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【”真っスラ”の使い手は高評価のポイントに】

――今回もスカウト時代の思い出を伺いたいと思います。消費税が8%に引き上げられた2014(平成26)年のドラフト会議では、有原航平(早稲田大)がDeNA、広島、阪神、日本ハムから1位指名を受けて日本ハムへ。ヤクルトは安楽智大(済美高)を指名したものの楽天と競合になり、抽選で外して竹下真吾(ヤマハ)を獲得しました。

八重樫 安楽は甲子園でしか見ていないですね。その時は「これ以上伸びるのかな? 1位はどうかな?」と思って見ていました。ほかのスカウトが実力的に評価していたのか、いろいろな関係性によるものなのか、どういう経緯かはわからないけど、「1位・安楽」というのはかなり早い段階からの既定路線だったみたいですよ。抽選覚悟で安楽を指名して、結果的に外してしまったけどね。


2014年のドラフト1位でヤクルトに入団した竹下 photo by Sankei Visual

――その結果、ハズレ1位として竹下を単独指名しました。この指名についてはどんな印象がありますか?

八重樫 竹下も僕の担当ではなかったけど、一度だけ静岡の球場で見たことはあります。都市対抗の予選だったかな? その時は抑えをやっていたんだけど、真っ直ぐがナチュラルにスライドする”真っスラ”なんですよ。カットボールとも違う真っスラなんだけど、これはバッターにとって一番打ちにくいんだよね。ストレートに勢いがあるし、真っスラもよく決まっていたので、「おぉ、これはいいぞ」って感じたよ。

――最近、「カットボール(カッター)」と「スライダー」の両方のいいところを持った変化をする「スラッター」というボールも定着しつつありますよね。そんな感じですか?

八重樫 うーん、そうなのかな? 詳しくはわからないけど、竹下の場合はストレートの握りのまま直球を投げると小さくスライドするんですよ。カットボールのようなキュッという変化とも微妙に違うんだよね。もちろんスライダーとも違う。言葉ではうまく説明できないんだけど、あれはバッターにとってはすごく打ちづらい。

――その「打ちづらさ」について、もう少し説明してもらってもいいですか?

八重樫 スライダーは、投手によっても変化幅は違うけど、横か縦にスライドするボールです。ある程度対戦を重ねるとボールの軌道が読めるので、対応することはできるんですよ。一方でカットボールは、手元で小さくキュッと鋭く曲がるので、バットには当たるんだけど芯を外されて凡打になってしまう。で、真っスラというのは真っ直ぐの軌道のまま手元でスライドするんです。手元で曲がるという意味では「カットボール」も「真っスラ」も同じように感じるかもしれないけど、やっぱり違うもの。ゴメンね、言葉で上手に説明できなくて(笑)。

――八重樫さんが対戦してきた中で真っスラの使い手は誰でしたか?

八重樫 昔、大洋にいた間柴かな?

――のちに日本ハムやダイエーに移籍する、サウスポーの間柴茂有(しげくに)投手ですね。日本ハム時代の1981(昭和56)年には15勝0敗で最高勝率のタイトルも獲得しています。

八重樫 間柴の真っスラは本当に厄介だったよ。あれは手元で変化する。僕は意外と間柴は得意だったんだけど、みんな苦労していたよね。右バッターの内角に食い込んでくるんだけど、僕はなぜかタイミングが合っていた。ほかの右バッターはみんなどん詰まりになることが多かったね。1981年に日本ハムで15連勝できたのは、真っスラのおかげですよ、間違いなく。

【実力はあってもメンタル面に課題】


2009年から8年間、ヤクルトのスカウトを務めた八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi

――じゃあ、ヤマハの竹下は間柴を彷彿させるピッチャーだったんですね。この時点で「プロで活躍できそうだ」という手応えは感じていたんですか?

八重樫 そうですね。担当だったわけじゃないからきちんと見ていたわけじゃないけど、「即戦力としていけるな」と思って見ていたし、「何年か経てば頼りになる存在になるだろう」とは思っていたよね、正直。ただ、実際にプロに入ってみて、「あれ、こんなにコントロールが悪かったかな?」って感じたことは覚えているな。

――結果的に、プロではコントロールに難があってフォアボールを連発して、1軍での登板はわずか1試合。3年でプロ生活に終止符を打ちました。技術的な問題、あるいは精神的な問題、どちらだったのでしょうか?

八重樫 たぶん、心だと思うんだよね。本人は詳しくは語らないけど、指導方針をめぐって意見の食い違いがあったのかな? 初球がボールになってしまうと、その後にボールを続けてしまう。それも、クサいところを突いた微妙なボールではなくて、完全なボールなんだよ。そんなことがずっと続いたんです。フォーム改造にも取り組んだようだけど、結果は出なかったね。

――メンタル面が原因だと修正や矯正は難しそうですね。

八重樫 あとで知ったんだけど、彼はものすごく生真面目で考え込むタイプだった。余裕や遊び心がなくて、ひたすら一生懸命投げるタイプでしたね。おそらく何か悩んでいたんだけど、本人も周囲も、どうすることもできなかったんじゃないかな。

――この年の2位は東農大北海道の風張蓮投手を指名しました。北海道の選手ということは八重樫さんの担当ですよね?

八重樫 風張は岩手の伊保内高校時代から見ていました。高校時代から「いい投げ方だけどもう少し時間がかかるかな?」と思って見ていたんだけど、大学3年の時にあらためて見たんです。

――高校時代と比べて、印象は変わっていたんですか?

八重樫 全然、変わっていましたよ。ストレートは150キロをゆうに超えているし、緩いカーブ、スライダー、フォークはバシバシ決まっていた。北海道の中では圧倒的な存在感があるピッチャーでしたよ。ブルペンでもいいボールが決まっていてね。それで、ほかのスカウトも見に来ることになって、「よし指名しよう」ってなったんだよ。

【投げるだけでなく、代打、代走でも大活躍】

――指名、獲得の段階では「先発投手としてローテーションの一角に」という考えだったんですか?

八重樫 大学1、2年の頃は抑えをやっていたんで、「先発でも、抑えでも」という考えではありました。ただ、彼の場合は体も強くてスタミナもあるので、僕としては「先発で」という思いは強かったですね。

――この年は、先ほど名前が挙がった1位・竹下をはじめ、3位・山川晃司(福岡工大城東)、4位・寺田哲也(四国アイランドリーグ・香川)、5位・中元勇作(伯和ビクトリーズ)、6位・土肥寛昌(ホンダ鈴鹿)、7位・原泉(第一工大)を獲得しましたが、2位の風張以外、すでに全員がヤクルトを退団していますよね。

八重樫 せっかく獲得したのに結果を残すことができずにチームを去っていく姿を見るのは、やはりスカウトとしては寂しいものがありますし、責任も感じます。

――そういう意味では、八重樫さんが担当した2位・風張の奮闘ぶりが際立ちますね。

八重樫 ほかの選手がみんな第二の人生を歩んでいる今だからこそ、風張にはみんなの分も頑張ってほしい。自分はもうスカウトではないし、チームも離れてしまっているけど、今でもヤクルトに愛着はあるし、自分が足を運んで指名を決めた選手に対する愛情は強くありますから。ついつい、風張は応援しちゃうね。

――風張の場合は、単に投げるだけではなく、代打や代走など、ある意味では全方位からチームに貢献していますよね(笑)。八重樫さんが言うように、体が強くてスタミナがあるのは大きな武器ですね。

八重樫 そうそう、延長戦で野手が足りなくなった時に代打で出たり、代走で出たりしたこともあったね。そういう意味では面白いヤツだよね(笑)。これからも、息の長い選手として頑張ってほしいな。

(第22回につづく)

著者:長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi