甲斐野央が描く驚きの成長曲線。わずか1年で侍Jに欠かせない存在だ

甲斐野央が描く驚きの成長曲線。わずか1年で侍Jに欠かせない存在だ

 経験が「人」をつくるという言葉がある。

 今季、ソフトバンク・甲斐野央を見ていると、まさにその言葉がピタリとはまるというか、彼のためにあるような言葉だと思ってしまう。

 今回のプレミア12で甲斐野は、侍ジャパンのセットアッパーを任され、登板した5試合の5イニングを無安打、無失点に抑えるなど、完璧な仕事を果たし、侍ジャパンのプレミア12初制覇に大きく貢献した。


プレミア12では5試合に登板し、防御率0.00の好成績を残した甲斐野央

 結果もすごいが内容もすばらしい。正捕手の會澤翼(広島)は甲斐野についてこう語る。

「とにかく強く腕が振れるからボールに力がある。さらにフォークはストレートと同じ軌道から落ちてくるので、バッターとしては本当に厄介な投手だと思います。三振がほしい場面でしっかり結果を出してくれるので、安心してリードできます」

 三振を奪いにいって、実際に三振をとる。しかもパワーで圧倒するピッチングだから、球場の雰囲気を一瞬にして変えられるし、直後の味方の攻撃にも勢いが出る。

 気がつけば、山崎康晃(DeNA)、山本由伸(オリックス)とともに強力リリーフ陣を形成し、侍ジャパンにとってなくてはならない存在となった。

 今回のプレミア12でのピッチングを見ていると、すでにプロで2〜3年ほど修羅場をくぐり抜けてきた投手のような”貫禄”のようなものを感じる。

 これほどの存在になったが、昨年、つまり大学4年生の甲斐野は、まだまだ投手として半人前だったように思う。

 役回りは”抑え”で、今とそれほど変わらないのだが、当時は自分に”確信”の持てる投手ではなかった。

 登板を告げられブルペンからマウンドに小走りでやってくる姿、周りの野手からかけられる声にいちいち反応するところを見ても、”そこ”にいるのが精一杯……そんな雰囲気が伝わっていた。

 それが東洋大時代の甲斐野の姿だった。

 東洋大姫路高(兵庫)の時だって、最後の夏は140キロ超のストレートを投げる投手として話題になっていたが、甲子園に縁はなく、もしかしたら勝った達成感よりも悔しい記憶のほうが多かったかもしれない。

 それがプロに入るや、1年目でこの活躍である。今年のペナントレース終盤、自信に満ちた甲斐野の投げっぷりを見て「あっ!」と思ったことがある。

 それが”間(ま)”である。

 捕手の甲斐拓也のサインにうなずくと、間髪入れずにサッとモーションに入り、迷うことなく悠然とバッターに向かっていく。そんな勇ましい一連の動きを見ながら、大学時代の甲斐野を思い出していた。

 昨年の東都大学リーグ戦、甲斐野は捕手のサインにうなずくと、一瞬、微妙な”間”があった。サインには応じるのだが、次の瞬間「大丈夫かな……」というような心のつぶやきが聞こえてきそうな”間”があり、サッとモーションに入っていけない。

 投げるまでに一瞬の躊躇のようなものが感じられた。それがなんとなく甲斐野の内心の揺れを表しているようで、投げ込んでくる剛球とは裏腹に、どこか頼りない印象があった。

 しかし今では、「打てるものなら打ってみろ!」という心の声が、マウンドから発せられている。

 場数を重ね、成功体験を積み上げると、人はだんだんとその場に馴染み、その姿に貫禄が加わる。まさに”伸び盛り”である。

 ペナントレースを乗り切り、日本シリーズで頂点に立ち、さらにプレミア12で世界一を達成した。甲斐野は理想的な成長曲線を描いて進化している。

著者:安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko


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