錦織圭が取り戻した天性のタッチ。未来に向けてさらに必要な要素は?

 時速220キロのサーブが容赦なく赤土をえぐった時、錦織圭は顔をしかめて天をあおぎ、フェンスに跳ね返り足もとに転がってきたボールを恨めしそうに打ち返した。

「このコートは、サーブがいい選手と対戦するのが難しい」


クレーシーズンになって徐々に調子を取り戻してきた錦織圭

 戦前に抱いていたその危惧が現実になることを告げるかのような、マドリード・オープン3回戦の立ち上がり。野性味あふれるプレースタイルから、「アニマル=猛獣」をもじった”スタニマル”の愛称で知られるスタン・ワウリンカ(スイス)は、自慢の豪腕から強烈なサーブを連発し、錦織をねじ伏せにかかる。

 第1セットでワウリンカがブレークしたのは第2ゲームのみではあるが、流れを掌握するには十分だった。このセットを通じ、ワウリンカがサービスで失ったポイントはわずかに2。6−3というスコア以上に、一方的な展開だった。

「圭とは試合も練習も何度もしてきたので、お互いのプレーはよく知っている。彼との対戦は常に、どちらが攻撃の主導権を手にするかにかかっている。いいサーブを打つこと、そして彼を左右に走らせることを考えていた」

 ワウリンカは錦織と戦う際の勘所を、そのように述懐する。

 一方、第1セットを26分で失った錦織は、相手の調子のよさを感じると同時に、ワウリンカの速い展開に焦りを覚え、自分のミスが増えていたことも感じていた。

 そのうえで迎えた第2セットでは、まずは徐々にサーブを攻略しはじめる。とくに、相手のセカンドサーブを早いタイミングで叩き、そこからの展開で優位に立つ場面が増えた。

 第4ゲームでは、軽やかに飛び上がると鋭いバックハンドのウイナーを叩きこみ、この試合初のブレークポイントも掴む。結果的にブレークには至らなかったが、それでも、相手にプレッシャーを与える効果は十分にあっただろう。

 第1セットよりも慎重にプレーしはじめたワウリンカに対し、錦織はドロップショットやネットプレーで揺さぶりをかけていく。第2セットは互いのゲームをキープしあい、奪ったポイント数はワウリンカ40、錦織が39。がっぷり四つに組み合ったまま、タイブレークへともつれこんだ。

 タイブレークでは先にポイントを失った錦織だが、直後に追いつく好機を得る。ストロークで優勢に立った錦織は、力なく浮きあがった相手の返球を、余裕を持って強打した。だが、決めなくてはとの思いが手もとを狂わせたか、打球は大きくベースラインを越えていく。

 さらにはその5ポイント後にも、狙いすましたドロップショットがわずかにサイドラインを割った。最後はワウリンカのバックの強打に押し込まれ、1時間9分を要した第2セットも、掴み取るには至らなかった。

 勝負に「たら・れば」は禁物である。ワウリンカの視点に立てば、第2セットの終盤でわずかにラインを割った幾つかのショットが入っていれば、より早い段階で試合を決められたという見方もできるだろう。ただ、タイブレークでの錦織のスマッシュとドロップショットのミスほどに、超満員の客席からため息がこぼれた場面がなかったのも、また事実だ。

「タイブレークを取れていれば、さらに(自分のプレーが)よくなったかもしれません。惜しいミスが2個、3個とあったので……惜しいというか、取れていればチャンスはあったのかなという試合でした」

 錦織も試合後に、その局面を悔いた。

 4大会で2勝しかできなかった2月中旬〜4月中旬の苦しい時期を経て、ここ2大会で錦織が調子を取り戻してきているのは間違いない。時間を持ってボールを打てる赤土のコートで、錦織の創造性や天性のタッチが引き出されている感もある。

 それらを勝利につなげるカギは、この日のワウリンカ戦、あるいは2週間前のバルセロナ・オープン準決勝の最終セットでリードしながら逆転を許したダニール・メドベデフ(ロシア)戦のように、競った局面で取るべきポイントを取ることだろう。

 そのために必要なひとつの要素として、錦織は「自信」を挙げた。

「自分のプレーが安定すれば、自然と自信はついてくる。今日は、乗り越えていればというところで、取りきることができなくてチャンスを逃した」

 この日の試合をそう振り返ったうえで、錦織は未来に向けて言った。

「プレーはよくなっているので、やり続けて自信を高めていくしかないかなと思います」

 錦織は数カ月前、若手の台頭など流動性を増すテニス界の現状について問われた時、「他人と比べる人生は嫌なので」と、口にしたことがある。自身をコートに駆り立てる原動力を、「ゴールに向かって走っているだけというか……大きな目標があって、それが一番のモチベーション」だとも断言した。

 彼は、周囲を物差しとして自分を測ることなく、ゴールへと続く道をひたむきに進んでいる。その先に、求め続けた対価があると信じて。

著者:内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki


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