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 移籍が日常のサッカー界において、ひとつのクラブにとどまり続けることは珍しい。

 とりわけ、海外移籍のハードルが下がった現在は、"チームの顔"と呼べるような選手にこそお声がかかりやすい傾向にあり、ひと昔前のように「ミスター〇〇」と呼ばれるような選手が生まれにくい状況にあるのは確かだろう。


サンフレッチェ広島の「バンディエラ」青山敏弘

 今季のJ1の顔ぶれを見渡すと、在籍年数最長は1998年に鹿島アントラーズに加入した曽ヶ端準だ。在籍23年目を迎えた41歳のベテランは、若手の激しい突き上げがあるなか、今季もリーグ戦1試合に出場し、勝利に貢献している。

 フィールドプレーヤーで最長はガンバ大阪に20年在籍する遠藤保仁だが、横浜フリューゲルス、京都パープルサンガを経ての加入のため、ひとつのクラブというくくりには当てはまらない。純粋に生え抜きの条件下では、川崎フロンターレの中村憲剛と、柏レイソルの大谷秀和が18年で最長となる。いずれも"ミスター"の称号が当てはまるクラブの象徴である。

 次点に名を連ねるのは、サンフレッチェ広島の青山敏弘だ。こちらは、今年で在籍17年目を数える。広島と言えば、和幸&浩司の森崎ツインズが象徴的だが、青山もまたこのクラブのレジェンドと呼ばれる存在だろう。

 今季は新型コロナウイルスの影響による過密日程やレギュレーション変更によって、各クラブが積極的に若手を起用する傾向にある。広島も例外ではない。

 そもそも広島は、昨季から世代交代を推し進めており、GKの大迫敬介を筆頭に、森島司、荒木隼人と20代前半のタレントがスタメンに定着した。今季も浅野雄也、東俊希、藤井智也ら東京五輪世代の有望株が出場機会を増やしている。

 そんななか、今年で34歳となった青山敏弘は世代交代の波に抗いながら、変わらぬ存在感を示している。今季は、途中出場も含めれば全16試合にピッチに立っており、ケガでシーズン前半を棒に振った昨季の出場試合数をすでに上回っている。

 9月19日に行われた柏レイソル戦でも、当然のようにスタメン出場を果たし、安定感抜群のプレーで敵地での勝ち点1獲得に貢献。得意のダイレクトパスで攻撃のスイッチを入れ、的確な位置取りで相手の攻撃を封じた。走行距離11.636kmはチームトップの数値だった。

 運動量とロングフィードは、青山という選手の最大の魅力だろう。とりわけ、一気に局面を変えるフィードは、かつて佐藤寿人とホットラインをつなぎ、多くの歓喜を生み出してきた。

 もっとも最大のパートナーを失った近年では、ほれぼれするような美しいフィードを見る機会が減少した。だが、それでも俯瞰するような視野でピッチ全体を見渡し、味方の足もとやスペースに力強いインサイドキックを打ち込んでいくパスワークは、機械のような精密さを保っている。

 柏戦で際立ったのは、状況判断とプレー精度の高さだ。互いにカウンターの応酬のようなハイテンションの展開となるなか、後方でボールをさばく青山は、縦だけでなくサイドチェンジを多用し、スペースを広げる配球を心がけていた。

 攻め急ぎが見られればボールを落ち着かせ、隙を見出せば一気に縦パスを打ち込んでいく。先制点の場面でも、青山の何気ない縦パスが柏の守備網を打ち破った。

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 浅野と森島の2シャドーに自由を与え、後方でボールをさばきながらボランチでコンビを組む川辺駿を前に押しやり、ビルドアップでは荒木のサポートに回る。ゴールに直結する役割をこなしていた数年前とはスタイルを変え、今の青山はひとつの歯車としてチームを回していく"黒子役"に徹しているように感じられた。

 そこには、若手に対する期待感があるからだろう。

「うちの若いの、すごいでしょ」

 昨季、ルーキーながらスタメンを勝ち取った荒木について聞くと、うれしそうに話していたのを覚えている。まだ新型コロナウイルスの影響による取材規制がなかった今季のルヴァンカップ開幕戦で話した時も、途中出場からインパクトを放った浅野や藤井を"愛のある表現"で期待感を表していた。

 柏戦でも、途中からピッチに立った東に積極的に声をかける姿が印象的だった。年齢や立場を考えれば当然の役割ではあるが、まるで求道者のように自己研磨を積み、ストイックなまでに自分に向き合っていたひと昔前では想像もできない振舞いである。

 一方で、簡単に若手に道を譲る気はないだろう。自身もプロ入り2年間は、大ケガもありピッチに立てない悔しさを味わってきた。試合に出られないその期間の努力は筆舌に尽くしがたいものがある。

 だからこそ、青山は今の立場を勝ち取れたのだろう。プロ3年目、20歳の時にミハイロ・ペトロヴィッチ監督に才能を見出されて以降、広島の主軸を担い、3度の優勝を経験し、ワールドカップ戦士にもなった。その経験値は青山だけでなく、ポテンシャルを秘めた若手が揃う広島にとっての財産だろう。

 そういえば以前、一度だけ、引退について聞いたことがある。すると青山は、こう返してきた。

「だいぶ先であってほしいですね」

 どうやら、辞めることなど考えていないようだ。円熟味を増した広島のバンディエラは、これからも紫のユニフォームを身にまとい、ピッチを走り続けるだろう。

著者:原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei