高橋由伸が辞任。名コーチが語る長期政権の難しさと監督の消費期限

高橋由伸が辞任。名コーチが語る長期政権の難しさと監督の消費期限

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」
連載●第29回

 プロ野球にとっての10月は、クライマックスシリーズ、日本シリーズといったポストシーズンが佳境を迎えるが、その一方で来季に向けた人事のシーズンでもある。先日、巨人の高橋由伸監督が辞任し、オリックスの福良淳一監督も今シーズン限りで監督を辞めると発表した。また、シーズン途中には楽天の梨田昌孝監督も休養し退団。このほかにも去就に注目が集まっている指揮官はいるが、いずれにしても監督という職業はシビアなものだ。

 その監督という仕事を、選手やコーチはどのように見ているのか。あえて「監督の消費期限」というものがあるなら、果たしてどのくらいのものなのか。選手、コーチとして50年以上もプロ野球の世界に携わってきた伊勢孝夫氏に「監督の消費期限」について語ってもらった。

* * *

 消費期限――すいぶんと思い切った表現だが、しかし、どんな監督でも「そろそろ限界だな」と感じることはあった。よく私は、ヤクルト時代のノムさん(野村克也氏)をたとえ話に出させてもらっている。もちろん感謝もしているし、尊敬もしているが、「あぁ、そろそろかな……」と思うことはあった。これはノムさん個人の問題というより、監督という仕事、立場の構造的な問題ということだ。

 先程、消費期限と言ったが、その中身は監督としての求心力である。それがどれだけ持続するかどうかが問題なのだ。不思議なもので、これは勝敗や順位に必ずしも比例するものではない。もちろん負けが込み、チームが低迷すれば監督の求心力は落ちやすい。だが、勝っていてもそうなる場合はあるし、逆に負けていても選手がついてくることがある。

 これはチームの体質や監督の置かれた立場にもよるから一概に言えることではないが、ただ求心力を失った監督のチームは、落ちていくのが早い。

 では、野球界における求心力とはなにか。選手の立場からすれば「勝たせてくれる監督かどうか」のひと言に尽きる。現金なものだが、選手にとっての監督の基準はそこにある。

 プロ野球といえども、監督は絶対的な存在だ。なにより選手起用において、すべての権限を持っている。正直な話、人柄などは二の次だ。どんなに評判が悪くても、チームを勝たせられる監督なら選手は嫌々でもついてくる。逆にどれだけ人格者でも、チームが低迷し、浮上させられなかったら選手の気持ちは離れていく。

 で、その消費期限だが、私が思うに”3年”というのがひとつの目安になると思う。1年目は選手も「この人はどんな人なのか?」と、性格のみならず監督の目指す野球を見定める。それは監督も同じで、選手がどんな性格なのか、どんなタイプなのか把握するにはそれ相応の時間がかかる。それで1年が過ぎてしまうこともある。内部昇格の監督ならこうした時間は省けるが、外部から招いた場合、どうしてもお互いを知るのに時間を要してしまう。

 そしてなにより結果だ。1年目のシーズン、そこそこの結果で終わればよし。しかしBクラスに終わった場合、2年目のハードルは一気に高くなる。その2年目も満足な結果で終わらなければ、3年目は正念場となる。

 たとえば2年続けてBクラスとなると、3年目の春の時点で選手たちは「この監督で勝てるのか……」と値踏みし始めるわけだ。そうなると監督の立場は微妙だ。これは試合前のベンチからして空気がわかるものだ。「なめている」といったら乱暴な言い方だが、実際の話、勝てないチームになればなるほど、選手は監督をなめるようになる。空中分解の第一歩である。

 それはコーチも同じで、本来なら一蓮托生のはずだが、負けが込んでくると監督とコーチとの間に距離ができてくる。ひどい時は、「今の監督は来年がないから、今のうちに次の就職先(チーム)を探さなきゃ」と、平然と言うコーチもいる。

 余談だが、今年の春頃、巨人の取材でグラウンドを訪れた時、「あるコーチが前任の原(辰徳)監督と高橋(由伸)監督を比較して、よからぬことをもらしている」といった噂を耳にした。これでは高橋監督もやりにくいはずだし、求心力が落ちているなによりの証拠である。

 だから監督は1年目から勝負に出なくてはならない。かつて西武で指揮をとった伊東勤監督や渡辺久信監督などは、1年目でいきなり優勝してみせた。当然のことながら、選手の力によるところは大きいが、監督の起用がズバズバ当たり勝つようになってくると、「この監督だったら勝てるぞ」と選手たちは乗ってくる。その結果、優勝すれば、監督の求心力は最低でも2年は維持できる。

 とはいえ、連覇するのは簡単なことではない。だから、広島の緒方孝市監督がどの程度、チームを統率できているのかわからないが、少なくとも「勝てているから維持できている」のは間違いない。

 かつてヤクルト監督時代のノムさんも、最初に就任した1990年は5位だったが、翌年は3位になり、3年目に優勝し、翌年連覇を達成した。おそらくこの時が求心力もピークだったはずだ。

 その後、4位と優勝を繰り返したが、この頃になると評価は定まっているし、チームとしてもマンネリ化状態になる。同じ監督ならやることも変わらないし、ミーティングで言うことも決まってくる。

 それがいかに大事なことでも、選手に響かなくなる。これは先程も言ったが、ノムさん個人というより、組織の限界ということなのだろう。そうしたチームを変えるには、やはり監督を変えるしかない。

 ノムさんは4位となった98年を最後に、ヤクルトを退団。その後、阪神の監督となったわけだが、結局ヤクルトでは9年間指揮をとった。いま思えば、よくこれだけ続いたと思う。

 同じチームで長く指揮をとるというのは、本当に難しいことだが、求心力を失わないための必須条件とは何か。

 私が思うに、「ぶれないこと」が第一だと思う。戦い方、方針もそうだし、選手と接しているなかでの言動もそうだ。言葉にすると簡単だが、これを貫くのは容易なことではない。だが監督がぶれなければ、チームの結束は保てる。

 言い換えれば、負けていくチームというのは、根底に監督の「ぶれ」がある。チームがどんな状況に置かれても、自分の野球を貫き、いつも通り選手に接することができるか。「ぶれない」ことが、監督になる人にとってもっとも重要な資質なのだと思う。

著者:木村公一●文 text by Kimura Koichi


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