全米覇者なのにもっとも未完成。大坂なおみこそ「絶対女王」の最有力

全米覇者なのにもっとも未完成。大坂なおみこそ「絶対女王」の最有力

 エリナ・スビトリナ(ウクライナ)の優勝で幕を下ろしたWTAファイナルズは、4年連続で新たな優勝者が誕生し、なおかつ、グランドスラムのタイトルに無縁の選手が戴冠するという終焉を結んだ。これらの記録は、現在の女子テニスの世界情勢を色濃く投影しているとも言えるだろう。

 ひとつは、絶対的な女王不在で、トップ選手、あるいは潜在能力を秘めた未完の大器や勢いのある若手には、誰しもビッグタイトルを取るチャンスがあること。

 さらには、底上げがなされている現在の女子テニスでは、トップ選手といえども楽に勝てる試合は少なく、ゆえにシーズン終盤では上位選手ほど疲労していることである。

 10月上旬の時点で年間ランキング1位を確定させていたシモナ・ハレプ(ルーマニア)が椎間板ヘルニアにより、今大会を欠場したのは象徴的。そのハレプの欠場によって繰り上がり出場を果たしたキキ・ベルテンス(オランダ)は、総当たりのラウンドロビンを勝ち上がって準決勝に進出している。

 その他の準決勝に進出した選手も、6位のスローン・スティーブンス(アメリカ)と8位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)。優勝者のスビトリナも、大会出場時点でのランキングは7位であり、つまりは出場選手中、下位4人による争いとなっていた。

 そして今大会でもうひとつ顕著だった傾向が、最終セットにもつれ込む2時間30分前後の熱戦が多かったこと。ラウンドロビンから決勝までの全15試合のうち、フルセットは実に10試合を数えている。

 その理由をスビトリナは、「今季最後の大会で、誰もが負けたくない。リードされたときには自分に、『これが最後の試合かもしれないんだから、がんばれ! 休養がほしいなら、試合後に家に帰れるんだから』とハッパをかけるの」と笑顔まじりで説明した。

 加えて今回は、5年を数えたシンガポール開催最後の年であり、連日、往年の名選手たちが揃って出席するセレモニー等も行なわれていた。応援する観客たちの熱量も大きく、それら高揚感と感傷が交わる独特のムードが選手たちの闘志を掻き立てた側面もあるだろう。

 世界の4位として今大会に初出場した大坂なおみにとっても、それは同じだったはずだ。

 9月の全米オープンで優勝した大坂は、日米双方でのメディア対応に追われた後に、熱狂の渦となった東レ・パンパシフィックに出場して準優勝。その後は武漢、香港と出場予定だった2大会を体調不良等でスキップしたが、出場したチャイナオープンではベスト4と、いずれも好成績を残してきた。

 抱えた疲れは、想像に難くない。だが、「全米後の大きな目標だった。出られるだけでも栄誉」なこの大会が、残された気力の最後の一滴を振り絞らせていた。

 大坂本人は、心身の疲労や苦悩について多くを語ろうとはしない。

 ただ、コーチのサーシャ・バインは、大坂とチーム全体が直面してきた重圧についてこう口にした。

「実は、なおみは全米後に体調を崩していた。ただ、彼女だけでなく、チーム全体がそうだった」

 その理由をバインは、「おそらくは、ストレスのせいだろう」と推察する。

「僕自身も熱があり、気分もすぐれず、胃もムカムカしていた」

 自身ですらそれだけの状況に陥っていたのだから、大坂が背負ってきた重みは想像を絶するものだったろうと、青年コーチは21歳を迎えたばかりの教え子を気遣った。

「全米優勝の直後に東京に来て、スポンサーの社長や会長たちが見るなかで戦うことが、どれだけすごいことか……」

 もし、自分が同じ状況にいたならば、残りの試合には出場せずに身体を休めただろう――。それがコーチの偽らざる想いだったという。

 このバインと似た言葉を口にしたのは、今大会の準優勝者で、昨年の全米オープン優勝者であるスティーブンスだ。昨年は全米オープン後に6連敗を喫してシーズンを終えたスティーブンスは、1年前の自身と今の大坂を重ね合わせ、共感と幾分の同情を次のような言葉に込めた。

「昨年は、全米後は試合に出ずに、休養にあてるべきだったと思っている。それくらい疲れ果てていた。それなのに彼女(大坂)は、全米の1週間後には東京に行って試合を戦った。それがとても重要だということは理解できるし、そこで結果を残したことには称賛しかない」

 コーチやライバルたちも同情を示す状況下で、今大会の大坂はスティーブンス、さらにアンジェリック・ケルバー(ドイツ)相手に2時間半の死闘を演じた。

 これらの2試合で、大坂が最大の課題として掲げたのはサーブであったが、3試合目の棄権を彼女に強いた左太ももの痛みは、初戦ですでに負っていたという。軸足となる左足の負傷がサーブに影響を与えたのは、間違いないだろう。

 初参戦となったWTAファイナルズの経験を大坂は、「2試合ともに2時間以上のタフな試合を戦ったことで、ここにいる選手たち、そして演じられる試合の質がどれほど高いものかを証明できたと思う」と振り返った。

 数字的なことを言えば、2試合ともに30%台に低迷したセカンドサーブのポイント獲得率、そして出場選手中もっとも低い確率に終わったブレークポイント取得率が悔やまれるところ。ひるがえせば、これらの数字は、重圧のかかる局面でのポイントの取り方を会得していけば、手負いの状態だとしてもトップ選手に勝てる力を大坂が備えていることを物語る。ちなみに、大坂のファーストサーブでのポイント獲得率は、出場8選手中最高を記録していた。

 涙でコートを去る帰結となるも、数週間の休養を取る予定だという大坂は、「久々に家に帰り、犬に会えるのが楽しみ」と、会見時には笑顔を見せた。

 短いオフの後には、まずはフィジカル強化と、動きの向上を目指したトレーニング期間が待っている。ストレングス&コンディショニングコーチのアブドゥル・シラーは、「楽しいひとときになるだろうね」と不敵な笑みを浮かべた。

 今大会が示した女王不在の混沌とする時代のなかで、テニス関係者やファンたちは、この先の女子テニスを語るうえでの主題となるべき圧倒的な存在を求めてもいる。

 全米女王でありながら、なおかつ、もっとも未完成な21歳が、その最有力候補であることは間違いない。

著者:内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki


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