ヤクルト進撃の裏に早出練習あり。「1年中キャンプ」で力も自信もUP

ヤクルト進撃の裏に早出練習あり。「1年中キャンプ」で力も自信もUP

 10月9日、神宮球場の室内練習場で、ヤクルトの”チーム早出練習”が始まろうとしていた。この日のメンバーは上田剛史、西田明央、田代将太郎、西浦直亨、奥村展征、廣岡大志、塩見泰隆の7人。彼らは1カ所に集まってのティーバッティングを終えると、ネットで仕切られた7つの打撃スペースに各々向かっていった。

「バッティングいきまーす」

 1メニュー5分×7カ所をローテーションで回す打撃練習開始の合図である。

「お前らは1年中キャンプだからな」

 今シーズンからヤクルトの打撃コーチとなった石井琢朗は、若手選手を中心に声をかけ続けてきた。

「これは去年秋の松山キャンプから言っていることです。僕としては、選手たちに1年間を通してバットを振る体力、振りグセをつけたかった。早出練習に参加させているのは、ほぼほぼ控えの選手です。控えにいる選手の底上げは大事なことで、主力が抜けた時に戦力が極端に落ちることは避けたい。結果はまだまだかもしれませんが、今年で終わりじゃないですからね。今後につながっていると思います」

 今年の早出練習は、去年までのものと明らかに様子が違っていた。宮出隆自打撃コーチは「去年までは選手個人で早出をしていて、それも大事なんですけど、今年はチームで動き、それをいい習慣にしていこうとやってきました」と説明し、こう続けた。

「選手たちはしんどかったと思います。でも、苦しい時に踏ん張ることがチーム力にもつながります。その成果というか、試合後に『今日は、素振りはしなくていいよ』と免除しても、バットを振る選手が出てきました。試合後にバットを振らずに帰ると、気持ちが悪くなるような……毎日、歯を磨くような感覚になってくれたらいいと思ってやってきました」

 今年1年、選手たちはどんな風にして汗を流してきたのか。早出練習は基本、試合開始の6時間前に始まるのだが、4月21日はこんな光景だった。早出練習はシーズン初めて室内練習場での早出となり、以降は大学野球、高校野球の関係で”室内早出”がメインとなっていく。この日の参加は10人。2組に分かれての練習となった。

1組目:西浦、奥村、廣岡、山崎晃大朗、大村孟
2組目:鵜久森淳志、井野卓、中村悠平、荒木貴裕、田代

 まず1組目がティーバッティングとソフトボールを使用した連続ティー(20球を5セット)。それが終わると5カ所に分かれてのバッティング練習となる。

 メニューは、宮出コーチが投げるフリー打撃、変化球マシン相手のフリー打撃、石井コーチが投げるショートゲーム(短い距離から投げるバッティング練習)、杉村繁巡回打撃コーチが担当するロングティー、マシン相手に空振りを繰り返す練習の5種類。それぞれ1メニュー5分をローテーションで回す。

 2組目も同じ内容だが、フリー打撃のピッチャーが宮出コーチから宮本慎也ヘッドコーチに代わる。

 ちなみに、石井コーチは「試合に出る主力は早出で量は振らせませんでした」と話したが、この日の早出終了後には、山田哲人、川端慎吾、青木宣親が個人的に早出に参加し、バットを振り込んだ。

 練習時間自体はきわめて短く、5人で回す時は約25分、6人の時は30分、最大の8人の時でも40分。とはいえ、休憩はほとんどなく、ひたすらバットを振り続けるなど、中身は濃い。さらに、この練習を一層ハードにさせたのが、この夏、日本列島を襲った猛暑だった。「外の方がマシだ」と選手たちが口々に言うほど、室内練習場は猛烈な熱気が立ち込めていた。

「まだバットも振っていないのに、もう汗がこんなにすごいです」

 雄平は、玉のような汗が吹き出しているたくましい二の腕を見せて笑った。5月26日から”チーム早出”に参加していた雄平はこう語る。

「僕のなかでは、試合に出場しながら……ということもあったので、ものすごくきつかったですね。この夏は、一度体力を使い果たすぐらいのきつさでした。でもここまで頑張れたのは、(石井)琢朗さんの『いま振っておくことで、それが夏場以降に生きてくるから』という言葉があったからです。実際に夏場はきつかったですけど、打席で振れていることが実感できましたし、最後まで振る力は落ちなかったですからね」

 雄平は、打率.318、11本塁打、67打点と、5番打者としてチームに大きく貢献し、シーズンを終えた。雄平が振り返る。

「早出練習のなかに入れてもらえてうれしかったですね。練習にプラスしてバッティングの話もできました。自分が悩んでいる時にコーチたちに相談して、それを解決して試合に臨むことができた。そういう時間は自分にとって財産になるし、今年は調子の波を少なくすることができました。

 本当に1年中キャンプでしたが、ケガをしないことを大前提に、試合に出ながら練習ができました。コンディション的なこともあり、早出練習を最後までやり抜けなかったことは残念ですけど、すごく自信になりました。数字は残せましたが、まだまだ満足していません」

 石井コーチは雄平について、「信じる者は救われるんです」と言って笑った。

「あいつは自分で練習すると、僕らが『いい加減やめろ』って言うまで振り続けますから。遠征先の宿舎でも暇さえあればバットを振っている。それはすごくいいことで、フォームを固めるには素振りが一番なんですが、ただ考えすぎて自分からドツボにハマることがある。じゃあ、どうせ振るんだったら早出のメンバーと一緒にやれよ、と(笑)」

 10月2日、早出練習中に退団が決まった鵜久森淳志と比屋根渉があいさつに訪れた。ふたりとも早出のメンバーで、鵜久森は開幕から一軍登録を抹消される5月31日まで、ほかの選手たちと一緒にバットを振り込んでいた。早出終了後も居残って「シュッ、シュッ」と息を吐きながら、ティーバッティングを続けていた姿は今も印象に残っている。

「(退団会見で)一番の思い出を聞かれて、『昨年の松山での秋季キャンプです』と答えました(笑)。この秋も地獄のキャンプは続くんでしょうね」

 鵜久森は、選手たちの練習を眺めながら言った。

「一軍から落とされたら終わりだと、今年は必死にやってきました。そのなかで二軍に落ち、また一軍を目指して変わらずに練習したんですけど……思ったような打球にならなかったり、結果も出ませんでした。自分でも気づかないところで、気持ちが切れていたのかもしれません」

 選手の入れ替えを繰り返しながら、”チーム早出”には計22人の選手が参加した。そのなかでも上田は、もっとも数多くバットを振った選手だ。

「これまで12年間やってきて、これだけ朝早くから、遠征先のホテルでも朝も夜も素振りをして、しかもコーチの人たちも一緒になって練習するのは初めてのことでした。毎日やることでいろんなことに気づけましたし、それを試合で試して結果が出たらうれしい。そういうことの連続で、気がついたらあっという間にシーズン終盤でしたね。あの暑いなかでも一生懸命やれたし、なんていうんですかね……確実に振る力というか、自分の力に絶対なっているということは感じています」

 上田は、遠征先から移動当日ゲームなど早出免除の日には、木谷良平バッティング投手と個人早出でバットを振り込んだ。このフリーバッティングでは追い込まれた状況を想定し、木谷バッティング投手に対して「2−2なんだから、フォークも投げてよ」といった具合に、きわめて実戦的な練習をしていた。

「個人早出の時は自分で見つけた課題に取り組んで、木谷が僕の要望にすべて応えてくれているので助かっています」

 かつて石井コーチは練習中に「剛史に早出のリーダーになってほしいんだよ」と言っていたことがあった。それを上田に伝えると、こんな答えが返ってきた。

「そこは意識してないんですけど、たまに素振りのない日があったりするんですよ。そういう時は、宮本(丈)や廣岡や塩見たちと、『明日は素振りなしだけど、やることやろうぜ』と。一度、『今日はないだろうなぁ』って、素振りをしなかったことがあるんですよ。その時に琢朗さんたちから『オレらが言わなくても勝手にやるぐらいにならないと。やらされているだけじゃ、絶対に伸びないよ』という話をされて、実際にそうだと思いました」

 上田の飛距離が伸びていると感じ始めたのは、交流戦終盤の頃だった。そして8月26日の神宮球場で行なわれた早出では、ロングティーで5球連続フェンスオーバーするなど、力強い打球を連発していた。

「遠くに飛ばす練習をしているわけじゃないんですけど、どこのチームにも負けないくらいの数を振ってきた自信もありますし、飛距離的なものは勝手に伸びているというか……」

 その上田は、9月4日の中日戦で延長11回にサヨナラ3ラン。だが、石井コーチが「練習では本当にきれいなスイングなんだよな」と言い、木谷バッティング投手も「剛史の練習でのスイングはレギュラークラスなんですよね」と話すように、なかなか試合で才能を発揮できず、レギュラーに定着できずにいることが残念でならない。

「僕はどうしても理想のスイングを試合で求めてしまい、余計な考えが頭に入り込んで、バッティングが崩れてしまったり……。練習のスイングを試合で出せるように、バットを振って固めていきたい。コーチや裏方さんには、これだけ親身になって練習に付き合ってもらっているので、何とか結果を出したいですね」

「バッティング終了でーす」

 選手たちの声が響き渡り、コーチ、選手、そして裏方さんたちがボールを片付け始める。ヤクルトの早出は、練習の準備や選手へのトス、ボール拾いなど、裏方さんたちの献身があり、またコーチたちも選手たちと一緒になって汗を流す。石井コーチは、早出だけで1日に800球以上のボールを投げている。

 宮本ヘッドコーチに、ここまでの早出練習での成果について聞いた。

「バットを振る力はついたと思います。でも、実際にスイング力を上げるには、体に力をつけさせないといけない。体の力がついたとしても、ウエイトトレーニングなどを真剣にやらないと、ヘッドスピードは上がってきません。バットを振るだけでは限度があると、僕は思っています。そうやって考えると、バットを振るだけのスピードはついたと思いますけど、違う部分で体を大きくというのは、シーズン中、彼らはできなかった。来年への課題として、オフにどれだけフィジカルを上げてくるのか。そこはすごく大きいですね」

 そしてこう続けた。

「しっかり振る習慣については……習慣づいたというのは、真剣なスイングを自分たちだけで振れるようになって、初めてそう言えるのであって。たとえば、『今日は素振り免除でいいよ』と言ったら、そのまま休んだ選手もいた。『じゃあ、部屋で振ったんか』って聞いたら、『いいえ』と。結局、休めと言ったら休む人間が出てくる。それを考えると、まだまだ一歩も踏み出してないと思います」

 あまりの厳しい総括に言葉を失ったが、逆に宮本コーチのなかには「選手たちはもっともっと成長できるはず」という思いがあるに違いない。そして最後に宮本コーチはこう締めくくった。

「ここまでの練習はヤクルトがある限り、ずっと変わらないです。ずっとこれをやっていかないといけないと思っています」

著者:島村誠也●文 text by Shimamura Seiya


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