アンジェvs.ミシャ。J1最上級のスペクタクル対決の戦術を分析する

アンジェvs.ミシャ。J1最上級のスペクタクル対決の戦術を分析する

 エンターテインメントとパーフェクション──。雨の日産スタジアムで行なわれた横浜F・マリノス対コンサドーレ札幌戦を観ながら、そんなことを考えた。

 娯楽性に富む試合だった。就任1年目、外国籍、元代表選手、ポゼッションスタイルの信奉者と、共通項の多い両指揮官に率いられたチームは開始からずっと意識が前に向いていた。

 たっぷりと水を含んだピッチをものともせず、どちらも自陣の低い位置からグラウンダーのパスをつなぎ、相手ゴールを目指していく。GKでさえもフェイントを交えて敵の裏をかき、全員が少ないタッチでボールを回し、しかるべき場面では勝負を挑む。これが片方のチームだけではないのだから、観ている者はつい声を発し、体を乗り出すことになる。


 最初にリズムをつかんだのは、アンジェ・ポステコグルー監督が指揮するホームの横浜だ。ポゼッションの際にSBが中央に入り、ボールの保持率を高める。ワイドに張って幅をつくるのはウイングの役割で、中央のSBやボランチからサイドに展開されると攻略が始まる。

 ペップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ)の手法から着想を得ているはずのドラスティックな戦術は当初、志の高さとは裏腹に、粗が目立つことが多かった。しかしこの日は、人の移動もボールの流れもスムーズで、完成度の高まりを感じさせた。ここまで2連勝。それは数字にも表れている。

 ところが、先手を取ったのはアウェーの札幌だった。「相手が横幅を広く使ってくるのはわかっていたので、4枚で対応しようと考えた」と試合後に話したミハイロ・ペトロビッチ監督は、主力(都倉賢、宮澤裕樹、福森晃斗)の出場停止もあり、今季初めて4バックで試合をスタート。ただし、レフトバックの菅大輝が頻繁にオーバーラップを仕掛ける変則的なもので、普段のシステムである3−4−2−1とさほど変わらない。横浜の攻撃をタフに受け止め、左から反撃に転じる形で徐々にリズムを取り戻していった。

 15分にジェイ、17分にチャナティップがネットを揺らしながら、どちらもオフサイドの判定でノーゴール(後者はオフサイドポジションのジェイがボールを避けたにも関わらず、GKの邪魔をしたと判断された。試合後、ミシャとジェイは「(審判の判定に意見するのは)日本ではタブーとされている」とこの場面に関する見解を控えた)。


 さらに19分にはジェイが菅のクロスから決定機を迎え、ここは相手のブロックに阻まれたが、その2分後にジェイが先制点を奪う。中盤で天野純から激しくボールを奪った荒野拓馬がすぐさま縦パスを送ると、受けたジェイが右から斜めにドリブルを仕掛け、対面する敵をカットインで外して巻いたシュートをファーサイドのゴール下隅に収めた。

 札幌が鮮やかな個人技で先制すると、対する横浜は手数をかけた攻撃で同点に追いつく。「(先に)失点したけど、何も変える必要はない。そのままやっていけば、絶対に勝てると信じていた」と天野が振り返るように、先制された2分後に左サイドのスローインからポゼッションを開始。そこから9本のショートパスをつないで、最後は仲川輝人が軽やかなステップで敵をかわして同点ゴールを決めた。

 42分の逆転ゴールは、それよりも多い11本のグラウンダーのパスがつながって生まれたものだ。中盤でマイボールにするといったんCBに渡し、中央で右SBが受けて外へ展開。細かいパス交換で左前にポイントをつくり、自信満々に味方を追い越したSB山中亮輔へ天野が絶妙のスルーパスを通して、そこからの折り返しを最後はニアサイドでウーゴ・ヴィエイラが押し込んだ。見事な崩しが結実したすばらしいゴールだった。

 結局、スコアはそれ以上動かなかったが、最後までチャンスの多い充実した内容の試合だった。敗れた札幌にも、光るプレーは随所に見られた。特にチャナティップとジェイの凸凹コンビは、現在のJリーグでも屈指の助っ人アタッカーデュオと言える。その周囲を固めるのが主に札幌のアカデミー出身者だというのもいい。この日の結果には運も多分に含まれる。勝利とその先にあるACL出場権の獲得を願って、遠方から駆けつけた多くのサポーターも、落胆しただけではなかったはずだ。

 試合後の会見で、札幌の指揮官ミシャは上機嫌だった。直前の結果はともかく、就任1年目のチームで自らが為していることに手応えをつかんでいるからだろう。

「自分のミッションはチームを継続的に成長させていくこと。そのために生え抜きの若手を多く使っているが、やるべきことはまだまだ多い」と赤ら顔をほころばせながら話し、最後は多くの記者たちと抱擁や握手を交わしていた。

 アンジェとミシャという特徴的な監督が今季から統率する両チームは、まだどちらも成長過程にある。天野が考える横浜の課題は「中央の崩し」で、ジェイが見る札幌の修正点は「落ち着きと自信」だ。

 ただ、どちらも確実に戦術の練度は上がっており、それが結果だけでなく、試合のスペクタクルにもつながっている。両者が目指すのは3位以上、ACL出場権だ。完成度の高まりを感じさせるこの2チームが、混戦模様のJ1終盤戦をかき回すかもしれない。

著者:井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato


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