鹿島以前はMFだった西大伍。「中盤でプレーしたい欲は消えない」

鹿島以前はMFだった西大伍。「中盤でプレーしたい欲は消えない」

遺伝子〜鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学〜(38)
◆西 大伍 前編

 終わってみれば3−0の快勝だった。

 11月24日、ユアテックスタジアム仙台で行われたJリーグ第33節、ベガルタ仙台対鹿島アントラーズの一戦。試合序盤は仙台のアグレッシブさに手を焼いた鹿島だったが、34分に昌子源が先制点を奪い、後半に入ると一気に鹿島が運動量を発揮し、敵陣へと圧力をかけた。そして、後半70分、75分とふたつのゴールが決まった。

「水曜日の夜に、甲府で天皇杯を戦って、中2日で仙台に来ている。それは本当にすごいことだよ」

 試合後、仙台駅へ向かう地下鉄の中で、仙台サポーターが鹿島に称賛をおくっていた。

「中2日で、久しぶりに14時キックオフの試合だったから、苦しい展開になるだろうとは思っていた。そういう試合ではセットプレーでの得点が大事になるとも考えていた」

 セットプレーの流れから先制点を決めた昌子が振り返った。

 仙台戦に途中出場したレアンドロ、そして内田篤人など、けが人も続々と復帰している。外国人枠の関係でチョン・スンヒョンはベンチを外れている。ACL決勝戦前に先発し、連勝に貢献した「控え組」と呼ばれる選手たちの多くが鹿嶋に残り、仙台へは行っていない。

「外国人枠の関係でベンチを外れる選手も出てくる。メンバー外の選手の分も戦わなければいけない。チーム一丸となって戦う姿勢を忘れるな」

 仙台戦を前にした練習で大岩剛監督はそう選手たちに訴えた。

「聖真くんが決めているし、自分も何か残さなくちゃいけない。本当はゴールを決めたかったけど……」

 仙台戦で2点目の安西幸輝のゴールをアシストした鈴木優磨は、自身が負傷離脱していた天皇杯準々決勝ヴァンフォーレ甲府戦で唯一の得点を決めた土居聖真の名前を挙げた。エースと言われる鈴木であっても、競争という危機感を持ち続けている。実はこのアシストの前に鈴木は決定機を外している。しかし、気持ちを切り替え、自身ではなく、チームの結果を優先した。「チーム一丸となって」という監督の想いがピッチで表現されていた。

「外したあとならば、自分で決めたいという気持ちも強かったはず。でも、チームのためのプレー、最善のプレーを選択できたのは、優磨が成長しているということ」昌子の言葉が鈴木への信頼を物語っていた。

 12月1日最終節。対サガン鳥栖戦。

 ハードワークが持ち味の相手との試合は難しいものになるだろう。しかし、息をつく暇はない。札幌で行われるコンサドーレ札幌対サンフレッチェ広島戦の結果次第では2位に入る可能性を残しているが、自分たちが勝たなければ話にならないからだ。そして、この勢いで天皇杯を獲得し、クラブW杯に向かいたい。

 大岩監督は仙台戦当日にはこうも言っている。

「常に前を向いて、上を目指していかなければいけない。停滞は後退と同じだ」

 昨季は終盤に勝てず、優勝を逃した。過去を越えていくことは、悲願のタイトル獲得だけではない。ACL優勝という目標を達成したが、そこで達成感を抱くわけにはいかない。自分たちの進化を示すには、連勝でシーズンを終えることが重要だからだ。

「リーグ終盤に強さを発揮するのが鹿島。去年はそれができなかった。だから、ここから落ちないというのを証明したい。アジアを獲ったことで、変な試合はできないという気持ちがいい方向へ向かっている」昌子が語った。

 取材場所に現れた西大伍はなぜだか、1本歯の下駄をはいていた。

 身体能力アップに効果があると言われている下駄だ。「身体を鍛えるためにですか?」と質問しても意味深に笑っているだけで、理由は答えない。なんとも西大伍らしい登場だった。

 2011年、コンサドーレ札幌から加入した。2010年シーズンはレンタル移籍したアルビレックス新潟でプレー。鹿島には右サイドバックとしての補強だった。しかし、2014年に決めたシュートが年間最優秀ゴールに選ばれるなど、その技術力は高くて柔らかい。「大伍はサイドバックの選手じゃない」と内田篤人が言うほどだ。

 安定感のある守備だけでなく、攻撃に出れば、ファンタジスタと呼ぶにふさわしい雰囲気を醸し出す。今季はここまでリーグ戦、ルヴァンカップ、天皇杯で計5得点。ACLでは決勝トーナメントで2得点をマークしている。

――ACLの決勝セカンドレグは、敵地で異様な雰囲気を感じましたか?

「やっぱり特別な雰囲気ではありましたよね。10万人近い観衆のなかでプレーするわけだから。ああいうのはあまり経験できるものでもないし。プレッシャーを感じることはなかったけれど、いつもとは違う空気感はありましたね。そんななかでも平常心でいようと思っていました」

――平常心というのは、鹿島の選手がよく口にする言葉ですね。年齢や経験を重ねて平常心でいることは難しくなくなった?

「そうですね。たとえ、ミスをしても死ぬわけではないからというか、そういう開き直った気持ちになりますね。たしかに批判されたりすることはあるだろうけれど」

――他人の批判よりも、自分で自分を責めるというか、落ち込んだりすることはあるんじゃないですか?

「まあ、それも時間が解決してくれる部分もあるので」

――とはいえ、大きな試合、タイトルが懸かる試合はいろいろ背負うのではないでしょうか?

「性格というか、人間のタイプだと思うんですが、僕はそういう試合のほうが楽しいなと思えます」

――そういう意味では、ACLのタイトル獲得が決まる試合というのは、スタジアムの雰囲気も含めて楽しかったのでしょうか。

「クラブとして初めてのタイトルというのもありますし、今年は、ACLでもゴールを決められたし、自分としては大事な仕事ができたなという実感もあります」

――どれだけ、仕事ができたかは重要なんですね。

「そうですね。2011年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)で優勝したときは、決勝戦で試合に出られなかったから、本心ではまったく喜べなかった。喜んでいるふりはしていたのかもしれないけど。当時は試合に出ないと意味がないと思ってましたから」

――今は違うのですか?

「今は当時とは多少の違いはあると思います。チームが勝ってくれたら嬉しいという感情もあるし、試合に出る出ないは、僕自身が選べるものじゃないから。自分でどうにかできること以外は、しょうがないことだと割り切って考えられるようにもなりましたね」

――たとえ、決勝戦に出られなくともそこに至るまでの過程で、仕事ができていれば、納得できる部分があるのかもしれませんね。西選手はサイドバックというディフェンダーのポジションですから、仕事をしたというのは、無失点ということになるのでしょうか?

「うーーん。難しいところですね。ACL決勝のアウェーとかは、チーム全体でチームのためにという戦いだったので、正直に言えば、若干物足りないような気持ちもあるんです。やっぱり僕は点を獲りたかったなぁと」

――目立ちたい。

「そうなんですよね(笑)」

――今季は大事なゴールを数々決めていますね。

「最近、応援してくれる人たちが増えてきていると感じるんですが、その人たちの力ですね」

――応援に応えたい。

「応えたいというか、普通にプレーしているつもりなのにゴールが入っちゃうみたいな(笑)。その人たちから運気というか、良い気をもらっているんだと思います、真面目な話。別に何かを変えたとか、そういうことはないし、今季も最初のころは試合に出ていないのに、公式戦7得点だから、まったく違う。まあ、本当は10得点、10アシストくらいはしたかったんですけど(笑)」

――内田篤人選手が復帰して、サイドバックではなく、ミッドフィルダーでの起用が増えるかもしれないという話もありましたが。

「そうですね。僕はそのつもりでした。だから、中盤というか、前線でのプレーを意識しているところはあるかもしれません」

――鹿島へ移籍するまでは登録ポジションはミッドフィルダーでしたが、そもそもサイドバックでプレーするきっかけというのは?

「札幌での最後のシーズンに、サイドバックもやってみるかという感じで、サイドバックでプレーしたことで、中盤と両方できるというところで新潟に移籍したんです。だから、やっぱり気持ち的には自分は中盤の選手というのがありますね。うん。絶対前のほうが楽しいですよ。たくさんボールに触れるし」

――しかし、鹿島ではサイドバックひと筋というイメージも強い。

「そうですね。でも、確かにサイドバックとして鹿島でプレーすることで、日々成長できているという実感は今もあるので、それを否定しているわけではないんです。ただ、ここからさらに前や上へ行きたいと考えているし、そのためにも、中盤でプレーしたいという欲は消えないです」

――鹿島のサイドバックは歴代日本代表を経験している選手ばかり。鹿島へ加入したときはそういうこともモチベーションになったのではないでしょうか?

「僕がサッカーをプレーするうえで大事にしているというか、モチベーションになるのは、自分が成長できるかということなんです。成長するために移籍をしたし、毎日練習をしています。だから、鹿島で経験を積んで、そこからさらにステップアップしたいと考えていました。8シーズン在籍したわけですが、数多くタイトルを手にすることもできました。それは自分のキャリアにとっても大きな影響を与えてくれていると思います。今のところは自分のなかではすべていい方へ行っている。それでも、何が正解かなんてわからない。他のクラブでプレーしている自分と今の自分は比べられないから」

(つづく)

著者:寺野典子●文 text by Terano Noriko


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