元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
〜2020年9月場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、9月13日から両国国技館で開催されている大相撲秋場所(9月場所)について。七月場所同様、激戦が予想されるこの場所の注目力士をうかがった――。

◆魁聖が憧れていた力士とは?>>

 大相撲秋場所が9月13日から始まりました。7月、両国国技館で行なわれた七月場所に引き続き、来場者数を従来の4分1に制限し、開場時間も13時からにするなど、新型コロナウイルス感染拡大防止策をとっての開催となっています。

 場所前には相撲協会員を集めて、新型コロウイルス感染予防対策のガイドライン確認を含めた講習会を開催。あらためて感染対策を徹底し、本場所開催に向けて、協会員一丸となって臨む決意を固めました。


七月場所で復活優勝を遂げた照ノ富士

 さて、先の七月場所では、私が「注目力士」として名前を挙げた再入幕の照ノ富士が、見事な復活優勝を遂げました。

 元大関の照ノ富士。ヒザの負傷や内臓疾患などで、一時は序二段まで番付を下げることになりました。照ノ富士本人は、大関を陥落した時点で「引退したい」と、師匠(伊勢ヶ濱親方。元横綱・旭富士)に訴えたそうですが、「まずは体を治療してから」と師匠に慰留されて、引退を思い止まりました。

 その後、自力で歩行できないほどの時期があったと聞いていますから、治療やリハビリにおける苦労は相当なものだったでしょう。それでも、懸命なリハビリと地道な稽古が実を結んで、徐々に番付が上昇。今年初場所(1月場所)では関取(十両)に復帰して、七月場所では幕内まで戻ってきました。そこまでの過程は、まさに本人の努力の賜物でしかありません。

 東の前頭筆頭となった今場所は、初日から大関・貴景勝と対戦。押し出しで敗れてしまいましたが、これは貴景勝が、腰高な照ノ富士のような力士を得意としているから。気持ちを切り替えて、今後の上位陣との対戦に臨んでほしいです。再び上位争いに加わるには、そこで、どれだけ成績が残せるかがポイントになってくるでしょう。

 長年の私の期待が、ようやく目に見える結果として出始めたのが、関脇・正代の躍進です。今年の初場所では千秋楽まで優勝に絡む活躍を見せましたが、私が見る限り、春場所(3月場所)あたりから、体つきもがっちりとして、相撲っぷりも変わってきたように思います。

 正代と言えば、実力はあるのですが、闘志を表に出さないタイプなので、これまではやる気があるのか、ないのか、わかりづらいところがありました。そうこうしているうちに、年下の貴景勝や、同じく年下で、学生時代に競り合っていた朝乃山に抜かれてしまい、彼らが先に大関に昇進。さらに、2人とも優勝を経験しました。

 そんな2人の姿を見て、おそらく正代の心の中にも「あいつらができたんだから、オレだって......」という意欲がやっと湧いてきたのではないでしょうか。そうした思いが結果にもつながり始めて、初場所で優勝争いに加わった経験がまた、大きな糧になったと思います。

 そして今場所は、ひと皮むけた正代の姿が土俵上にあります。「優勝に一番近い力士」と言ってもいいでしょう。

 V候補の二番手を挙げるとしたら、関脇・御嶽海です。

「大関候補」と呼ばれて、すでに3年ほど経過したでしょうか。彼が"強い"ということは、皆が認識していることですが、これまでの彼からは、大関取りについては"他人事"といった雰囲気が感じられました。

 でも、七月場所では関脇で11勝。ここからふた桁勝利を続ければ、大関が見えてきます。その辺りは、本人も自覚しているはずです。

 御嶽海が所属する出羽海部屋には、関取が彼ひとりのため、場所前は出稽古がメインとなっていましたが、ここ数カ月は新型コロナウイルス感染防止のため、出稽古は禁止となっています。そうした現状は厳しいかと思いますが、置かれている状況は皆、一緒。御嶽海にはそれを言い訳にすることなく、奮闘してもらいたい。

 過去2回の優勝が物語っているように、集中力は抜群の力士です。ふた桁勝利を最低限として、それ以上の成績を残してほしいところです。

 若手に目を転じれば、先場所新入幕を果たした21歳の琴勝峰がいいですね。春場所の際に、期待の若手力士として名前を挙げた、同じ部屋(佐渡ヶ嶽部屋)の琴ノ若(現在、十両)の2年後輩。身長191cm、体重156kgと伸びやかな体つきをしています。

 先場所では、初日から5連勝。最終的に8勝7敗と勝ち越しました。佐渡ヶ嶽部屋には、ベテランの琴奨菊、琴恵光がいて、十両にも前述の琴ノ若、琴勇輝が控えており、関取同士の稽古も十分にできていると思います。今場所も先場所以上の活躍を期待したいですね。

 今年28歳と、年齢的に若くはありませんが、今場所新入幕を果たした翔猿(とびざる)も面白い存在です。身長175cm、体重131cmと小柄ですが、キビキビとした相撲で、幕内前半の土俵を盛り上げています。

 実兄は、十両の英乃海。史上11組目の「兄弟幕内力士」としても話題となっています。私と次兄(元関脇・逆鉾。元井筒親方)の場合もそうでしたが、兄弟ながら、相撲がまったく違うというのも興味深いところです。

 小兵で人気の炎鵬もそうですが、小さい力士が大きな力士を破ると、お客様も喜んでくれます。翔猿にも大暴れしてもらって、場所を一段と活気づけてほしいと思います。

 最後になりましたが、七月場所では、私の弟子である阿炎の不適切な行動で、相撲協会および、ファンの皆様には多大なご迷惑をおかけいたしました。師弟ともども処分を真摯に受け止め、深く反省しております。この場を借りて、あらためてお詫び申し上げます。


photo by Kai Keijiro

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。

著者:武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki