福田正博のアジアカップ総括。「森保Jには優勝以外の目的があった」

福田正博のアジアカップ総括。「森保Jには優勝以外の目的があった」

◆福田正博 フットボール原論

アジアカップで準優勝に終わった日本代表。優勝を逃したことで、森保一監督の采配について一部で批判的な声もあがっていた。だが、元日本代表FWの福田正博氏は、この先の日本代表のためにプラスになる点が確実にあると、森保采配の狙いを分析した。

 日本代表はアジアカップ決勝でカタールに敗れて準優勝に終わった。タイトルを逃したことへ厳しい意見も出ているが、私は森保一監督が一定の成果を出したと評価している。

 今回のアジアカップは、各国それぞれの事情や狙いのもとにチームを編成していたと言える。優勝したカタールは、自国開催の2020年W杯に向けて何年も前から強化してきた選手たちで臨んだ。準決勝で対戦したイランはカルロス・ケイロス監督体制の集大成という位置づけでW杯ロシア大会に臨んだメンバーを主体にして戦った。そのため両チームの成熟度や完成度は高かった。

 一方、日本代表はアジアカップのタイトル獲得を目標としつつも、W杯ロシア大会を戦った選手たちを主軸とするイラン代表のような選手選考ではなかった。今回のアジアカップで森保監督は、『世代間の融合』や『若手の経験値を高める』こともテーマに、ロシアW杯メンバーではない若手も招集して大会に臨んだ。これは、優勝を狙いながらも来年の東京五輪や3年後のW杯カタール大会を見据えているということでもある。

 メンバーを刷新してスタートを切った新生日本代表が、この大会で最大試合数の7試合を戦えたことの意義は大きい。現在の日本代表は海外組がほとんどで合宿を重ねることが不可能に近いため、決勝まで勝ち上がることで選手たちが約1カ月間、トレーニングをしながらコミュニケーションを深めることができたからだ。

 最大の収穫は、冨安健洋(シント・トロイデン)の台頭だ。チームというものは、バックアッパーが増えただけではチーム力の向上にはならない。それまでのレギュラーをベンチに追いやる選手が台頭して初めてチーム力の向上につながる。その点で今大会を通じた冨安のパフォーマンスは、CBのポジション争いを大いにレベルアップさせた。

 188cmの冨安のよさは、高さを生かした空中戦だけではない。対人の強さに加えて、アジリティ(俊敏性)や足元の技術も高い。なによりプレーの先を読む力が秀でている。ボールが出てくる場所を予測する能力が高いからこそ、早めに動き出していいポジションを取れる。だからこそ、経験値が求められるCBにあって、弱冠20歳ながらも落ち着きのあるプレーでチームに安心感を与えられる。

 攻撃面でも冨安は高いレベルにある。セットプレーでのターゲットとしてはもちろんだが、ビルドアップでも目を見張るものがある。ボランチにマークがついているときに、CBがドリブルで持ち出すことができないと、攻撃は手詰まりになるが、そうしたときに冨安はゆっくりとボールを中盤に運びながら、精度の高いパスを入れていく。CBは相手にボールを奪われたらピンチを招くポジションなだけに、足元の技術、広い視野の確保、スピードなどを備えていないとできないことだ。

 冨安がさらに成長していくには、経験値を高めていくことが欠かせない。自分の予測を超える動きやスピードを持つ選手と数多く対峙し、守備の対応の引き出しを増やしていく。そのためには、現在プレーするベルギーから、さらに上のリーグへステップアップしていくことに期待したい。

 一方、日本代表の課題に目を向ければ、「大迫への依存」、「戦術的な幅」、「選手の自律と対応力」がある。

 大迫勇也(ブレーメン)の存在は、彼がいなければ日本代表の攻撃が機能しないほど大きい。日本代表には2列目にアジリティとスピード、技術力の高い選手がいて、彼らを活かせるかどうかはCFの力量にかかっていると言っても過言ではない。実際、カタール戦では相手に分析されて、大迫を抑えられてしまうと攻撃は機能しなかった。

 ポストプレーというと長身選手を思い浮かべるかもしれないが、大迫は182cm。高さと強さを備えているに越したことはないが、大切なのは体のサイズではなく、190cm以上の屈強なDFを相手にしてもボールをおさめる技術を備えているかどうかだ。

 ボールを失わず、起点になって時間をつくることで、2列目の選手が攻撃に加わることができ、相手DFを引きつけることで味方のスペースも作り出す。守備でもDFラインが弾き返したボールを中盤でおさめてタメを作ることができれば、ゲームの流れを変えることができる。

 大迫はドイツに渡ってポストプレーを磨いてきた。CBに冨安が現れたように、多くの若手が大迫のようにFWとしての能力を高めることにチャレンジして、頭角を現してもらいたい。

 また、アジアカップで見えてきた課題は、「戦術の幅」と「選手たちの自律」にあったと感じている。たとえば、カタールは育成年代から同じ監督のもとでプレーし、3バックでも4バックでも戦えるチームとしての戦術的な幅があった。しかし、日本は森保体制が発足してまだ4カ月ということもあって、そこが不足していた。

 ただし、これはチームの成熟度の差であり、日本代表も今後、戦術的な幅を手にできるはずだ。それだけに森保監督には、現在の4−2−3−1の形を極めながら、どこかのタイミングで3バックにもトライしてもらいたい。

 もうひとつの課題である「選手の自律」は、日本サッカー界が長年抱えている問題と言える。ヴァヒド・ハリルホジッチ元監督が顕著な例だが、指導者が強い言葉で指示を出すと、日本人選手は言われたことだけを実行する傾向があり、自分自身で判断することをしなくなってしまう。

 ピッチ上で実際にプレーするのは選手たちで、刻々と変わる戦況に応じて自分たちで考えて対応しなければいけない。イビチャ・オシム元監督が常々言っていた「考えて走る」ということだ。森保監督もまた、ベンチの指示待ちだけの選手は強豪国と戦えないことを十分に理解している。そのため、チームとしての方針は明示しながら、ディテールは選手たちに考えさせるようにしているのだろう。

 しかし、アジアカップ決勝のカタール戦では1失点目がオーバーヘッドシュートの「まさか」というゴールだったこともあって、守備の混乱の修正ができないまま前半だけで2失点。こうした展開のとき、ベンチからの指示を待つだけではなく、ピッチにいる選手たちが自らの判断で対応するには、まだまだ課題が残っているとも言える。

 監督の仕事というのは、「試合前までに8割が終わる」と言われている。究極は、試合が始まれば監督がほとんど何もしなくても選手たちが考えてプレーし、勝利できるチームを作ることにある。今大会での日本代表選手たちの成長と課題を、森保監督は今後につなげていくはずだ。

 日本代表は、6月には20年ぶりに南米選手権に臨む。チームというのは「競争」と「一丸」を繰り返しながら成長していくもので、アジアカップでは一丸となって戦った選手たちは、南米選手権のメンバー招集まで競争が続く。3月と5月に2試合ずつの親善試合が予定されているが、アジアカップで成果を出した選手たちのレギュラーの座が保証されているわけではないだろう。

 冨安が台頭したCBには、吉田麻也(サウサンプトン)のほかに、昌子源(トゥールーズ)、植田直通(サークル・ブルッヘ)、三浦弦太(ガンバ大阪)がいて、さらには東京五輪世代には今冬から海外に移籍した板倉滉(フローニンゲン)や中山雄太(ズヴォレ)もいる。ボランチやサイドMFのポジションにもスタメンを取って代わろうという選手は多い。ここまで森保体制下では中心選手として起用されてきた南野拓実(ザルツブルク)にしても、香川真司(ベジクタシュ)が新天地で結果を残せば安泰とは限らないはずだ。

 2022年のW杯カタール大会という”目的地”へ向けて、森保ジャパンはブレることなく歩みを進めていってほしい。

著者:津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro photo by Fujita Masato


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