右肘靭帯の不安が発覚した直後の9月5日に17号、18号ホームランを放って周囲の度肝を抜くと、7日には19号と量産体制に突入。今季はまだ約20戦を残しているが、すでに松井秀喜、城島健司を抜き、日本人の1年目として最多のホームランを記録したことも話題になっている。

 また、ただ打つだけでなく、ベースランニングのレベルの高さも示してきた。9月9日のシカゴ・ホワイトソックス戦では8回に右中間にヒットを放つと、果敢な走塁で二塁をおとしいれるスピードとセンスのよさを示した。その後、2死からの三盗こそ失敗したものの、投打だけでなく走力のレベルも高いことに、シカゴのファンは感心したことだろう。

「彼は大丈夫。走塁に問題を抱えていなかった。あの三盗では(相手捕手の)送球がよかっただけ。求めていた結果は得られなかったが、その直前の二塁打でも、彼はとてもよく走っていた」

 前日のゲーム中に、ホームでの接触プレーで右足を痛めていたことが心配されたが、エンジェルスのマイク・ソーシア監督は軽症を強調していた。実際に10日のレンジャーズ戦でも三盗に成功し、周囲の不安を一蹴した。

 この規格外のルーキーに、ソーシア監督は”グリーンライト(いつでも盗塁を試みていい許可)”を与えているという。つまりスピードだけでなく、状況判断力も信頼されているということ。今さらだが、本当にとてつもない能力を秘めた24歳である。

 これほど打者としての能力が高いのだから、「打者に集中した方がいい」という声が出てくるのも当然に思える。

 開幕前後の一部の評価に反し、少なくとも現状での大谷は投手としてよりも打者としての完成度が高い。打撃練習でファンの度肝を抜く圧巻のパワーだけでなく、適応能力も抜群。オープン戦での絶不調からすぐに脱し、最近では苦手としていた左投手も克服し始めている。

 100マイルを投げる投手は今では少なくないが、攻撃面で大谷ほどのポテンシャルを備えた選手は他に思い浮かばない。筆者個人としても、大谷はフルシーズンで打者として出場すれば、メジャーでも50本塁打以上を打つことも可能だと見ている。そして、その潜在能力をもっとも早く開花させる最善の方法は、やはり打者に専念することだろう。

「シーズンを通じたアジャストメントが実っているのと同時に、やはりコンスタントに打席に立っていることが現在の好調の要因なのだろう。長いシーズンの中で投打両方の準備を継続する難しさは並大抵ではない。少なくとも現時点では、打者に専念したほうが数字が上がるのは当然だ」

 メジャーのベテランスカウトに大谷の好調の理由を尋ねると、そんなシンプルな答えが返ってきた。右肘のケガのおかげで投手としての負荷がなくなり、指名打者(DH)での出場が多かったアルバート・プホルス一塁手が故障離脱したことで、今ではDH専属でほぼ全試合に出れるようになった。走塁まで含め、今季のベストパフォーマンスを見せているのは偶然ではないはずだ。

 そもそも投手を兼任していた頃なら、右足を軽く痛めていた9日の試合は確実に休養が命じられていたに違いない。出場したとしても、カモシカのような足を生かしたベースランニングは見られなかったはず。しかし、打つだけの”一刀流”にすれば必要以上の制限はかからない。ファンも、大谷のスケールの大きな打撃、走塁(&守備)を、ほぼ毎試合で見ることもできるのだ。

 ただ……これだけ述べてきて逆説的に思えるかもしれないが、「大谷は打撃だけに専念すべきだ」と主張したいわけではない。それだけ、”二刀流”の魅力は誰にも否定しがたい。9日のゲーム前、ホワイトソックスのリック・レンテリア監督が残した次のようなコメントは、多くのベースボールファンの思いを代弁しているようにも思えてくる。

「ベースボールファンなら誰でも、彼のようにエキサイティングな選手を見てみたいと思うはずだ。いずれ腕のケガから回復したとき、彼ほど多くのことができる選手は興味深い。打てて、走れて、投げることもできる。両方をこなせるというとてもユニークなスキルを持っている。今後、彼がどうなっていくかは、いずれ明らかになるだろう」

 プロの条件とは、ファンを喜ばせられること。最上級のスポーツ・エンターテイメント・ビジネスであるMLBにおいても、現状、大谷ほどファンを惹きつけられる選手は存在しない。シーズン後にトミー・ジョン手術を受けると仮定して、打者に専念することになる来季にどんな成果を叩き出すかも興味深い。そして、”二刀流”への挑戦が再開されるはずの2020年、大谷の一挙一動に、再び全米のファンの視線がクギ付けになるのだろう。

 いずれ体ができて、スキルがさらに研ぎ澄まされた際には、それほど起用法に慎重にならずとも”二刀流”を実行できる日が来るかもしれない。そんな大谷の完成形は、メジャーでも比較対象のない史上最高のプレーヤーではないか。だとすれば、故障のリスクがつきまとい、前述したような打撃面のポテンシャルが停滞する可能性はあっても、前人未到を追い求める”アドベンチャー”をやめるべきだとは、やはり思えないのである。

 今後がどうなっていくかの予想は難しいが、現時点ではっきりしているのは2つ。まず第1に、自身の成長に主眼をおけば、大谷は間違いなく適切な所属チームを選んだということ。1年前にはヤンキース行きが確定事項のように語られていたが、「常勝」が義務づけられたチームであれば育成は難しくなっていたはずだ。温暖な気候下で、目先の勝利へのプレッシャーが強いとはいえないエンゼルスは、金の卵を大事に育てるにはベストに近いチームである。

 そしてもうひとつは、今後もその起用法、処遇に対する議論はさまざまな形で続いていくだろうということだ。喧騒が収まることはない。メジャーのすべてのファン、関係者にとって、”大谷翔平をめぐる冒険”はまだ始まったばかり。これから先も、おそらくは10年以上も、日本が生んだ怪物は米球界の話題の中心であり続けるに違いない。

杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke


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