世界ランク1位の女王アメリカと対戦した、シービリーブスカップ(SheBelieves Cup/アメリカ開催)の最終戦は、スコアこそ1−3と初戦のスペイン戦と同じ負けだが、その内容には大きな差があった。3戦目にしてようやく手にしたのは、安堵と高揚感だった。


後半、笑顔がこぼれる場面があった(左から)中島依美、岩渕真奈、籾木結花

 試合開始早々に失点をする、自陣深い位置からのパスミスであっさりゴールを決められる……この日も悪癖を振り払うことはできず、前半だけで2失点。それでも、ピッチにはスペイン戦とは違う空気感が確かにあった。それが明確になったのは、後半に岩渕真奈(INAC神戸レオネッサ)が入ってからだ。

 それまで、あと一手が足りずに燻っていた状況が、岩渕がタメを作ることで好転する。相手DFが岩渕を囲い込めば囲い込むほど、際どいところでスルッとボールを押し出し、空いたスペースに次々と選手たちが走り込んでくる。

 これまで”3人目の動き”が、ほとんど見られなかった攻撃がウソのようだった。あのアメリカが日本のパスに食われ、左右に振られているではないか。それも一度や二度ではない。そして、ついに今大会無失点で来ていたアメリカから日本が初ゴールを奪ったのである。

 試合展開からすれば、2点ビハインドから1点を返しただけだが、杉田妃和(ひな/INAC神戸レオネッサ)がスイッチを入れた攻撃は、中島依美(INAC神戸レオネッサ)が中へ切り返し、すぐさま岩渕がゴールへ蹴り込んだ、テンポある、久しぶりの日本らしいゴールとなった。

 今大会2ゴールを挙げ、日本唯一のスコアラーである岩渕が「サイドにいても中に入ってきてくれるから本当にやりやすかった。サッカー感が似てる」と賞賛したのが、籾木結花(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の動きだ。

 アメリカに入ってからも度々、高倉麻子監督から「仕掛けるのか、パスなのか判断できてボールが収まる選手」として評価が高かった籾木。アメリカ戦で前半は、菅澤優衣香(浦和レッドダイヤモンズ・レディース)とともにトップに入り、やや下がり気味のポジションでボールに関わる動きを見せていた。

 153cmはチーム最小。時には、アメリカのDF陣の陰にすっぽりと入り、その姿が消されてしまうこともあった。「小さいことを理由にいろんなことを諦めるんじゃなくて、それを活かして、より大きな選手に対しても仕掛けていったり、ゴールを奪いたい」と、籾木はアジリティを活かしたステップにも取り組んできた。アメリカ戦ではその信条どおりのプレーを見せていた。

 岩渕が投入されると、「ブチさん(岩渕)に早くボールをつけて、(運べる)スペースを空けること」(籾木)を心がけた。そうして岩渕が絶妙なタイミングで受けたボールは、再び動き出すことを怠らない籾木の元に絶妙なタイミングで戻ってきた。

 実際、そこにボールが出なくても、ボールを受けるためのスプリントを岩渕と籾木は繰り返すため、2人が動き出せば必然的にDFはマークせざるを得ない。この相互プレーがアメリカの守備を剥がし、待望の”3人目”の動きにつながった。

 そんな2人が本気で、このアメリカ戦を楽しんでいる――。そう感じたのは67分の攻撃だった。岩渕がドリブルで持ち込んで、ペナルティエリア内へ鋭いパスを送る。阿吽の呼吸と言えるタイミングで反応していた籾木が、相手DFを一枚かわしてシュートを放つ。これは相手にブロックされるも、左サイドから中島が詰めようと、すかさず体ごと投げ出した。

 ボールの出し手の岩渕も、フィニッシャーの籾木も体勢を崩しながら、ギリギリのタイミングで放った一連の流れだった。中島の動きは惜しくもオフサイド。直後の3人は、GKの前に同じような体勢で転がっていた。だが、3人とも笑顔だった。まるで「もうちょっとだったね」とでも言うようにアイコンタクトを交わして、それぞれの位置に戻っていく。これまでの2戦では絶対に見られなかった表情だ。

 こういうプレーができるんだという安堵と、数々の失点で曇る視野を、ゴールへの予感に替えられた高揚感が混ざった後半の45分間だった。

「ほぼ自分たちのミスからの失点。こういう大舞台に立ったときに普段できているプレーができないっていうのが日本の弱さ」と厳しい現状を受け止めている籾木。それでも最終戦にして攻撃面での手応えは確かにあり、こう続けた。「このスペースを狙いたいからここにパスを出して、ゴールに向かっていくという意図を共有して主導権を握れていたと思います」

 失点の仕方には大いに問題がある。攻撃面でも形が作り出せずに自信崩壊を招いていた。3連敗ではあるが、最後の1敗はすべてを悲観するものではなかった。とはいえ、オリンピック本番まであと4カ月のこの段階で、世界のトップチームに見せつけられた差はとてつもなく大きい。

「最後に勝つのは自分たちだ!っていう気持ちを忘れずに、残り4カ月がんばりたいと思います」

 籾木は改めて決意を固くして、前を向いていた。

著者:早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko