名打撃コーチも絶賛。根尾昂の未来像は「鳥谷敬のような打者になる」

名打撃コーチも絶賛。根尾昂の未来像は「鳥谷敬のような打者になる」

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」
連載●第35回

 まもなくプロ野球のキャンプがスタートするが、連日、大きな話題となっているのが中日のルーキー・根尾昂(あきら)だ。野球に対する姿勢、練習内容はもちろん、視察した伊東勤ヘッドコーチは「内転筋の使い方はイチローに通じるものがある」と絶賛した。残念ながら自主トレ中にふくらはぎを痛めキャンプは二軍からのスタートになったが、高校時代のセンスのよさから、どれだけの打者に成長するのか期待は膨らむばかりだ。プロの目線から、根尾はどんな打者に成長していくのか。名打撃コーチとして知られる伊勢孝夫氏に根尾の将来について語ってもらった。

* * *

 近年、高校からプロ野球の世界に入ってくる選手は好素材が多いが、そのなかでも根尾は群を抜いていると思う。甲子園大会などで感じた彼の一番のよさは、逆方向(レフト方向)にうまく打てるところだ。

 それを可能にしているのは、手元までボールを呼び込める懐の深さ。そしてうまくボールをとらえ、レフト方向へ払うように運べる技術の高さである。

 懐の深さは体の使い方が柔軟なこともあるが、おそらく動体視力もすばらしいのだろう。並みのレベルでは、打つべき球か見逃す球か、どうしても早めに決めてしまいがちになるが、その判断を0コンマレベルでも遅くできているのは、動体視力によるものが大きいと思う。

 天性の身体能力と高度な技術。素材としては申し分ない。もし仮に、私がコーチとして根尾を預かる立場だったら、キャンプに入る時にこう言うだろう。「あまり頑張ろうとするなよ」と。

 高校から騒がれてプロ入りした打者は、当然ながらいいところを見せたいと頑張る。その姿勢は必要だ。しかし打者が頑張ろうとする時は、得てして強振してしまい、引っ張る傾向が強くなる。スポーツ紙などもフリー打撃で”柵越え何本”と煽る。なかにはそうした報道によって、フォームを崩してしまう選手がいる。とくに新人に多い。

 キャンプは打撃投手や若手投手を相手に打つことが多く、オープン戦も序盤までは実績の少ない投手がほとんどだ。正直、根尾ぐらいの打者ならそれほど苦労することはない。

 だが、この時に意識してほしいのが、逆方向に打つことである。引っ張った打球が多くなるということは、自ずと体が開き気味になる。それでは外角の変化球に対応できるはずがない。実績のない若い投手ならコースに投げきるコントロールがないため、そこまで苦労することはないと思うが、キャンプ終盤になれば主戦級の投手が投げてくる。おそらくここで”プロの壁”にぶち当たるだろう。

 焦り、戸惑い、自信をなくし、首脳陣は「ひとまず二軍でじっくり鍛え直させよう」となる。そんな悪循環をこれまで何度見てきたことか……。

 打撃コーチ経験者として言わせてもらえば、根尾のようにあるレベルに達している選手は、二軍に置かず、一軍で鍛えた方がいいと思う。基本的な技術は間違いなくある。おそらく苦しむのは相手バッテリーの攻めだろう。そうした課題は一軍の試合を経験していかないとクリアできない。一軍の試合に出てこそプロの配球を覚えていくのだ。

 そういう意味で、日本ハムの栗山英樹監督は大谷翔平といい、清宮幸太郎といい、高卒選手の使い方がうまい。それを与田剛新監督にいきなり求めるのは酷だが、しかし監督としてみれば”金の卵”を預かるのは大変な仕事だ。壊してはいけないし、甘やかしてもいけない。

 ただ聞くところによると、根尾は非常に頭のいい選手らしい。自分の課題、やるべきことは承知しているかもしれない。ならば、ほっとけばいい。本人が何かに戸惑い、聞いてきた時に教えてあげればいい。

 気になることがあるとすれば、新たに打撃コーチに就任した村上隆行だ。私が近鉄コーチ時代に指導した仲だからあえて言わせてもらうが、彼はしっかりとした打撃理論があるだけに、いわゆる選手を「いじりたがる」コーチになってしまう不安がある(苦笑)。根尾を一人前に育てたいという気持ちはわかるが、それが気負いとなり、結果を求めようとしすぎると取り返しのつかないことになる。結果を求めるのは、ルーキーに対して一番やってはいけないことである。

 そしてファンの注目は、これから根尾がどんな選手に育っていくかということだろう。まだプロで1打席も立っていない選手を評するのは、難しいし抵抗がある。それでもあえて言うなら、あくまで私の個人的なイメージだが、阪神の鳥谷敬のような選手に育っていくのかなと思っている。技術の高さもさることながら、ツボにくれば一発もある。あとは練習、試合を重ねていくなかで、どれだけ強い体と精神力を鍛えられるかだろう。

 また根尾が将来、イチローの域まで期待される打者となるかどうかだが、そのポイントはヒザ元の低めの変化球をいかにさばけるかに尽きる。私はよく「右投げ左打ちの死角」という表現をするのだが、つくられた左打者の場合、どうしてもヒザ元に落ちる変化球が見えなくなるという話を聞いたことがある。

 私は右打者だから、そうした実感はないが、多くの左打者がそう漏らしていたのは確かだ。”利き目”の問題かなとも思うが、いずれにしても右投左打の打者がヒザ元に落ちる変化球に対応できるか。根尾もその例外ではないだろう。

 そして最後に、野球選手にとって大事なことは考え方だ。ノムさん(野村克也氏)が「野球は頭のスポーツ」という趣旨の言い回しをよくするが、言い換えれば、体力や技術はプロに入るような選手なら、じつはそれほど大差はない。一流とそうでない選手に分かれるのは頭。つまり、思考である。

 この思考にはさまざまな要素がある。相手バッテリーの攻め方に対処するための準備。自分のフォームが狂ってきていないかをチェックできる客観的な目。新人でこれができる選手はほとんどいない。

 そんななかで自分を見失うことなく、自分の打撃をいかに発揮できるか。1年目からそこまで根尾に求めるのは酷だろうが、それだけの期待をさせる選手であることは間違いない。

 自主トレで故障し、キャンプは二軍からのスタートになったが、慌てる必要はまったくない。また一軍に上がる可能性はあると思うが、「絶対に無理をするな」と言いたい。そこを自分でコントロールできれば、何の心配もないだろう。

 しつこいようだが、村上コーチには「あまりいじくり回すなよ」と言いたい(笑)。何も言わずじっと見守ることも、立派なコーチングである。

著者:木村公一●文 text by Kimura Koichi


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