Uchiyama Cup(ウチヤマ・カップ)——。

 国内テニス大会のスケジュールに、今年、その名を冠した新たなトーナメントが登場した。

 賞金総額は300万円。これは、日本国内の賞金大会としては最高額の部類に属す。開催地は北海道札幌市。


内山靖崇に「Uchiyama Cup」を立ち上げた流れを聞いた

「この大会名、僕は『ちょっとダサくない?』って思ったんです。でも、ウチヤマ・カップで札幌開催だったら、絶対に僕が関わってるだろうってみんな思うから、そうしたほうがいいと助言ももらったので……」

 日に焼けた顔を照れくさそうに緩めて、彼は”命名”の理由を明かす。

 内山靖崇。札幌市出身の27歳。現在の世界ランキングは90位(3月9日現在)。

 昨年、楽天オープンを含むATPツアーで2度のベスト8入りを果たし、ランキングも自己最高位に達した彼が、Uchiyama Cupの立ち上げ人であり、同大会のトーナメントディレクターでもある。

「去年の10月に(ランキング)100位を切った時点で、トーナメントを作ることを考え始めました。以前から自分発信で何かをしたいと思っていたんですが、僕はYoutubeなどは向かない。自分にできる形は何かと考えた時、子どもの頃の経験や地元への恩返しという意味でも、大会を作ることではないかと思ったんです」


 自身がラケットを握った原体験にも心を寄せて、内山は篤実な口調で大会設立のモチベーションを語り始めた。

 テニスが盛んとは言えない土地に生まれ育った彼は、子どもの頃にプロ選手が戦う姿を見た時、その迫力と真剣さに心を揺さぶられ、今の道を志す。

 だが、かつて自分が足を運んだ大会は、地元の町から消えてしまった。北海道のジュニア選手がハイレベルな試合を見る機会は、なかなかない。その状況を変えられないかと、これまで外側からいろいろ働きかけてみたが、事態が動く気配もなかなか見られなかった。

「ならば、自分で作っちゃおう」

 その純粋な思いこそが、すべての出発点である。

 大切な時を迎えている現役選手が、そんなことをする必要があるのか?

 そのようなやや批判めいた声があることも、彼は十分に承知している。だが「現役だからこそできること、やるべきことがあるはずです」と、内山は言葉に力を込めた。「トップ100」という地位にこだわったのも、「そんなことをやっている場合か」という声を封じるため。


 影響力や発言力もある時に、大きなアクションを起こす……。それこそが大会設立の第一の狙いであり、さらには世界のテニス界の趨勢(すうせい)でもある。

 内山が自ら大会を立ち上げ、トーナメントディレクターを務めるとの着想を得たのも、そのような世界のトレンドにあった。

 2017年に、当時まだ現役だった元世界2位のトミー・ハース(ドイツ)が、「第5のグランドスラム」と呼ばれるBNPパリバ・オープンのトーナメントディレクターに38歳で就任する。その2年後には、やはりまだ第一線で活躍するフェリシアーノ・ロペス(スペイン)が、グランドスラムに継ぐ格付けの大会であるマドリード・オープンのトーナメントディレクターの職に就いた。

 さらに大きかったのは、昨年トップ50位のジェレミー・シャルディー(フランス)が、出身地であるフランスのポーという地方都市にATPチャレンジャーをゼロから作り上げたことである。

 チャレンジャーはツアーの下部大会に属し、トップ100に入るための登竜門的な位置づけ。年齢も比較的近い選手がそのようなアクションを起こしたことで、内山のなかのバリアもひとつ解除された。


「現役選手がトーナメントディレクターを務めることで、選手目線の大会を作ることができる。本当は国際大会を作りたかったんですが、すぐには難しいということで、周囲の助言もあり、まずは国内賞金大会にしました」

 将来的な展望はあるものの、まずはひとつの成果を残そうと、内山は動き出す。

 スポーツビジネスの知識や経験が豊富な友人・仲間の助言も得つつ、北海道テニス協会に働きかけたのが昨年末。会場や人員確保などの情報収集を行ない、開催可能な日程を調整し、2カ月後には2020年9月上旬の開催が決まった。

 新たな大会を生み出すにあたり、内山が掲げたもうひとつの基本理念が、地域密着型のスポーツ振興である。その重要性を確信した原点にも、スペイン・バルセロナを拠点に活動した経験や、世界各地を転戦して見聞した世界の現状があった。

「スペインやフランスのようにトップ選手が多い国は、大会が多いんです。ツアー大会はそれほどなくても、チャレンジャーやフューチャーズ(いずれもツアーの下部大会群)が多い。


 地元の選手がワイルドカード(主催者推薦枠)をもらえるチャンスも多いし、ジュニアが強い選手と練習する機会も増える。そういう流れがないと、いい選手が出てくるのは難しい。ヨーロッパの地域密着のスタイルは大きいし、ヒントは世界中にたくさんあります」

 そのようなヒントを還元できないもどかしさを感じていたからこそ、内山は自分の出身地に大会を作ることを切望した。大会期間中は自らエキシビションマッチを行なうことや、ジュニア向けのクリニックを多く設けることも考えている。

 トーナメントディレクターの役目とは、その名のとおり大会が進むべき方向性を定め、自らが牽引役となることだ。

 当面の最大の仕事は、スポンサー集めと人員確保。

 もちろん、新型コロナウイルスの影響でスポーツを取り巻く環境が激変するなか、アンテナを張り巡らせ、刻一刻と変わる状況に柔軟に対処していくことも必須だ。世界ツアーのスケジュールも流動的なため、中止の可能性も念頭に入れつつ、”新米トーナメントディレクター”の奮闘は続いている。


 港を離れて早々に、種々の試練が立ちはだかる船出なのは間違いない。ただそれも、内山が望んでいたことでもある。

 これまでは選手として大会を見てきたが、大会運営側に立つことで、新たな視座も獲得できるだろう。そうなれば、他の大会にも建設的な提案ができるはずだ。

「他の大会にも刺激を与えたいです。選手がトーナメントディレクターをやることは大切だし、それは特別ではない、という流れも作りたい」

 それらを実現するための、現役選手としての大会設立であり、目指すは地域密着型の大会運営。

“Uchiyama Cup”の名には、その理念と願いが込められている。

著者:内田暁●取材・文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki