栗山英樹は一刀流の大谷翔平に期待「野球の神様はアイツに味方してる」

栗山英樹は一刀流の大谷翔平に期待「野球の神様はアイツに味方してる」

◆栗山英樹監督インタビュー(中編)

 メジャー1年目、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平は打者として打率.285、22本塁打、61打点、投手としてもシーズン途中にケガの影響で登板こそ10試合にとどまったが、4勝2敗、防御率3.31の成績を残し、ア・リーグの新人王に輝いた。何よりすごかったのが、メジャーに”二刀流”を認めさせたことではないだろうか。大谷の前指揮官である日本ハム・栗山英樹監督の目に、大谷のメジャー1年目はどう映ったのだろうか。

── このオフ、大谷翔平選手とは会いましたか。

「この前、一緒に食事をしたよ」

── 差し支えなければ、何を召し上がったんでしょう。

「東京で、フグをね。何を食べたいかを岸(七百樹/なおき=ファイターズの監督付きマネージャー)を通じて翔平に訊いてもらおうとしたら、岸が『アイツ、何でもいいって言いますよ』って言うんだよ。でも『一応、訊いてみてよ、大人ぶって寿司とかフグとか言ってくるんじゃないの』なんて話していたら、案の定、『フグ、高級なヤツ』って返事が来たらしくて(笑)」

── それはまた、大人なのか子どもなのか、ずいぶん微妙な線を突いてきましたね。大谷選手は先に着いて監督を待っていたんですか。

「まさか……30分前に着いて、お待ちしていましたよ(笑)。フグの専門店じゃなくて、オレがたまに行く六本木の和食の店。フグのいいのがありますよと言ってくれたんでね」

── 久しぶりに会った大谷選手の印象はいかがでしたか。

「よくしゃべるようになったよね。なぜバッティングを変えたのかとか、いろいろと嬉しそうに野球の話をしてくれた。今まではオレにそういう技術論は話さなかったんだけど、訊いたら全部、『それはこうなんですよ』って答えてくれて……やっぱりアイツ、大人になったのかな(笑)」

── たとえば、どんな質問に答えてくれたんですか。

「オレが訊いたのは、結果が出なかった開幕前、自分では打てる感じなのに打ててなかったのか、それとも最初から打てない感じがあって、それで打ててなかったのかってこと。そこは翔平が初めて『ああ、このままじゃいけない』と思った瞬間があったのかもしれないなってずっと思っていて、それはまさにオレが望んだことだったじゃない。

 そういう高い壁がアイツをさらに大きくすると思っていたわけで、だから大事なときに(フォームを変えるという)大きな勝負に出ることができたんじゃないかと思ってたんだよ。そこも素直に話してくれて、ああ、そういう現実を素直に受け止められるようになったんだな、それをこうして口にできるところまで来たんだな、と……それが大人になったと感じた理由なのかもしれないね」

── 大谷選手がフォームを変えたことを、監督は日本からどんなふうにご覧になっていたんですか。

「あの足を上げない打ち方、翔平は『日本にいたときから練習ではやっていましたよ』なんて言うんだけど、おいおい、ホントかよ、見たことねーしって(笑)。ただ、動きを小さく、少なくする方が一定の動きができるし、相手のボールに対応しやすくなる。そういうことを含めて、メジャーに行かなきゃ、起こらなかったことが実際に起きたわけだよね。楽しそうなあの表情もそうだし、天真爛漫に野球をやるあの姿が、ファイターズでは影を潜めていた時期もあった。だからこそ、メジャーへ行かせてよかったなと思うことはいっぱいあったよ」

── ステップしない、テイクバックで反動をつけないという小さな動きで、あんなに遠くへ打球を飛ばせる大谷選手のメジャー仕様のバッティングには本当に驚かされました。

「向こうのピッチャーが投げる強いボールに押されて差し込まれちゃうところを、あの小さな動きのなかであそこまで飛ばすんだからね。でも、オレは翔平がいずれはもう一度、足を上げて打つようになると思ってる。なぜかというと、動きを省くのはいいんだけど、今の翔平はわざと差し込まれながらインコースを打ってるわけ。普通、足を上げて体重移動するというのは、その間にボールを探したりとか、ポイントを探したりする時間ができるでしょ。

 要するに足を上げる動きというのは、ピッチャーとの間合いの時間をつくるという意味合いもあるのね。この時間に間合いを探りながら、足を着いてそのままポンと打ったり、足を着くのを我慢してポーンと打ったりとか……それを一切省くということは、いつもポンと打つことになる。それっていい面もあるし、よくない面もあるとオレは思ってて、インコースは差し込まれた感じで打つしかなくなる。でも、メジャーのピッチャーの強いボールに立ち向かうためには、小さな動きで得られた確実性を損なわない技術を身につけた上で、足を上げて動き出すという次のステップがあるはずなんだよね」

── 足を上げない打ち方では対応しきれない次元があるということですか。

「そう。たとえば翔平に(アロルディス・)チャップマンとの対戦の時のファウルについて(5月25日、ヤンキースタジアムでのヤンキース戦、8回ツーアウト1塁の場面で、ツーボール、ワンストライクからの4球目をレフトのポール際にファウル、5球目の101.9マイル/約164キロのストレートをショートゴロ)『惜しかったよね』って言ったら、『いやいや、申し訳ないですけど、日本であのタイミングで真っすぐを待ってて、(振り遅れて)あそこ(レフトのファウルゾーン)に行くピッチャーはいませんから』って……そういう感覚なんだよね。真っすぐ行きますよって投げてもらっているのに、あのファウルが精一杯だというんだから、やっぱりメジャーの野球、奥が深いよ」

── キャンプの時、結果を出せない自分と向き合った時、大谷選手は『メジャーは思ったよりも新しい技術を取り入れていた。でも日本で培ったもので勝負したいという気持ちがあったから、変えていいのかという葛藤があった』と振り返っていました。その言葉を監督はどんなふうに受け止めたのでしょう。

「嬉しかったよ。オレはそれを翔平に言い続けてきたつもりだったからね。メジャーはすごいけど、メジャーよりもすげえヤツがいるんだってことを翔平には示してほしいと……だから、翔平のやり方でメジャーリーガーを超えられるはずだし、超えてほしかった。

 実際、アイツ、この前の食事のときも話していたけど、翔平のなかに最初は”メジャー何するものぞ、オレが見せてやる”という気概は実際、あったと思う。ところが、それを変に意固地に押し通さないところがすごいんだよね。『すごいヤツはすごい。だったら今、オレがやらなきゃいけないことは何か。変えることは進化することなんだ』と気がつけたのは、翔平に素直な心があったからなんだよ。

 気概はいいんだけど、そこが強すぎて意固地になると、引っ張り過ぎる。もし気づくのがあと1カ月遅かったら、メジャー1年目は違うものになっていたはずで、あのタイミング(開幕してすぐ)で結果を出したからこそ周りもあんな感じになった。1カ月の遅れが人生を変えるんだよ。ホント、人生が変わっちゃう。あの1カ月がいかに彼の野球人生にとって大きかったか、ということ。あれがなかったら手術もできてないからね」

── なるほど、バッターとしての地位を確立した1年目があったからこそ、右ヒジのトミー・ジョン手術に踏み切ることができた、と……。

「そうでしょ。結果が出ない、気づく、変える、結果を出す、というこのスピードが翔平のすごいところ。しかも、それを誰にも言わないで、自分で決断していく。ちょっとでも間違えたら狂っちゃうのに、そこで狂うことなく踏みとどまることができるのは、やっぱりアイツ、野球の神様が遣(つか)わした選手だからなのかなって……だって、結果的には間違わないようになってるんだもんね」

── 確かに開幕してすぐ、ピッチャーとしてもバッターとしてもメジャーで高いレベルにあることを示したことで、あっという間にアメリカに二刀流を認めさせました。

「向こうの人に『二刀流? そんなのムリでしょ』って言われたら、それでおしまいだったかもしれない。開幕からポーンと結果を出したから、周りがアイツのことを認めた。懐疑的だった目を、翔平は自分の力で覆し、証明した。そこが本当にすごいところだったと思うんだよ」

── 23歳でメジャーリーガーになって、1年目の大谷選手、本当に自信に満ちあふれた、堂々たる立ち居振る舞いに見えました。それは、監督が伝えたかったことがきちんと伝わっていたということになるんでしょうか。

「そうだったらいいんだけどね。オレは、大谷翔平が誰かに媚びてはいけない、お前はお前の王道を歩かなくちゃいけないというふうにアイツと約束した。高校生の翔平に、ウチに来て、早い時期にアメリカへ行って、そして世界一の選手になるんだよねって、そう話した。メジャーで用意されたレールに乗るんじゃなくて、日本だろうがアメリカだろうが、大谷翔平のレールを突き進むんだと思っていたから、アメリカへ行く時、まずは日本で培ったもので勝負すると思ってくれていたことは、やっぱり嬉しかった」

── 手術明けの今シーズンは、監督が日本でもずっとイメージしていた、バッター1本で勝負することになります。

「そうだね……きっと苦しむんだろうね。今まではピッチャーをやることで、いい意味での逃げ道があったし、気分転換もできた。でもバッターだけだと、そこで結果を出さなければならないから、アイツの性格上、キツいだろうなって……でも、そのときにアイツがどうなるのか、見てみたいという気持ちもあるんだよ。

 オレはファイターズで唯一、アイツにしてあげられなかったことが、どちらかに絞ったシーズンを経験させるということだった。それを、まさかの手術のおかげで見せてもらえるんだから、つくづく野球の神様はアイツに味方してるってことだよね。オレはそう思ってるんだ」

後編につづく

著者:石田雄太●文 text by Ishida Yuta


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