先週の記事で、ボタフォゴとフルミネンセが、リーグ戦再開に強固に反対していると書いた。その両チームが試合を行なった。ただ、彼らが試合再開に反対する姿勢は変わらない。彼らは自分たちの意思に反し”無理やり”プレーをさせられたのである。

 6月28日、本田圭佑の所属するボタフォゴが3カ月ぶりに試合を行なった。リオデジャネイロ州リーグのボタフォゴ対カボフリエンセ戦だ。試合は6−2でボタフォゴが勝利し、本田はキャプテンマークを付けて90分プレーした。


3カ月ぶりに行なわれた公式戦、カボフリエンセ戦にフル出場した本田圭佑(ボタフォゴ)photo by Reuters/AFLO

 だが、ブラジルのテレビも新聞もインターネットも、試合内容にはあまり触れていない。なぜならプレーの中身など吹っ飛んでしまうほどの問題が、そこには山積みされているからだ。サッカー大国ブラジルにサッカーが帰ってきたのに、誰もゴールやテクニックの話をしない。異常な事態が起きている。

 ブラジルサッカーはますますとんでもない方向に進んでいる。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、初めてブラジルでサッカーが再開されたのは6月18日のフラメンゴ対バングー戦だった。

 その後、他の試合はいったん中止となった。その後、リオデジャネイロ州の各チームとサッカー協会は、6月19日から23日まで、4日間かけてリモート会議を行ない、27日に全チーム参加で本格的にリーグを再開することを決定した。

 これに対して、以前から再開は早すぎるという態度を示していたボタフォゴとフルミネンセはもちろん反対、不参加を表明した。その段階では不参加が認められていたからだ。

 ところが6月25日の夜、リオ州のスポーツ最高裁判所からボタフォゴとフルミネンセに通達が届く。その内容は「もしリーグ戦に参加しない場合は、多大な罰金を課し、リーグから追放の可能性もある」というものだった。ここにいたってボタフォゴとフルミネンセも折れるしかなかった。

 ボタフォゴやフルミネンセの選手たちは、個々での練習はしていたものの、集団トレーニングはまだ開始していなかった。つまり、彼らは本格的な練習を始めて3日後に公式戦をさせられることになったのである。

 ボタフォゴのパオロ・アウトゥオリ監督はこのリーグ再開の決定に激怒していた。メディアのインタビューでは「あまりにも馬鹿げている。これは世界的スキャンダルだ。恥ずべきことだ。こんな愚かなリーグに参加したくはない」発言し、15日間の出場停止を食らった。

 この決定に、本田は「この国には言論の自由がないのか」と嘆いたという。

 ボタフォゴが裁判所の通達を受けてリーグに参加すると決めた時、このアウトゥオリへの処分は取り消されたが、アウトゥオリ自身が辞任を表明。ボタフォゴの会長が残ってくれるように説得し、チームには残ることになったが、抗議の意味を込め、試合のベンチには姿を現さなかった。

 ボタフォゴ対カボフリエンセは、これまでに例のない形で始まった。意に反してプレーさせられることとなったボタフォゴの選手たちは、抗議の横断幕を手にピッチに入ってきた。そこには「最善の対策とは、人の命を尊重することだ」の文字があった。

 また、コロナで亡くなった人々への追悼の意味も込めて、ボタフォゴは黒のサードユニホームでプレー、背中には医療従事者への感謝を表し「Obrigado(ありがとう)」のメッセージが書かれていた。

 試合再開にあたっては「ジョゴ・セグーロ(確かなプレー)」と呼ばれる細かなプロトコルが設けられた。選手は試合前日に集まりPCR検査を受ける、プレー前には検温する、プレーする選手以外はマスクをつける、スタジアムは大掛かりな消毒をする……。

 ボタフォゴの選手やコーチはこのプロトコルを守っていたが、多くのチームはこれを遵守していない。たとえばボタフォゴの対戦相手、ボカフリエンセの控えの選手たちはマスクをしていなかったし、ゴール後には普通にハグもしていた。

 ボタフォゴは数日前に5人の選手の陽性が判明した。フルミネンセの対戦相手、ヴォルタ・レドンダは、試合前の検査で3人の選手が陽性だったことを報告している。ピッチに立つのはまさに命懸けだ。それなのに、7月半ばには、すでに観客を入れて試合をすることが予定されている。

 考えても見てほしい。ブラジルでは毎日平均1000人くらいが亡くなっている。日本のこれまでの死者数の合計よりも、ブラジルの1日の死者数のほうが多いのだ。

 ボタフォゴで一番力を持つカルロス・アウグスト・モンテネグロ相談役は、今後も反対の態度をとり続けるという。

「ボタフォゴは今後も抗議を続けていく。飛行機が一機落ちただけでも大惨事なのに、今ブラジルでは毎日5、6機の飛行機が落ちているようなものだ。そんな時にどうしてサッカーを続けられるのか」

 忘れてはならないのは、これはすべてリオデジャネイロ州リーグの話で、他の26の州リーグはすべてストップしたままであるということだ。リオに比べ、死者がほとんど出ていないアマゾンの州リーグでさえ再開はしていない。

 試合の行なわれたニウトン・サントススタジアムの周りは、店はほとんど閉まっており、近くの鉄道の駅も閉まっていた。そんななかでサッカーだけが再開されているのは、あまりにもシュールな光景だった。

著者:リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon