U-17W杯直前に試練。それでもリトルなでしこは頂点を目指す

U-17W杯直前に試練。それでもリトルなでしこは頂点を目指す

「JFA職員に対する不適切な行為があった」としてU-17女子代表の楠瀬直木監督の辞任が発表されたのは、FIFA U-17女子ワールドカップ(ウルグアイ)開幕を目前に控え、国内最終合宿の当日だった。

 当然、選手やスタッフにも困惑が広がった。それでも、大会は待ってはくれない。最終調整を行なったJヴィレッジでは、後を引き継いだ池田太監督代行(U-18女子代表監督)が、持ち前のアグレッシブな指導で選手たちが集中できる環境を作り上げていた。

「どう動く?」「どうしたらいいと思う?」――。プレーの途中で何度も池田監督代行は選手たちに問いかける。言われたことだけを敢行するのではなく、重要なのは自分たちで”考える”こと。受け身でいさせない姿勢は明確だった。

 さらに求めたのは”声掛け”だ。個々の見えていないところを互いの声掛けで判断する。これが積み上がれば、そこには必ず信頼関係が生まれる。その第一歩としてコミュニケーションは欠かせない要素であり、重要性を理解できれば、柔軟に対応できるのがこの若い世代の強みでもある。

 池田氏といえば、この8月にFIFA U-20女子ワールドカップ(フランス)において日本を初優勝に導いた指揮官だ。U-17の選手たちにとって、次なるステージの監督でもあり、時折トレーニングキャンプなどにも顔を出していた池田監督代行と、まったく面識がないというわけではない。池田監督代行は、時にゲーム感覚で緊張を緩和させるなど、選手たちにさまざまなアプローチをしながら、力を引き出そうとしていた。

「限られた時間をうまく使いたいですね。あまり詰め込み過ぎるのもよくないし、バランスを考えながら選手が持っているものと、チームのイメージとを合わせていく作業をしているところです」

 真っすぐにぶつかってきてくれる池田監督代行のもと、選手たちにもすでに変化が現れている。とにかくミスを怖がらず、伸び伸びとプレーしているのだ。

「(池田監督代行は)いつも明るくて細かいところもしっかりとアドバイスしてくれる。すごくメリハリがある監督だと思います」と語るのは、DF善積わらい(セレッソ大阪堺レディース)。サイドバックとして攻守において指示が飛ぶと、一言一句聞き逃すまいと耳を傾けていた。自身のプレーで常にイメージしているのは、なでしこジャパンでも揺るぎない存在となった鮫島彩(INAC神戸)。

「1対1もすごく強くて、強いのが守備だけじゃなくて攻撃にもどんどん上がってよく得点に絡んでいるところとかをよく見ています。自分自身もオーバーラップして攻撃に絡めるようなプレーがしたいです」(善積)

 今大会の予選を兼ねたAFC U-16女子選手権で悔しい思いをした選手も名を連ねた。勝敗を左右するゴールゲッター大澤春花(ジェフ千葉レディースU-18)。アジアではわずか1ゴールにとどまった。

「中盤でボールを収めることができず、相手にぶつけられたときにも身体がよろけてしまった……」

 こう話す大澤は、その悔しさを忘れてはいない。試合でもゴールの意識を今まで以上に高め、シュート練習の時間も増やした。少しずつ結果につなげながら、ワールドカップへの道を開いてここに立つ。

「裏への飛び出しは得意。そこで相手との駆け引きを楽しんでいきたいです」と頼もしい言葉も聞かれた。その成長は、トレーニング3日目に行なわれた、ふたば未来学園高等学校男子サッカー部(1年生)との合同練習で見せた一気に裏へ飛び出して決めたゴールに現れている。

 この世代は乾いたスポンジが水を吸い込むように、さまざまなものをピッチで吸収していく。それが面白くてたまらないといった様子だ。それでも、この場所には皇后杯開幕戦を戦っている6名の選手たちは合流していなかった。開催地ウルグアイ到着の5日から、ようやく全員でのフィジカル調整と同時進行でチーム戦略などの浸透をはかっていく。

「前回大会でも日本は決勝まで進んでいますが、このチームはまったく違うチーム。同じように決勝に行ける保証はありません。この育成年代で1試合でも多く、世界と戦わせてあげたい。それに対してできることをするだけです」――池田監督代行は決意を新たに戦いの地に入った。

 現地での事前合宿期間は1週間。13日(現地時間)に、ブラジルとのグループステージ初戦を迎える日本は、続けて南アフリカ、メキシコと戦う。できることは限られているかもしれない。しかし、選手たちにはまったく関係のないところで生まれた「監督の辞任」という、この逆境にあって、初めての世界の舞台へ想いを馳せる選手たちの前向きな姿を見ると、不可能なことなどないのではないかと感じてしまう。

 今季、日本女子サッカーは好調だ。なでしこジャパンは4月にAFC女子アジアカップを制し、8月にはアジア大会でタイトルを獲得、U-20女子代表は前出のとおり世界一を手にしている。最後のカテゴリーとなったのがこのU-17世代。先輩たちが目にした景色を、頂点に立った者しか目にすることができないあの景色を、彼女たちにもぜひ見てほしい。

著者:早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko


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