速く、美しく、挑戦し続ける女性ドライバーたち 
インタビュー第1回 小山美姫 後編 

近年、世界のモータースポーツを統括する国際自動車連盟(FIA)や自動車メーカーが若手女性ドライバーの育成・発掘に力を入れ始めた。いまだ男性中心の競技ではあるが、サーキットレース、ラリー、ドリフトなどで活躍する女性ドライバーは増加傾向だ。
そこで、国内外のさまざまなカテゴリーで挑戦を続ける日本の女性ドライバーに、モータースポーツにかける思いを聞いた。第1回は、2019年に新設された女性限定のフォーミュラカーレース「Wシリーズ」に日本から唯一参戦した小山美姫をクローズアップした。前編に引き続き、一問一答形式でお届けする。 



来年のWシリーズでタイトル獲得を目指す小山美姫

ーー日本に帰国した後は、どのようなスケジュールで過ごしているのですか? 

小山 あんまり言いたくないのですが、毎日、ほとんど英語の勉強ですね。細かく言えば、朝4時半ぐらいに起きて、ちょっとストレッチをやって、ご飯を作って食べて、英語の勉強です。グラマー、リーディング、スピーキング、あとオンラインでしている英会話授業を何本かやって、(洋楽の)音楽も聞いて歌えるようにしようかなって(笑)。 

 海外では、シーズンの終わりや始まりなどに交流の場としてよくパーティーが開かれます。スポンサーも含め関係者が数多く集まるので、そこで歌ったりできたらいいなと思います! だから英語の曲を聞きながら歌ったり、トイレに英単語を張り出したり、しっかり習得できるように自分なりにいろんな勉強方法を考えてやっています。

 あとはトレーニングです。レッドブルのトレーナーの方とオンラインを通じて、英語で話しながら、トレーニングを見てもらっていますので、体力と語学力は伸びていると思います。それ以外の空いた時間にはレースの映像を見たり、先輩ドライバーの方々と話をさせていただいたりしています。また、マシンの知識を得るために日本のチームのファクトリーに行ってエンジニアと話したり、シミュレーターで練習したりしています。


日々、トレーニングに英語の勉強に取り組んでいるという小山

ーートレーニングと英語の勉強漬けの毎日を送っているようですが、何か息抜きはありますか?

小山 まったくないですね。私はもっと若いときに散々遊んできたので、遊びたい気持ちがないんです。あと遊んでしまうと、またそっちの世界へ行っちゃうかもしれないですし(笑)。今、好きなことをやらせてもらっているので、どんなにしんどくても苦にならないです。むしろ、目指すものがある毎日って幸せだなと感じています。

 若い頃はペンなんか持ったことはなかったです。でも、それは今のためだったんだなと思うぐらい毎日持っています(笑)。とにかく自分に足りないところを補うために、ひたすら勉強やトレーニングをしている感じですね。

ーー今年9月に全日本F3の後継シリーズといえるフォーミュラリージョナルの第3戦(富士スピードウェイ)に参戦しました。久しぶりのレースはどうでしたか? 

小山 レーシングカーを走らせるのは約1年ぶりでしたが、楽しかったです。すぐに慣れましたが、正直、一周目はすごく速く感じましたね(笑)。 

 Wシリーズで1年間戦い、知らないサーキットでも、決められた時間内で「早く速くなる」ことを学んできたので、それを活かしたいという思いでレースに臨みました。結果は残せず(7位/5位)悔しい気持ちはありますが、「早く速くなる」という自分の課題に対し、少しは成長できたのかなと感じました。 

 このレースでは、テストがすごく少なく、悪天候にも見舞われたのですが、第1レースの予選を4番手でまとめることができました。決勝では人生で初めてストール(エンジン停止)を経験して最後尾に落ちましたが、そこから追い上げていいタイムでラップを重ね、最終的に7位まで順位を上げることができました。内容としては良かったと思います。 

 第2レースのタイムは良くありませんでしたが、最後まで諦めずに1台を抜いて、5位入賞でした。スポット参戦で勝てるほどレースは甘くないですが、常に勝利を目指して走るのがドライバーです。またチャンスがあれば、国内でもレースに参戦したいです。

ーーWシリーズに話を戻すと、2021年はイベント数も増え、F1のサポートレースとしての開催が検討されているようです。実現すればWシリーズの注目度はますます上がります。F1関係者の見ているところで結果を出せれば、チャンスは広がりますね。

小山 そうなればうれしいですね。でも、今年レースが中止になったことは痛手です。フォーミュラの世界で上を目指す者にとっては、1歳年を重ねることはすごく大きな意味があります。世間的には23歳という年齢は若いですが、レッドブルの育成プログラム、ジュニアチームに所属しているドライバーはほとんどが10代です。フォーミュラの世界で勝負するには、年齢や時間との戦いもあるんです。

 ただコロナ禍によって時間ができたことで、英語のスキルや体力面の向上もすごく感じています。気持ちもリフレッシュされて、しっかりと準備して来年のシーズンに臨むことができます。21年が終わったときには、この時期があって良かったと思えるようにしなければならないと思っています。 

 このまま終わってしまうと、私自身、すごく後悔すると思いますし、日本人ドライバーはダメだという印象を残してしまう。ナメられますから、絶対に勝たないといけないんです。

ーー気合いが入っていますね。

小山 気持ちでは絶対に負けたくないです。Wシリーズは、ドライバーの合同トレーニングがありますが、どんなプログラムでも絶対に最後まで諦めません。やっぱり一緒に戦う相手に何事も弱いイメージは与えてはいけないんです。予選で順位が悪かったとしても諦めずにレースでは意地でも抜く。どんなに悪くても粘って、粘って、粘って、粘って最後まで絶対に勝負を捨てない。そういう姿勢が大事だと思っています。

 ただ気合いだけではどうにもならないので、もっと成績を良くするためにコミュニケーションはすごく大事な要素です。走行中に無線でエンジニアとしゃべるのですが、前とのギャップやマシンの状況など、もっとコミュニケーションがスムーズに取れれば、勝ちにつながっていくと思っています。

ーーWシリーズでは、女性ドライバーをF1へ送り出すという目標を掲げています。その第1号を目指す気持ちですね? 

小山 実際に海外で戦い、そういう気持ちがますます強くなりました。今、同じレッドブルのサポートを受ける角田裕毅選手がF1の下のFIA F2選手権で活躍しています。彼はレッドブル・ジュニア・チームの所属で、私はレッドブル・アスリートですから、立場は違いますがやっぱり彼の走りは私にとってすごく刺激になっています。 

 彼とは日本のFIA F4で一緒に戦っていましたが、後ろを走ったときに速さを感じました。そんなことを本当は認めたくないですが、ドライバーは後ろを走っていると、相手の実力がわかるんです。彼は本当に速かった。 

 日本で一緒に戦っていた日本人ドライバーがF2で優勝したり、トップ争いをしたりしています。彼と私はともに日本から海外へ出て戦っていますが、向こうは成績をしっかりと残しているのに「自分は何やっているんだろう......」と、正直思うこともあります。でも私だってこのままで終わるつもりは絶対にありません。負けてられないですよね。だから彼の活躍は私の一番のモチベーションになっているんです。 

ーー角田選手は来年、F1にステップアップする可能性も十分あると報道されていますね。一緒に走って彼のどこにすごさを感じましたか? 

小山 やっぱり常にクルマの限界ギリギリで走っているところです。限界で走ることができているときは、外から見てもすごくスムーズできれいに見えます。ですが、限界で走っているがゆえに、そこを1ミリでも超えたときは挙動が乱れてクルマが暴れます。私が見た角田選手は一周だけでなく、常にギリギリのところを走り続けていました。「すごいな」と思いました。

 そのレースの後で私自身、気になったことがあったので彼に話しに行きました。そこで私の走りにポジティブな要素があったことも確認できました。自分の目で見て、自分自身の中で速いと認めた相手なので頑張ってほしいと心から思います。

ーーそれでは、来年の目標を教えてください。 

小山 現時点の目標はWシリーズでチャンピオンを獲ることです。今後、どんな車でも、どんなサーキットでも速く走れるように自分のスキルを上げていきたいです。夢や目標の存在は力になります。まずはWシリーズでしっかりと結果を出すこと。そして、モータースポーツの盛んなヨーロッパでF3に参戦したいです。その後は海外だとF2、日本だとスーパーフォーミュラにステップアップし、上を目指すというビジョンを描いています。たくさんの方に支えてもらい、環境は良くなっていますが、ステップアップするにはもっともっとその輪を広げていく必要があります。環境づくりも含めて、幅広く前進していきたいです。

ーーフォーミュラカーレース以外の道はまったく考えていないのですか? 

小山 フォーミュラは時間や年齢との勝負ですが、できる限り夢を追い続けていきたいです。ただ最近、考え方に少し変化が出てきました。これまではフォーミュラのレースを続けられなくなったり、自分にポテンシャルが感じられないと思ったりしたら、すぐにでもドライバーの道は辞めようと思っていました。応援してくれている人に申し訳ないですし、レースは勝つためにやっているんだから勝てなければ何の意味もない、と。 

 ですが私はフォーミュラに限らずレースが好きですし、いろいろなレーシングカーに乗っているときがこの上なく最高の時間です。それに私は、これまで多くの方に支えてもらってきました。フォーミュラの世界での道が断たれたら、「もうやめる、じゃあね」というのはちょっと違うのかなと感じてきました。サポートしてくれる皆さんの中には、「もちろん勝ってほしいけど、あなたが走って挑戦する姿が好きなんだ」と言ってくれる人もいます。

 今はフォーミュラの世界を突き詰めていくつもりですが、レースを続けることが恩返しになることもあるのかなと最近は思っています。今後、日本人女性初のスーパーGTドライバーの道も視野に入れて活動していくつもりです。 

 私にとってモータースポーツは人生そのもの。何を失ってでもやりたいと思えるのはレースしかないんです。この道を進んでいける限り、全力で突っ走っていきたいと思っています。 

【profile】 
小山美姫 こやま・みき 
1997年9月5日、神奈川県生まれ。5歳からレーシングカートに乗りはじめ、2015年からFIA-F4選手権に参戦。17年にスタートした競争女子選手権(KYOJO CUP)の初代チャンピオンとなり、翌年もタイトルを獲得。19年はホンダのサポートドライバーとなり、創設されたばかりの女性ドライバーによるフォーミュラレース「Wシリーズ」とFIA-F4選手権にダブルエントリー。20年からレッドブルのサポートを受け、Wシリーズに参戦する予定だったが、新型コロナで開催中止に。21年のタイトル獲得を目指す。

著者:川原田剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi