日本プロ野球「我が心の最良助っ人」
第4回 アレックス・ラミレス(ヤクルトほか)

 80年以上の歴史を誇るプロ野球では、これまで数多くの外国人選手がプレーしてきた。そのなかで最も多くの試合に出場したのが、現在DeNAの監督を務めるアレックス・ラミレスだ。

 2001年にヤクルトに入団すると、巨人、DeNAと渡り歩き、計13年間で1744試合に出場。外国人選手で通算2000本安打を記録したのは、後にも先にもラミレスしかいない。NPBを経て、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでも1年間プレーしている。


明るいキャラクターでチームメイト、ファンからも愛されたラミレス

 国際スカウトの評価を得て来日する外国人選手は、ほぼ全員が日本で活躍する能力を持っていると言えるが、実際に好成績を残す者は必ずしも多くない。成否を分ける要素で大きいのが、「適応力」だ。南米のベネズエラから来日したラミレスは、この点で優れていた。

「頭を使えているよね。右打ちだったり、配球を読んだり。自分が打ちたいと思っているところに、相手に球を放らせている」

 言わずもがな、野球でプレーの主導権を握っているのは投手だ。そんななか、打者は自分が打ちたいと思っているコースに、どうすれば投手に投げさせることができるのだろうか──。

 この謎めいた言葉を残したのが、現役時代は2452安打&465本塁打を記録、引退後は西武のコーチとして清原和博や松井稼頭央、秋山翔吾(現レッズ)らを育てた”打撃の達人”土井正博氏だった。

 2011年、ある雑誌の企画でラミレスにインタビューする機会があり、土井氏の言葉を直接投げかけてみた。

「キャッチャーの特徴を自分がよく理解していることもあるし、自分自身の長所と短所をよくわかっているからね。相手のピッチャーが自分の短所ではなく、長所のコースに投げてくるように、打席のなかでボールを待つことはある」

 ラミレスの言葉もまた、謎めいていた。自分の短所ではなく、長所に投げてくるようにするとは、一体どういうことか。相手投手からすれば、打者の得意なコースには投げにくいものではないだろうか。

「たとえば無死二塁で、普通の(右打ちの)バッターなら右方向を狙うよね。逆方向に打ったほうが三塁にランナーを進める可能性が高いから。ただ、そういう時でも自分は外の球を狙って打つのではなく、内側の球を待つ。なぜなら、相手は外にあまり投げられない。打者は右方向に簡単に打ててしまうからね。だからインサイドの球を待つとか、状況によって待ち方をいろいろ工夫している」

 配球に関するセオリーを紐解き、相手バッテリーと駆け引きを行なっていく。そうして自分の好きなコースに投げさせていくように仕向ける心理戦こそ、ラミレスの真骨頂だった。パワフルな打撃や、「アイーン」や「ゲッツ!」など本塁打を放った後のパフォーマンスでファンの人気を得ていた右打者は、その裏にクレバーな頭脳も併せ持っていたのだ。

 どの外国人打者より長きにわたって活躍したラミレスだが、来日1年目のシーズン序盤、思うように打てずに二軍落ちの危機に遭ったことを自著『ラミ流』(中央公論新社)で明かしている。

 日本のプロ野球で数カ月プレーしたあと、不振を打破するきっかけになったのが、日米の配球面の違いに気づいたことだった。アメリカでは投手が主導権を握ることが多い一方、日本では捕手がリードしていることを見抜き、キャッチャー陣の特徴を頭に入れて好成績につなげていった。

 さらに、首脳陣から期待される役割を把握し、自身をアップデートさせたことも活躍の背景にある。来日当初は左に引っ張る打球が多かったものの、徐々にセンターから右への打球を増やしたのは、もちろん意識的に行なったことだった。

「来日した時は、外国人としてホームランを打つことを期待されていて、それが一番重要だと思っていた。ところが日本に長くいるにつれて、打率、打点、ホームランとバランスよく成績を残していくには、フィールドのすべての方向に打ち分けることが必要だと思った。そのなかでも、『自分はホームランを打てるんだ』と信じているのも大きいと思う」

 自分の能力に自信を抱き、かつ求められる役割をまっとうできるのは、確たる技術を備えているからでもある。その礎として日々、ラミレスは右打ちのテクニックを磨いた。

「右を狙って打つのではなく、ボールをしっかり引きつけて、ボールをたたくことが結果的に右方向への打球になる。右に打とうとしてスイングすると、ファウルになる確率が高い。ボールのどこを打つかが重要だ。たとえ内角のボールでも、内側からたたけば右方向に打球を打てる。引っ張ろうとしたら、前のポイントでとらえないといけない。打席によってどこに打とうかと意識しながら、引っ張るなら前でボールをとらえないといけないし、右方向を狙うならしっかりボールを引きつけて逆方向に打っていく」

 こうした高度な技術を備えたうえで、相手の心理や試合状況を冷静に見極め、自身に求められる仕事を遂行する。だからこそラミレスはどの外国人打者より多く試合に出場し、2017本ものヒットを重ねることができた。

 ラミレスは2016年からDeNAの監督を務め、就任前、10年連続Bクラスに沈んでいたベイスターズを見事に立て直している。データと感性を掛け合わせた采配に加えて、優れるのがコミュニーション能力だ。

 同年オフにインタビューする機会を得た際、直接聞いてみたいことがあった。ラミレスはチームやメディアに対し、母国ベネズエラの公用語であるスペイン語ではなく、英語で話しかけている。チームにはスペイン語の通訳がいるにもかかわらず、あえて英語を使っているのは、そのほうが直接コミュニケーションを図れる人数が圧倒的に多くなるからだろうか。

「そのとおりだ。日本人選手のなかには、スペイン語を話す人がほとんどいない。僕の英語はそこまで難しくないので、選手たちに理解してもらえることもある。コミュニケーションをとるうえで最善のほうを考えて、選手と話す際には英語のほうがいいと思って使っている。僕がスペイン語を話していると、選手たちは『えっ? 何語を話しているの?』と驚くからね(笑)」

 異国でここまで細かい配慮をできる者は、決して多くないだろう。逆に言えば、これほど相手の心理や周囲の環境について突き詰めているからこそ、ラミレスは日本で適者生存しながら成功を収めているのだ。

著者:中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke