早慶戦は劇的フィナーレ。そこには4年生の矜持とドラマがあった

早慶戦は劇的フィナーレ。そこには4年生の矜持とドラマがあった

 小雨の降る曇天のなか、意地と意地がぶつかり合う伝統の一戦は、歓喜と絶望が混じり合う劇的な幕切れとなった。負けたら終わりのトーナメント戦は、やはり4年生のたちの矜持(きょうじ)が勝敗を決めた。

 12月22日、ラグビー大学選手権の準々決勝が行なわれ、関東大学ラグビー対抗戦で8年ぶりに優勝(帝京大と同時優勝)した創部100周年の早稲田大と、対抗戦3位の慶応義塾大が激突。大学選手権の舞台で「臙脂(えんじ)と黒黄」が激突するのは、実に11シーズンぶりのことである。

 11月23日の対抗戦で、慶応は早稲田と接戦を演じるも14−21で敗北。慶応創部初の医学部キャプテンSO(スタンドオフ)古田京(きょう/4年)は入学して以来、早稲田に4連敗を喫しており、「このまま早稲田に負けたままでは終われない」と気合いを入れていた。また、金沢篤ヘッドコーチも「余計なプレッシャーを与えたくなかった」と、この週は報道陣をシャットアウトする徹底ぶり。

 一方の早稲田は、対抗戦の優勝(2位扱い)でシードとなり、この準々決勝が3週間ぶりの実践。「ゲームライクな練習ができていなかったので、懸念はあった。慶応は4年間(早稲田に)勝っていないし、対抗戦で悔しい負け方をしているので、気持ちを入れてくる。しぶとさや執念の怖さがあった。厳しいゲームになるなと思っていた」。試合前に相良南海夫(なみお)監督が語っていた言葉は、現実となる。

 早稲田は前半3分にWTB(ウイング)佐々木尚(4年)、38分にPR(プロップ)小林賢太(1年)がトライを挙げ、12−7で前半を折り返す。ただ、個々の選手たちの立ち上がりのスピードやリアクションは、前半から慶応のほうが勝っていた。すると慶応は、後半15分に4年生のNo.8(ナンバーエイト)山中侃(あきら)、24分には古田キャプテンと4年生がトライを重ね、ついに15−19と逆転に成功する。

 残り時間を考えると、5点のトライを挙げないと勝利できない早稲田は、4年生の控えFWを3人投入。「最後まで勝つことを信じて、選手を信じていました」と、相良監督は冷静にピッチを見つめた。しかし後半39分、ハーフウェイライン付近のラインアウトでボールをまっすぐ投げ入れることができず、まさかのノットストレートの反則。万事休す……と思われた。

 残り30秒、慶応ボールのスクラムで試合は再開。慶応だけでなく、スタジアムに詰めかけた大勢のファンもタイガー軍団の勝利を確信していたはずだ。スクラムからボールを出して、タッチに蹴ればよかった。前半からスクラムも優勢だった。だが、組み直しの後、早稲田の圧力に慶応の右PRがたまらずひざをついてしまい、レフェリーの手が上がる。

 控えから出場したPR(プロップ)千野健斗、峨家直也、そしてキャプテンFL(フランカー)佐藤真吾――4年生FWの3人がプライドを見せた瞬間だった。相良監督はその時、「正直、まだ風があるなと思いました」と振り返る。

 そして、80分を超えて試合終了のホーンが鳴り、ラストプレーのチャンス。かろうじて生き残った早稲田は、ラインアウトからFWとBKが一体となってアタックを仕掛ける。

 すでに時計は84分を回っていた。だが、アタックを継続して23フェイズ目にアドバンテージをもらった早稲田は、ループを使って積極的に右へと展開。SO岸岡智樹(3年)→WTB長田智希(1年)とつなぎ、最後は左サイドから右サイドに回り込んでいた佐々木へとボールが回る。

「自分でボールを呼び込みました。もしタッチに出たり、ノックオンしたら、自分のプレーで4年間が終わってしまう。絶対に取り切る」。佐々木が魂のこもった走りで劇的な逆転トライを決め、早稲田が20−19で慶応を下した。

 佐々木は4年になって、若手の台頭でベンチを温めることも多くなっていた。ディフェンスが少々苦手だったことに加え、「慢心があったのかも……」と当時を振り返る。しかし、佐々木はクサることなく毎日ウェイトトレーニングに取り組み、練習後もニュージーランドの強豪チームのビデオを見て勉強するなど、日々研鑽を積んだ。

 その成果は、この試合でも見てとれた。前半11分には左サイドから右サイドまで戻って相手がトライする寸前でタックルを決め、20分過ぎにも激しいタックルで頭を強打するなど、身体を張ったプレーを随所で披露した。「早稲田の強みはディフェンス。ディフェンスからチームを作る」。それはまさに、指揮官の掲げる言葉に応えたものだった。

 対抗戦では2試合の先発に終わった佐々木を、相良監督はこの大舞台でスターターに起用した。その意図を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「佐々木は高校(桐蔭学園)時代、慶応高に(花園予選決勝で)負けて終わっているので、それにかけたいなと思いました」

 佐々木は桐蔭学園3年時、慶応の総合政策学部にAO入試で合格していた。しかし、11月に古田らのいる慶応高に敗戦して花園を逃すと、合格を辞退して早稲田の社会科学部を自己推薦で再入試。そんな背景もあり、佐々木は慶応の今の4年生に対して強いライバル心を持っている。

「(先発で出場して)慶応に勝つ、という目標を達成することができました」という佐々木だが、けっして喜びを露わにすることはない。「(優勝した時にのみ歌う第二部歌)『荒ぶる』を歌いたい。そのために(慶応ではなく)早稲田に来ました」とキッパリと語った。

 この試合に先発した早稲田の4年生は3人。4年生の割合は、他の大学よりも極端に少ない。ただ、佐々木を筆頭に、途中出場した3人の4年生FWが大いに躍動した。「負けたら大学ラグビーが終わってしまう」という4年生たちの意地とプライドを感じた試合だった。

 準決勝では「宿命のライバル」明治大が立ちはだかる。相良監督は「一度、死んだ身です。明治のことを考えるより、久しぶりに超える正月なので、自分らの力を出し切りたい」と腕を撫(ぶ)す。100周年のアニバーサリーイヤーを迎えている早稲田は、はたして10シーズンぶりの大学王者に返り咲くことができるのか。「荒ぶる」まで、あと2勝だ。

著者:斉藤健仁●取材・文・撮影 text & photo by Saito Kenji


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