「バルサの化身」。現役を引退するシャビが目指す監督像とは?

「バルサの化身」。現役を引退するシャビが目指す監督像とは?

「僕らは勇敢でなければならない。たった一度のミスでボールを奪われ、失点する危険はある。ミスを誘った方が、勝負の効率がいいのもわかっている。それでも、怯んではならない。なぜなら、それがバルサの伝統だから」

 大きな目をクリクリとさせ、瞳を潤ませながら、シャビ・エルナンデスは熱っぽく語っていた。10年以上前のインタビュー。その声は朗らかで人懐こかったが、バルセロナの哲学を語るときの口調は確信に満ちたものだった。

 彼自身が”バルサの化身”であるかのような錯覚を受けた。

 そのシャビ(39歳)が先日、現役引退を表明した。カタールのアル・サッドでプレーして4年目。5月20日のアジアチャンピオンズリーグ、グループステージ最終節、ペルセポリスとのアウェー戦が最後の試合になると言われている。6月からはスペインに帰国し、マドリードで指導者講習を受け、ライセンスを取得して監督業をスタート。まず1年間は、カタールで指導者として活動する予定だという。


アル・サッド(カタール)に所属、現役引退を表明したシャビ・エルナンデス

 シャビとは何者で、どこへ向かうのだろうか?

 シャビはバルサにおいて、リーガ・エスパニョーラだけでも505試合に出場している。これはクラブ歴代第1位の記録である。さまざまなカップ戦も含めると、出場試合数は800近いだろう。

 リーガ優勝8回、チャンピオンズリーグ優勝4回、スペイン国王杯優勝3回、クラブワールドカップ優勝2回……。タイトルを書き連ねると淡々としたものになるが、この一部だけでも体験できる選手が何人いるだろうか。

 シャビはスペイン代表選手としても、新たな時代を切り拓いている。”無冠の無敵艦隊”と揶揄されていたスペインを、司令塔として2度の欧州制覇(2008、2012年)、そして2010年南アフリカワールドカップ王者に導いた。その功績は計り知れない。あのリオネル・メッシも成し遂げられていない世界王者になっているのだ。

 だが、シャビの偉大さは、やはり数字やタイトルでは語ることができない。

 プレーメイキングは天才的だった。ビルドアップで、自らの足下にパスを呼び込む。当然、敵が潰しにかかってくる。シャビはそれを予測し、相手の逆を取って、くるりと反転し、かわす。むしろ、相手を引きつけるように。そうすることで、味方の次のプレーを解き放つ。壮大なボールゲームを可能にしたのだ。

 その挑戦的な姿勢こそ、シャビの極意であり、バルサイズムそのものだった。

「自分たちがボールを持っていれば、決して敗れることはない」

 1988年にバルサの監督に就任したヨハン・クライフは、チームに前衛的な哲学を植え付けた。下部組織であるラ・マシアを、ボールプレーを軸に整備。その薫陶を一身に受け、育ったのが、シャビだった。

「バルサにはバルサのスタイルがある。勝つことよりも、いかにしてボールを失わず、運び、支配できるか。それはクライフが確立した概念であって、誰にも変えることはできない。たとえ、どんな監督が来たとしても、それは変わらないよ。カンプ・ノウに来る観客が、伝統に背くことを許さないからね」

 シャビは高らかに言う。その伝統を貫くことによって、彼は数々の偉業を成し遂げ、世界中から賞賛を浴びた。

<ボールゲームの追求こそが、勝利の法則>

 シャビはそれを頑なに信じている。勝ちにこだわるのか、美しいプレーを目指すのか、しばしば論争はあるが、彼の場合、迷いがない。

「私はイニシアチブを取って、攻撃を仕掛けるチームを見るのが好きなんだよ。かつてサッカー少年たちがみんなそれを目指し、愛したように、ね。自分たちがボールを持って、動かすサッカー。それには、スキルとビジョンを高めることが重要だ」

 そう語るシャビの理想は不動である。自ら選手として培ったプレーを、監督としても置き換えるのだろう。それは決して簡単なことではないが、厳しい挑戦にこそ、彼の心は沸き立つ。

 かつて、忘れられない試合について訊ねたことがあった。

「忘れられない試合は、2004年のクラシコ(レアル・マドリードとの伝統の一戦)だね」

 彼は間髪入れずに答えている。

「敵地でのゲーム。終了間際の得点で僕らが勝ったんだけど、ゴールが入った瞬間は忘れられない。束の間だったはずだけど、スタジアムが静まり返って沈黙した。それまでの騒ぎが嘘のように、人々が一瞬にして世界から消えた気がしたよ。選手同士、抱き合って喜んでいたら、野次やブーイングの嵐が戻ったんだけどね。世界の時が止まったようで、とても素敵だった」

 レアル・マドリードを敵地で破る。それは歴史的に虐げられてきたカタルーニャ人にとって、最高の栄誉である。そこに、反逆の意志が見える――。シャビのサッカー観は、まさに反逆的と言えるだろう。難しいボールゲームの挑戦に、勇ましく挑む。それは監督になっても、変わることはない。

「監督としての自分の哲学は、ラ・マシアで受けてきた指導が反映されるだろう。クライフの影響を受け、長年、育んできたものというか。それはすなわち、バルサのスタイルということになる」

 シャビが監督としてバルサを率いる――。それは遠くない未来の話だろう。先日、スポーツ紙「マルカ」がWebで行なった「来季のバルセロナの監督にふさわしいのは?」というアンケートで、シャビはトップの26%の票を獲得した(2位ユルゲン・クロップ/リバプール、3位エリック・テン・ハーグ/アヤックス、4位キケ・セティエン/ベティス、5位が現職のエルネスト・バルベルデで9%だった)。

 シャビ・バルサ誕生、それは単なる継承ではない。


著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki


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