徹底検証。トロロッソ・ホンダはなぜ日本GP決勝で沈んだのか

徹底検証。トロロッソ・ホンダはなぜ日本GP決勝で沈んだのか

 鈴鹿のグリッド3列目と4列目に並んだトロロッソ・ホンダの真っ青なマシンは、大勢のファンが詰めかけたグランドスタンドをバックに、どこか誇らしげに見えた。前には5台のマシンしかいない。先頭までの距離はほんのわずかでしかなく、下り坂の先にある1〜2コーナーも近くに見える。

 自己最高の6番グリッドに着いたブレンドン・ハートレイは、いつもよりもやや緊張しているようだった。フィジオセラピストが努めて笑顔で話しかけ、その緊張をほぐそうとしているのがわかる。

「決勝は1周目がとても重要になるだろう。今年これまでに僕は、自分自身ではどうすることもできなかったとはいえ、何度もショッキングな1周目を経験してきているしね(苦笑)。ここはオーバーテイクが難しいサーキットだから、正しい戦略を選ぶことができれば、2台揃ってトップ10でフィニッシュするのはそんなに難しいことではないと思う」

 予選を終えて上機嫌だったハートレイはそう語っていた。

 しかし、その言葉が的中したかのようにスタートで出遅れ、ポジションを落としてしまった。シグナル消灯の瞬間の反応と蹴り出しはよかった。ところが、その先でクラッチを完全につないだところでホイールスピンを喫し、その間に次々と抜かれてしまった。

「スタートに向けた手順は悪くなかったと思う。何か間違ったことをした覚えもない。それなのに、あんなにホイールスピンするなんて。僕はオフライン側のグリッドで、グリップがすごくプアだったから、ひどくホイールスピンさせてしまったんだ。これからエンジニアとデータを詳細にチェックする必要がある。

 いずれにしても、あれでリアタイヤがひどくオーバーヒートしてしまった。ピレリタイヤは温度にすごくセンシティブだから、ターン2までに3、4つはポジションを失ってしまったし、最初の5、6周はかなりトラクションが厳しかった。ようやく適正温度に戻せたのは、第1スティントの終盤になってからだったよ」

 トロロッソ・ホンダのレース戦略は、少しずつ綻(ほころ)びを見せ始めていた。

 ピエール・ガスリーは7番手にとどまって前のハースに着いていく好走を見せていたが、ハートレイが後退したことが戦略の幅を縮めていた。恐れていたのは、後ろを走るフォースインディアの2台の存在だ。

 セルジオ・ペレスが24周目、エステバン・オコンが26周目にピットインするが、トロロッソはガスリーを走らせ続けた。ペレスが先にピットインしてアンダーカットを仕掛けてきたが、もしすぐにこれに反応してピットインしペレスの前で戻ったとしても、今度はオコンがオーバーカットを仕掛けてガスリーは逆転されていたはずだ。2対1の戦いは圧倒的不利だった。

 チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルスは語る。

「フォースインディアの1台がピットインした時点で、ピットインしてカバーしようかどうかという話はあった。でも、1台がアンダーカットを仕掛けたのち、もう1台がオーバーカットを仕掛けてくるのは明らかだったから、あそこでピットインしても1台には抜かれる可能性が高かった」

 ガスリーを引っ張らせたもうひとつの理由は、後方のトラフィックだ。

 早い段階でピットインすれば、遅いクルマの後ろでコースに戻ることになり、抜きにくい鈴鹿ではタイムロスを強いられる。それを恐れて、後方との間にピットストップ1回分のギャップができるまで粘っていたのだ。

「コース上でのオーバーテイクは難しいという大前提があったから、トラフィックのなかに戻るようなタイミングでピットストップはしたくなかったんだ。だから我々は、第1スティントをあれだけ引っ張ることにした。

 ヒュルケンベルグ(ルノー)のペースが落ちて、後続を抑え込んで我々との間にギャップを広げてくれれば(その前でコース復帰できる)と期待してステイアウトしたんだけど、彼はザウバー勢に抜かれてしまった。さらに、フォースインディア勢はトラフィックを抜いてきて、彼らにアンダーカットを許すことになってしまった」(エドルス)

 フォースインディアの松崎淳エンジニアは、鈴鹿ではタイヤのデグラデーション(性能低下)が大きいためにトラフィック勢とのペース差は大きく、コース上での追い抜きも可能と見て早々にピットインしたと証言する。しかしトロロッソ・ホンダは、その自信がなかった。フォースインディアとトロロッソ・ホンダでは、コース上での追い抜きに対する自信が違ったのだ。そのせいで、フォースインディアの片方どころか、両方にピットストップで逆転されてしまった。

「終わってからあれこれ言うのは簡単だけど、ピエールはもう少し早めにピットインすべきだった。ただしフォースインディアは、マシン自体が我々よりも速かった。だから、我々としては為す術(すべ)がなかったし、仕方のないことだ」(エドルス)

 スペック3の威力がもっとしっかりと確認できていれば、「ストレートが遅く抜けない」というSTR13に対する既成概念に囚(とら)われることなく、勇気を持って早めにピットインできていたのかもしれない。それも、フリー走行で十分に走り込むことができなかった影響だ。

 そしてもうひとつの失策が、第2スティントのタイヤマネジメントだった。

 金曜フリー走行より10度も高くなった路面温度に対し、どのチームもブリスター(※)の発生を懸念し、リアタイヤのスライド量や温度に細心の注意を払いながらレースを進め、なんとかブリスターの発生を抑えていた。

※ブリスター=タイヤの温度が上昇し、タイヤ表面が膨れ上がったり気泡ができること。

 しかし、トロロッソ・ホンダの2台はまだ20周も残っている段階からリアタイヤにブリスターが発生し、トレッド面に段差ができてバイブレーションが生じる状態になってしまった。

 それでも、ガスリーはザウバーを抜いて10位を走っていた。しかし、終盤はラップタイムが大幅に低下し、ルノーに抜かれて11位に落ちてしまった。

「かなり早い段階からリアタイヤにひどいブリスターが出てしまって、残り20周はブリスターから来るバイブレーションもひどかったし、最後の10周はどんどん悪化していった。バイブレーションがひどくて、ストレートでさえ前がハッキリ見えないくらいだったんだ。あとはもう最後まで何とか走り切るために、タイヤにかかる負荷や温度を抑えることだけを考えて走っていた」

 これも「タイヤに優しい」というSTR13に対する先入観が招いた失策だったかもしれない。

 フリー走行2回目で燃料タンクトラブルによって時間を大幅に失い、ミディアムタイヤでロングランができなかったため、ミディアムを選択肢に入れられなかったのも痛かった。もしかすると、スペック3になって増大したトルクがリアタイヤに影響を与えたのかもしれないが、それもパワーユニットセットアップ遅れのために十分に確認できていなかった。

 ガスリー自身、第2スティントを走り始めた段階では、ブリスターが出るとは思っていなかったという。

「今週はフリー走行2回目でショートランもロングランもできなかったから、フリー走行3回目に向けてエンジンを思ったように調整できなかったし、本当なら金曜日に見つけられていたかもしれない問題にもフリー走行3回目で直面することになってしまった。そのせいで予選に向けてセッティングも仕上げられなかったし、十分な準備ができなかった。今のF1はクリーンな週末にすることが重要なのに、こんなふうに次々とディレイが発生したことで、それが予選・決勝にも響いてしまった」

 新たなメカニカルセットアップとスペック3の投入によって、トロロッソ・ホンダSTR13は大幅にポテンシャルを進歩させた。しかし、レース週末のひとつのつまずきから生じた遅れが次々と連鎖していき、最後は決勝にまで影響を及ぼしてしまったのだ。

 中団トップの7位から最下位20位まで、極めてタイトな勢力図のなかで争われている今のF1だけに、ほんのわずかな綻びが大きな転落へとつながってしまう。その恐ろしさをまざまざと見せつけられたのが、今回の日本GPだった。

 2台ノーポイントという結果に、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはガックリと肩を落としていた。その一方で、この週末を冷静に見てもいた。

「結果論ではありますが、もっとやりようがあったなと思います。それも含めて、チームの総合力ですね。タイヤのデグラデーションの読みや、他チームが新品に換えたときのタイムの上がり方の読み、そして自分たちの第2スティントのタイヤの使い方ですね。

 とくにガスリー車がFP-2とFP-3で大幅に走行時間を失い、レース前のさまざまなデータを100%すべて揃えきれなかった。結果的にそれが影響し、悪い方向に行ってしまったのがひとつの原因でした。

 それから、レースでの他車との競争に対し、予選結果のポジションを維持する力がまだまだなかった。展開が違っていれば、この結果より上を狙えたはずです。ただ、何かがあれば上に行けるけど、逆に大きく落ちてしまうこともあるわけで、その落差の大きさが今の中団グループの厳しさだと思います」

 温かく熱心な声援を送ってくれた大勢のファンの存在が、ホンダだけでなく、トロロッソのスタッフも含めてトロロッソ・ホンダ全員の力になった。その声援に応えたいという気持ちがあったからこそ、この結果は悔しくて仕方がなかったという。

 しかし間違いなく、トロロッソ・ホンダが一歩成長したレース週末だった。

「大勢のファンの方から声援をいただいて、温かく迎えてくださる方々には感謝の念に堪えません。大きな勇気をいただきました。これほどの応援をいただいて、トロロッソのメンバーも驚くと同時に非常に喜んでいました。

 残念ながら皆さんの期待に応える結果には届きませんでしたし、我々としてもフラストレーションの溜まる結果でしたが、落ち込んでいても仕方ありませんから、次にがんばろうという話をしました。これから先のレースや来年に向けて、やることはたくさんあります。全力を尽くしてこの先も戦っていきますので、そのなかでぜひポイントを獲っていきたいと思っています」

 不完全さは、すなわち伸びしろだ。過去から学び、成長する姿勢こそが何よりも大切であり、その気持ちを忘れず、ひたむきに努力し続ければもっと強くなれる。

 トロロッソ・ホンダが鈴鹿で見せた光と影は、輝く未来の可能性にほかならないのだ。

著者:米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki


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