なぜドラフト指名漏れ? 大学屈指の快足野手はプロ入りをあきらめない

なぜドラフト指名漏れ? 大学屈指の快足野手はプロ入りをあきらめない

——こんなにいい選手が、なぜドラフト指名漏れなのだろう……。

 2年前の秋。ドラフト会議直後に開催された横浜市長杯(関東地区大学野球選手権)で上武大のエース右腕を見て、そんなため息をつかずにはいられなかった。

 プロ志望届を提出しながら、どの球団からも指名を受けなかったその右腕は、力強く角度のあるストレートと、縦に鋭く曲がるカーブを武器にすばらしいパフォーマンスを見せた。

 バックネット裏には多数のNPBスカウトが見守っていたが、なかには「指名しておけばよかった」と、ほぞを噛む思いをしていたスカウトもいたかもしれない。まるで指名漏れの悔しさを晴らすかのような快投だった。

 その後、右腕は上武大の恩師・谷口英規監督の古巣でもある東芝に入社し、社会人野球でも活躍。そして2年後のプロ解禁年となる今年、西武からドラフト1位指名を受けた。それが社会人きっての即戦力右腕と評価される宮川哲である。

 ドラフト会議は、すばらしい選手から順番に指名を受けるわけではない。各球団の補強ポイントという「需要」にマッチした選手から名前を呼ばれていく。それゆえ、高い実力を秘めながらエアポケットにはまったように名前が呼ばれない選手が毎年出てくる。2年前の宮川がまさにそうだった。


大学3年時は24試合で26盗塁を記録した白鴎大の金子莉久

 今年もドラフト会議直後に横浜スタジアムで開催された横浜市長杯を見ていて、再び「なぜこの選手が指名漏れなの?」と感じる選手がいた。それが白鴎大の外野手・金子莉久(りく)である。

 金子は大学屈指の快足として知られている。3年時には春秋リーグ合わせて24試合で26盗塁という驚異的なペースで走りまくった。ただ、金子本人は「3年の時はちょっとやりすぎました」と振り返る。

 その後、金子が出塁するたびに、リーグ内の投手から執拗に牽制球を投げられる徹底マークにあったのだ。今秋は「大事な場面だけ走るようにした」と、関甲新学生リーグ10試合で4盗塁にとどまった。

 指名漏れの原因について、本人は「すべての力が足りませんでした」と全面的に受け入れている。とはいえ、これだけのスピードを持つ一芸選手はプロとはいえそういるものではない。

 身長161センチ、体重65キロという極めて小さな体がスカウト陣から敬遠されたのだろうか。また大学2〜3年時はスローイングの弱さを見せた時期もあった。だが、今は強肩とまで言えなくとも及第点のレベルにある。金子は以前まで強い送球ができなかった原因を明かしてくれた。

「2年の時に右ヒジのクリーニング手術をして、3年までは強いボールが投げられなかったんです。でも今は回復して、だいぶ投げられるようになりました」

 横浜市長杯初戦の創価大戦。相手の先発投手はヤクルトから3位指名を受けた速球派右腕・杉山晃基だった。1回表に創価大にいきなり4点を先取され、嫌なムードが広がるなか、金子が打席に入った。

 金子は今夏から、拳ひとつ分バットを短く握るスタイルに変えている。それまではバットを長く握ったほうが打てると考えていたが、「それは間違いだった」と悟ったという。

「短く持って『速く振る』イメージで練習したら、今までより打球が速くなったんです。ホームランを打つのは難しいかもしれないけど、外野の間を速い打球で抜けば三塁打になりやすいですから。もっと早くこのスタイルにすればよかったです」

 フォームはコンパクトだが、スイングは鋭く速い。杉山の146キロの快速球にも振り負けることなく、金子はセンター前にクリーンヒットを放った。この一打で勢いづいた白鴎大は、大下誠一郎(オリックス育成6位)や金子と同じく指名漏れの憂き目にあったラミレス・レンソのタイムリーなど、4安打2四死球を集め、杉山をマウンドから引きずり下ろした。この回、白鴎大は5点を奪い返して逆転に成功する。

 その後、金子は5対6と1点ビハインドの7回裏に、今度は創価大2番手の望月大希(日本ハム5位)から投手強襲の内野安打を放つ。肉眼で追えないほどのハイスピードのライナーが、望月の右上腕に直撃した。この安打を皮切りに、白鴎大は再び逆転に成功する。

 杉山と望月、ドラフト指名された投手への対抗心があったのか。金子にそう問うと、「はい、ありました」と即答だった。そして金子は、冗談めかしてこう続けた。

「ドラ3とドラ5を打ったんで、僕もプロに入れてくれないかな?」

 試合は二転三転し、白鴎大が10対9で逆転サヨナラ勝ちを収めた。逆襲の火をつけたのは、ドラフト指名漏れを味わった金子の反骨心だった。

 大学卒業後はJR東日本に進み、硬式野球を続ける。もちろん2年後のプロ入りはあきらめていないが、JR東日本は社会人屈指の強豪である。当然、まずはポジションを確保しなければならない。金子は引き締まった表情でこう語った。

「JRさんに1回練習参加させていただいて、練習の質と熱がすごかったです。先輩たちに負けないように、食らいついていきたいです」

 ドラフト会議当日、金子は指名がなかったラミレスらと「プロはそんなに甘くないな」と語り合い、4年生たちで居酒屋に向かったという。

 2年後に美酒を飲めるかどうかは、「今後の自分次第」とすでに覚悟を決めている。金子は「すべてにおいてレベルアップしたいです。底上げします」と力強く宣言した。JR東日本の偉大な先輩である赤星憲広(元阪神)のように、いずれ球界に名をとどろかせるスピードスターになる可能性は十分にある。

著者:菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro


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