矢野燿大、与田剛はどのタイプか。名コーチが説く「いい監督の条件」

矢野燿大、与田剛はどのタイプか。名コーチが説く「いい監督の条件」

◆名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載第36回(最終回)

 今シーズン、セ・パ両リーグ合わせて5人の監督が代わった(代行監督から正式に監督に就任した楽天・平石洋介監督を含む)。巨人の原辰徳監督は4年ぶりの現場復帰で、オリックスの西村徳文監督も過去にロッテで采配をふるった経験がある。一方、これまで一軍の監督経験がないのが、阪神・矢野燿大(あきひろ)監督と中日・与田剛監督のふたり。彼らが指揮官としてどんな野球を見せていくのか興味深いが、はたして「いい監督の条件」とはどんなものなのか。これまで選手、コーチとして多くの監督に仕えた伊勢孝夫氏に語ってもらった。

* * *

 いい監督の条件──それは「勝つ」のひと言に尽きる。ベテラン監督だろうが新人監督だろうが、要は「この人について行きたい」と思わせることができるかどうかである。極端な話、人間的には大嫌いでも、勝てる監督なら選手も我慢してついてくる。逆に、人としての魅力はあっても結果を出さないと選手はついてこないものだ。

 チームが好調な時というのは心配ないが、問題は勝てなくなった時、チームの状態が悪くなった時にどう対処できるか。その時に監督の力量が問われる。いい監督、勝てる監督というのは、こうした非常時に直面しても引き出しの多さでそれを乗り切ることができる。

 では、具体的に引き出しとはどのようなものなのか。もちろん、作戦なども重要だが、一番はやはり選手起用だ。

 監督のタイプを大別するとしたら、次の2つに分けることができる。

1. 戦い方に強い持論を持ち、そのスタイルに選手をはめていくタイプ

2. 選手の顔ぶれと力量に応じて戦い方を変えていくタイプ

 1の代表例は、やはりノムさん(野村克也氏)だろう。”ID野球”を掲げ、キャンプから選手をミーティング漬けにして、試合以前の心構えから教育していった。

 一方、2の代表例は、近鉄、オリックスで指揮を執った仰木彬さんだろう。近鉄の監督時代はパワフルな選手たちの個性を最大限に生かし、”いてまえ打線”を形成し奔放な野球を展開した。またオリックスの監督時代は、相手投手との相性を重視してスタメンを決定する”猫の目打線”で戦い、リーグ連覇を成し遂げた。

 どの監督にも特徴があるものだが、こうした違いというのは主義というより、性格によるものが大きい。

 たとえば、広島の緒方孝市監督は自分のスタイルに選手をはめていくタイプだし、逆にヤクルトの小川淳司監督は選手の力量に合わせて戦い方を決めていくタイプである。

 また、4年ぶりに現場に戻ってきた巨人・原監督だが、2007年に1シーズンだけ打撃コーチ補佐として仕えたことがあるが、印象としては「ひらめきで動き、それに選手たちがついてくる」という感じがした。

 ノムさんも選手に多くを要求したが、その前提として説教やボヤキという形で普段から自分のスタイルというものを浸透させていた。だが、原監督は教え説くタイプではない。マスコミをうまく利用し、バーンと自分の野球を掲げ、あとは選手たちが自分なりに理解し行動する。一見、乱暴なやり方に映るが、選手の個性は失われることがない。

 日本ハムの栗山英樹監督は、教え説きながらも選手のレベルに合わせた戦いをしているように見えるが、実際は自分の戦いを強く持ち、ついて来られない選手は切るという冷酷さを持ち合わせているように映る。

 このようにある程度、指揮官として経験を積めば自分のスタイルというものが確立されていくのだが、阪神の矢野監督、中日の与田監督はどのタイプなのか。こればかりは始まってみないとわからない。

 そのなかで新人監督が気をつけないといけないのは、自分の個性を出そうとし過ぎることだ。多くは前任者のチームの不振により監督に抜擢されるわけだが、選手起用にしても作戦面においても、これまでとは違った戦いをしたがる傾向にある。もちろん、その気持ちは理解できるし、チームを変えるという意味では当然のことである。ただ、「変えなきゃ」という意識だけが先走りすると非常に危険である。

 まずはしっかりと戦力を見極め、その上で自分のスタイルを確立していくというのが理想だろうが、そこもある程度の結果を出さないと「あの監督は何がしたいのかわからない……」となってしまう。そのあたりのさじ加減が非常に難しい。

 選手の調子がいい時はあまり動かず、調子が落ちてきたら代える。その繰り返しでチーム全体の調子を一定のレベルに維持する。言葉にするとすごく簡単なようだが、本当に難しい。それができれば、もう十分に一流監督である。

 そして、監督のもうひとつの大事な仕事が育成である。たとえば、若い打者はいい時は爆発的な力を発揮する反面、出場が続けば集中力、体力が消耗し、調子を落とす。だが、調子が落ちたからといって外してしまえば、主力選手に育たない。だからといって、我慢して使い続けるとチームにも悪影響を及ぼす可能性があるし、なによりその選手がさらにスランプになることもある。

 多くの場合は技術の問題なのだが、二軍に落として鍛え直すのか、それとも一軍に帯同させて調整させるのか、その判断は非常に重要になる。選手の状態から決めることがほとんどだろうが、たとえば対戦カードを見て相手投手のレベルがやや落ちると見て、使い続けることもある。それで調子を上げた選手を何人も見てきた。

 監督というのは、目の前の試合を戦いつつ、自軍の選手の調子を見極め、次のカード、あるいはその先のスケジュールを見渡して、選手起用を考える。もちろんコーチの手助けはあるが、最後に決めるのは監督だ。代打、投手交代など、成功すればいいが、失敗すればやり玉に挙げられる。

 その重圧のなかで毎日ベンチに座り続けるのは、傍目から想像する以上に過酷である。正直、3〜4年もやれば、寿命が縮んでしまうのではないか……本当にそう思えるぐらい大変な仕事だ。

 それでもプロ野球の一軍監督というのは、12人しかなれない。誰でもできるわけではない。言わば、それだけ名誉な仕事であるのは間違いない。とはいえ、くれぐれもお体だけには気をつけて(笑)。

著者:木村公一●文 text by Kimura Koichi


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