栗山英樹が驚いた大谷翔平の影響力。「抜けたからこそ勝ちたかった」

栗山英樹が驚いた大谷翔平の影響力。「抜けたからこそ勝ちたかった」

栗山英樹監督インタビュー(前編)

 2018年シーズンの北海道日本ハムファイターズは、大谷翔平、増井浩俊、大野奨太といった主力が抜け、前評判は決して高くなかった。それでも上沢直之がエースとしてチームを牽引し、若手も躍動。シーズン終盤まで西武、ソフトバンクと優勝争いをしてみせた。惜しくも3位となり、クライマックス・シリーズ(CS)でもファーストシテージでソフトバンクに敗れたが、前評判を覆す堂々たる戦いを見せた。日本ハムの指揮官である栗山英樹監督が2018年シーズンを振り返った。

── 監督は冬の間、雪に閉ざされたこの栗の樹ファームのご自宅で、いったいどんな妄想を膨らませているんですか。

「妄想ばっかりだよ。冬の北海道は午後4時を過ぎたら真っ暗だからね。雪って音を吸い取るというか、シーンとしたあの静けさがいいんだよ。ひとりの世界に入り込むにはここは最高の場所だし、時間がある日は『この本、ゆっくり読めるな』って嬉しくなる。だから、部屋中、本棚ばっかりでしょ。それも四書五経の難しい本がいっぱい。今年、易経にハマっていたんだけど、それが難しすぎて……でも、そこには答えが全部、書いてある。野球の答えも、人生の答えも、易経にみんな書いてあるもんね」

── いやはや、監督らしいというか……ひとりで家にこもっていて、普段、食事はどうされているんですか。

「たまに外で美味しいものを食べたいと思うことはあるけど、食事はほとんど自分で作ってるよ。オフはもちろん、シーズン中だって、ナイターが終わって帰ってきてから作っているからね。野菜炒めとか、自分で好みの味に味つけしたいタイプだから(笑)」

── たまに外へ遊びに行きたいとか、思わないんですか。

「遊びに行く? だって、こんな楽しい仕事をしているのに、他の遊びなんて必要ないでしょう。旅行したいとも思わないし……ああ、でも、シーズン中の遠征先で歴史的な場所があると出掛けることはあるかな。去年もシーズン中、山口県の萩市に行ったとき、吉田松陰に会いたくて松陰神社には行ったかな。この前も大阪に行ったとき、京都御所まで行ったりしてね。あの時代、物事はどうやって決められていたのかな、なんてことに思いを巡らせたりして……とくに50代になってからは、そういうことに幸せを感じるんだ」

── 朝は何時に起きているんですか。

「7時かな。朝は何も食べないね。日本茶だけ。これが気持ちいいんだよ。雪の中で日本茶、温かいのを飲むのね。で、カブトムシの幼虫にいっぱい木くずをやって、あとはモミジやイチョウの種を撒いて、いつか森にできたらいいなって。100年後、誰かが喜んでくれたらいいなって考えてる」

── 本当に、浮世離れしてますね……なんだか現実の世界に引き戻してしまうようで恐縮ですが(笑)、ちょうど去年の今ごろを思い出していただくと、大谷翔平選手、抑えの増井浩俊投手、中継ぎのクリス・マーティン投手、キャプテンを務めた大野奨太選手が抜けて、下馬評も低く、厳しい戦いが予想されていました。監督自身はどんなイメージを持って、2018年の開幕を迎えたのでしょう。

「そうだね……オレにとって2018年というのは、絶対に勝ちに行かなきゃいけないシーズンだったんだ。ダル(ダルビッシュ有)がいなくなったシーズン(2012年)、オレはファイターズの監督になって、優勝したでしょ。今年は(大谷)翔平がいなくなって、だからこそ、どうしても優勝しなければならなかった。チームの誰もが『翔平がいなくなったから勝てないというのはイヤだ』と口にしていたし、下馬評がどうあれ、こっちは戦力も揃っていると思っていた。だから、今年こそがファイターズらしさを示せるシーズンだと思って開幕を迎えたんだけどね」

── なるほど……でも実際、18年のリーグ3位という結果は大健闘だったという声が圧倒的です。

「そんなふうにはまったく思えないよ。監督がヘボいから勝てなかっただけ。みんな、頑張ったんだけどね。直(上沢直之)なんか、『監督、翔平がいなくなっても勝ちますからね』って何度も言ってくれてたし、(中田)翔も開幕前、『翔平がいなくなって、負けたと言われたくない。絶対に勝ちましょう』と、翔平の名前をみんなの前でハッキリ口に出して言ってたからね。これ、”死せる孔明、生ける仲達を走らす”みたいな、そんな感じだったんだよ」

── おっ、三国志ですか。

「三国時代、蜀と魏の戦いの最中、諸葛亮孔明が病死したんだけど、そのとき孔明は『オレが死んだら、生きてるように見せかけろ』という言葉を遺して死んでいくんだ。だから相手の武将、仲達はその好機に打って出ることができなかった。あのときの孔明と一緒で、人間というのは死んでもなお影響力を及ぼすくらいでないと何かを成し遂げたとは言えないという……翔平がいなくなったチームを見ていて、いなくなってもこれだけの影響力を与えられるのかと思ってビックリしたよ」

── ファイターズにいたのは5年、チームを出たときは23歳でした。

「すごいよね。だから翔平が抜けて、ウチのチームは翔平に頼り過ぎていたところがあったのかなとあらためて感じたね。本当に大事なゲーム、圧倒的な能力で相手を抑え込めるピッチャーがいるということの大きさ、エース級のピッチャーが来てもコイツなら打てるかもしれないというバッターがいることの大きさ。どちらも痛感させられた。だからこそ、翔平に頼らず、ほかの戦力をうまく積み上げて優勝させるというのがこっちの仕事だったんだけど、いざとなると……難しかったね」

── 投手陣では、まず目立ったのが上沢投手でした。

「直に関しては思った通りだったかな。前半、すごくよくて、後半はバテたけど、初めて1年間、ローテーションを守ると、どうしても疲れが出てくる。そのとき、どの程度まで我慢できるかというあたりが課題になるだけど、そこは案の定だった。となると前半、もうちょっと間をあけて起用したほうがよかったのかなという考え方も出てくるし、オレは(ローテーションを)飛ばすのはアリだと思っているんだけど、本人がローテーションを守ることにこだわっていたからね。そういう経験をさせたことで、将来の直にいいものを残したはずだという手応えはあったと思う」

── チーム最多の11勝をマークしましたが、そのうち10勝が7月までの勝ち星でした。

「プロ野球の世界でレギュラーを獲る、ローテーションの3番手くらいまでに入るという選手にとって何が勝負どころになるのかといえば、疲れ切ったところでどうやって結果を出すか、ということなんだよね。元気な時には、ある程度の能力があって技術もあれば結果は出る。でも、ピッチャーだったら疲れ切ってダメなときにどうやって勝ちを持ってくるか、バッターだったら疲れ切ったときにどんなヒットでしのぐか。それが求められているということに、直は気づいたと思う」

── 打つほうに関しては……。

「攻撃に関してはもう少し頑張らなきゃいけなかったよね。バッターで、本当にいい数字だったねという人はいなかった。みんな、そこそこやったというのはあるけど、翔にしてもあんなものじゃないでしょ。そういうことも含めて、CSで負けてシーズンが終わった時、初めて全員を集めて言わせてもらった。『これがプロ野球なんだという本当のタフさ、本当の強さを身につけてほしい』って」

── 2018年シーズン、思ったよりうまくいったこと、思ったよりもうまくいかなかったことを挙げるとしたら、何でしょう。

「思ったよりもうまくいったことは……なかったかな。ここまで伸びてくれないかな、という選手に対する上限は、できるだけ高く持っているし、最悪、ダメだったときのこともかなり低くまで持っているので、そういう意味で意外だったことはないんだけど、誤算ということで言うなら、8月に入ったところまで(優勝争いに)ついて行けていれば、”行ける”と思ってチームを進めてきたのが、8月になって、一番いい位置にいたはずなのに、そこで落ちちゃったってことかな」

── 8月3日、首位のライオンズとの直接対決、3連戦の初戦がターニングポイントになった感じはします。2点リードで迎えた7回裏、守備固めで起用した石井一成選手の悪送球で逆転負け……あの3連戦は1勝2敗と負け越しました。

「あの3連戦がすべてというわけではないし、あの1勝2敗はその後の展開次第では取り戻せるものだったと思う。ただ、あの3連戦は狙いにいっていた勝負どころだったので、誰かのミスとか、そういうちっぽけな問題じゃなくて、どういう展開になったとしてもあそこをみんなで勝ち切れなかったことがすべてなんだよ。その責任は監督にある、という話ね」

── 最終的にはホークスにも抜かれて、3位で迎えたCSのファースト・ステージは札幌でなく、敵地の福岡で戦うことになりました。

「でも、あのCSで負けた時、『明日、また開幕してもいいのにな』って思ったんだよね。そんなこと、初めてだった。普通、CSで負けると疲れ切るんだけど、あの時は精神的にも肉体的にも余力があった。あのホークスとの第3戦を勝ち切る力はあったと思うし、あの試合を勝てば、もっと先にも行ける可能性は十分にあったと思う。だから、申し訳なかったという気持ちが残ったし、やり切ったという感じを持てなかったのかもしれないね……」

中編に続く

著者:石田雄太●文 text by Ishida Yuta


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