日本代表がイングランドをぶちかます。完敗するも新たな歴史を築いた

日本代表がイングランドをぶちかます。完敗するも新たな歴史を築いた

 スポーツは歴史である。銀杏の落ち葉舞う、初冬のロンドン郊外。ラグビー日本代表は、史上初めて、その母国の聖地トゥイッケナム・スタジアムで強豪イングランド代表に挑み、8万1千余の大観衆を沸かした。逆転で敗れたとはいえ、日本ラグビー史に新たな1ページが刻まれた。

 まぶしい光景だった。11月17日。後半、イングランドはエースのセンター(CTB)オーウェン・ファレルを投入してきた。ほぼ満員の観客席がどよめく。日本がペナルティーを連発。観客が歌い出したイングランドの有名な応援歌『スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット』の歌声がうねりとなり、スタンドを揺るがした。

 リーチ・マイケル主将は「初めての体験。この雰囲気の中でラグビーができて、すごく楽しかったです」と充実感を漂わせながら、こう続けて記者を笑わせた。

「昔、(家庭用)ゲーム機があって、イングランド代表と戦うとき、この歌がかかっていた。それを生で聞けて、すごくよかったです」

 この試合の歴史的な意義は大きい。1871年にイングランド協会が設立され、遅れること半世紀の1926年、日本協会は創立された。ラグビーの母国に憧れていた日本代表が初めてその聖地に招かれた。確かに来年、ラグビーワールドカップ(W杯)が日本で開催されること、イングランド代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が日本の指揮官であったこととは無関係であるまい。が、日本はその強豪を崖っぷちに追い込み、本気にさせた。

 この試合のチームスローガンを聞けば、リーチはこう、小声で繰り返した。

「ぶちかます、ぶちかます、ぶちかます」

 体格でまさるイングランドがフィジカル勝負でくるのはわかっていた。だから、日本もそこに真っ向勝負を挑んだ。先のニュージーランド戦の課題を踏まえ、この2週間、接点のボール争奪戦を徹底して練習してきた。とくに2人目の寄り、相手を弾き飛ばすクリーンアウトである。日本はそのブレイクダウンで互角にファイトした。

 ボールが密集から素早く出れば、日本の攻撃にリズムが生まれる。前回2015年W杯の南アフリカ戦のようにボールをクイックでつないだ。スクラムハーフ(SH)田中史朗の述懐。

「球出しの部分がよかった。本当にフォワードが素早い動きでセットして、前に出られた。相手を焦らすことはできました」

 リーチはこうだ。

「ブレイクダウン、だいぶ成長したなと思う。2人目の寄りがはやかったです」

 戦術として、相手の切り返しを避けるため、キックを減らし、ボールをパスでつないでいくプランだった。もうひとつの試合のスローガンが『ジャパン・スマート』だった。相手のスペースをみつけ、”かしこく”との意である。前半のボール保持率は、日本の「69%」と高い数字を残した。

 前半は基点であるスクラム、ラインアウトが安定していたこともある。相手のフッカー(HO)がシンビン(10分間の一時退場)となって数的優位に立った時間帯の前半22分、ゴール前のマイボールスクラムからのサインプレーで、SH田中がフラットパスをCTB中村亮土に通し、そのままインゴールに飛び込んだ。ゴールも決まり、10−7となった。

 このスクラムを組む直前、24歳のナンバー8姫野和樹がスパイクで足場を何度も固めていた。ヒット勝負、8人一体の意識が高かったことの証左である。

 中村は「血がたぎるというか、ワクワク感がすごかった」と振り返った。「このプレッシャーのあるスタジアムでしっかりしたプレーできたのがよかったと思います。それが一番の収穫です」

 その9分後、日本はボールを右に回し、ウィング(WTB)山田章仁が切れ込んで、外にうまくスペースをつくり、タックルを受けながらも外のリーチにパス。リーチが鬼の形相で4人を弾き飛ばして、右隅に躍り込んだ。みごとなトライである。実は2日前に持参したバリカンでいつもより短めに髪の毛をカット。気持ちも入ったのだろう、神がかり的な暴れっぷりだった。経験値ゆえか、リーチも田中も山田も福岡堅樹も大舞台でより力を発揮する。

 惜しかったのは前半の終盤、敵陣のチャンスをつかみながら、スタンドオフ(SO)田村優がパスに反応できなかったことである。連係ミスか。いわゆるジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)がよく口にする「ソフト―モーメント(集中力が欠けてしまう瞬間)」である。

 前半を15−10で折り返した。ブレイクダウン、ラインアウト、前に出るディフェンスなど、成長の跡は見えた。だが、ラグビーは80分間で戦うものだ。後半、ギアをあげてきたイングランドから得点を奪うことはできず、逆に3トライを献上した。

 とくに後半の序盤。日本はハイプレッシャーを受け、ペナルティーを連発した。疲労ゆえか運動量が落ち、試合の流れを相手に渡した。プレーの精度、連係が乱れた。自滅に近い格好だった。

 課題も露呈した。突っかけるタイミングと間隔を変えてきた相手のスクラムへの対応力、キックの精度、パントキックの処理、モールディフェンス…。 結局、15−35でノーサイドである。イングランド戦はこれで9戦全敗となった。

 リーチ主将は感想を聞かれ、短く言った。

「ガッカリ」

 ジョセフHCは「学びがあった」とポジティブにとらえた。手応えはつかんだものの、続けてこう話した。

 「強いチームはビハインドになるとインテンシー、強度をガーッと上のレベルに上げることができる。その相手にペナルティーをせず、食らいついていかないといけない。それが大きな課題。後半、判断、精度が落ちてしまったところがあった」

 ブレイクダウンの寄りも遅くなった。さらなる体力アップ、集中力の持続力、選手層の底上げも課題である。

 もっとも来年のW杯に向け、チームの強化は順調とみていい。1週間、2週間で対戦チームに合わせて準備ができたことをとらえ、山田はチームの成長をこう、説明した。

「選手の理解力、遂行力は非常に上がっている。みんな、スイッチの入れ所が1個2個増えてくると思うので、チームがどう伸びていくか楽しみですね」

 故障明けの24歳のプロップ(PR)具智元(グ・ジウォン)は復活をアピールした。

「こんな舞台、人生で最後かもしれない」と興奮気味に話した。

「緊張したけど、すごく楽しかった。まだまだ。来年(のW杯)に向け、もっともっと強くなりたい」

 試合前、「神様にただ、祈れ」と日本代表を挑発していたイングランドのジョーンズHCは会見で、英語で日本の印象を聞かれた際、笑いながら日本語でこう、答えた。

「スバラシイネ。ホント、ヨクナッタ」

 この試合の歴史的な意味は? と質問すれば、今度は英語でこう、続けた。真顔で。

「日本は、8万人の観衆の中、ラグビーの聖地でイングランドと戦う真のラグビー国となった。日本のメディア、日本のラグビー界にとって、誇りとなるだろう」

 日本代表は24日、英国グロスターでロシア代表と対戦する。W杯の初戦であたるチームだ。この反省を糧とし、完勝で、チーム強化の順調さを証明しないとなるまい。

著者:松瀬学●文 text by Matsuse Manabu


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