今やJリーグトップクラスの選手として、毎試合のプレーぶりが注目されている、川崎フロンターレの三笘薫。あのするする抜けるドリブルは、なぜ成功しているのか。かつての名アタッカー、名ドリブラーだった解説者の水沼貴史氏に、三笘のプレーを分析してもらった。

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 三笘薫には、まずスケールの大きさを感じますね。体が大きい上に(178cm、71kg)、あれだけのスピードとテクニックを持ち合わせている選手はなかなかいません。


毎試合の好プレーが見る者を沸かせている、三笘薫

 彼を一躍スターにした要因の一つが、コロナ禍による昨シーズンからのレギュレーションの5人交代制でしょう。川崎フロンターレの鬼木達監督による積極的な選手起用のなかで、彼は自分のリズムを掴んで、大きく成長したのだと思います。

 そして、彼のプレーがまだ知れ渡る前に、一気にすごいところまで行ってしまった印象です。相手チームが、これからどう対策を練ろうかと考える頃には、もう遅かったという感じでしたね。

 今シーズンは、まだ昨シーズンほどのインパクトは与えられていません。例えば第5節ヴィッセル神戸戦は、内容としては低調でした。対峙したのは三笘と筑波大学でチームメイトだった山川哲史。彼は三笘を相当意識していたはずで、センターバックの菊池流帆とふたりでの対応を相当練っていたと思います。

 今後は、確実にこうした対策をされてくるでしょう。ただ、それでも100%止めることができないというのも、三笘のすごさですね。

 彼のドリブルにフォーカスする前に、まず三笘には2つの特徴があると思っています。

 一つは、ファーストタッチがとにかく巧みな点。足元に止めることもできるし、動きながら前に止めることもできるし、浮いた球もスムーズに自分の間合いに持っていくことができる。

 ドリブラーは相手との間合いをすごく気にします。自分の間合いになれば、自分の形で抜けるもの。この点で三笘がすばらしいのは、ボールを受けるタイミングで相手に詰められて自分の間合いではなかったとしても、巧みなファーストタッチでかわし、自分の間合いを取り直せるところなんです。

 もう一つの特徴は、トップスピードに入るまでの速さ。1、2歩目でもうトップスピードに乗っています。細かなステップのアジリティによって速いという選手は多くいるけど、あの体のサイズで足も長く、ストライドも大きななかで、芝生の上を滑るようにスッとスピードに乗れる選手は、そういないんです。

 次にドリブルですが、三笘はドリブルする時にヘッドダウンをしません。おそらく、必ずしもドリブルで相手を抜くことを優先して考えていないのだと思います。ドリブラーは、目の前の相手を抜きさるプレーに固執してしまいがちなんですが、三笘にはそれがないんですね。

 パスのほうが有効だと思えば躊躇なくパスを出すし、一旦味方に預けたほうがいいと思えば簡単に預ける。とにかくドリブルしながら、ドリブル以外の選択肢を多く持っていて、常に最良の判断ができます。それだけに相手DFは三笘のプレーの的が絞れず、その結果ドリブルの対応も後手を踏んで抜かれてしまう。さらに彼がトップスピードに乗るのが速いので、一度外されたらはもう追いつけません。

 加えてシュートも抜群です。サイドからカットインしていくのは、どの選手でもよく見る形ですが、三笘はカットインしてすぐにシュートを打てますし、そこで打てなかったとしてもそれをフェイントにさらに進入して打ったり、相手の股が空いていればそこを狙うこともできる。ニアにもファーにも打てる形を持っているので、シュートにおいても選択肢がとにかく多いですね。

 ドリブルのインパクトが強烈ではあるんですが、彼の目的はそこにはない。常にゴールのために何が必要かを考えながらドリブルできるのが、三笘の最大の強みです。

 ドリブルで相手を抜いていくシーンでは、似たような形が多いですね。それは再現性が高いということ。同じ質のドリブルを繰り返せるのも、ドリブラーとして優れている部分です。

 相手チームが意識して研究もしてくるなかで、それでも同じシチュエーションになった時に抜き切れるのは、わかっていても実際に対峙した時の感覚が予測の範囲を超えているんだと思います。そのくらいのスピードやキレのすごさが、三笘にはあるのでしょう。

 先日のU−24日本代表の練習で、三笘と相馬勇紀(名古屋グランパス)が1対1をしている動画がtwitterで話題になっていました。その動画では、三笘のドリブルに相馬がクルクルと回されてしまっていた。それだけ彼のドリブルには揺さぶられる何かがある。

 川崎の試合解説の時に、私もつい言ってしまったんですが、三笘がどう考えて、どんなバランスで仕掛けてくるのか、ぜひ一度対峙してそれを体感してみたいと。それだけ彼のプレーに興味があります。

◆三笘薫の「止められなかった」少年時代。相手監督もその才能に脱帽だった>>

 さらにそうした得意の形を確実に持っていながら、アドリブも利くから手がつけられません。

 今季リーグ戦2試合目のセレッソ大阪戦で、三笘がエラシコ(アウトサイド→インサイドの連続タッチ)で相手を抜き、ゴールを決めるシーンがありました。こういう技をやる時は「さあ、これから抜いていきますよ」という雰囲気が出てしまいがちなんですが、この時の三笘は、相手の動きを見ながらものすごくナチュラルにアウトサイドでかわし、インサイドで相手の前に入った。しかもボールを動かす幅が広く、速かった。

 サッカーはやはり想定していないシチュエーションのほうが間違いなく多いですから、そのなかでどれだけ臨機応変にアイデアを出していけるかが優れたプレーヤーの条件ですし、サッカーの面白さだと思います。

 確かなロジックがありつつ、アドリブも自然と出せる。こうしたスタイルは、見た目の派手さはないけど、ネイマール(ブラジル/パリ・サンジェルマン)のようですね。

 今後、間違いなく海外でプレーする選手だと思いますが、最初は日本人DFとは違う体のサイズや足の出方の違いに苦労するでしょう。そこに対して三笘がどうアジャストしていくのか、その過程には興味があります。アフリカ系のサイドバックが多いフランスのリーグ・アンなどでプレーしたら、面白いだろうと個人的には思います。

 川崎はJリーグのなかでは群を抜いてうまいチームで、三笘にはいい形でボールが回ってくることが多いですよね。今後そうではないチームに行って周りの環境が変われば、チームのなかでの彼の立ち位置も間違いなく変わります。

 ドリブルもできて、パスもできるとなれば、ボールを預けられることが多くなるかもしれない。逆に相手に消されて、パスが回って来ないシーンが多くなるかもしれない。そうなれば、オフ・ザ・ボールのところで何ができるかなど、成長していく必要がある。

 いろんな人からの話で、彼については、メンタルはそれほど強いほうではないし、新しい環境に強いタイプでもないとも聞いています。ただ、プレー面では問題なく順応できる力はあると思うので、うまくいかなくなった時にメンタル面が崩れずに解決していけるかが重要になるでしょう。

 久しぶりに、見ていてワクワクする選手なので、今後どんな成長をしてくれるか楽しみにしています。

著者:篠幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko