旗手怜央の欧州フットボール日記 第14回 連載一覧>>
カタールW杯で感じた将来の課題/後編
前編「日本代表の戦いを見て感じたこと」>>
レアル・マドリードと戦ったチャンピオンズリーグ(CL)や、カタールW杯を見て、自らのこれからの課題を感じたという旗手怜央。再開したリーグでは右サイドバックを初体験しながらも、その課題を克服するべく奮闘。その様子を語ってくれた。
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昨年末のリーグ戦で、右サイドバックながら2ゴールを挙げる活躍を見せた旗手怜央
【課題はゴール前の質】
カタールワールドカップには出場できなかったが、同じく世界中の怪物と言われる選手たちが集うUEFAチャンピオンズリーグの舞台を、今シーズン経験して感じたことがあった。
それはセルティックも、レアル・マドリードやライプツィヒを相手にゴール前まではボールを運べるということだった。加えて回数に差はあれ、シュートで終わることもできていた。
ただし、グループステージでは1勝もできずに敗退したように、突きつけられたのはその先、ゴール前における"最後の質"だった。
今季のリーグ戦においても、自分がアタッキングゾーンに顔を出す回数は増えてきているように思う。一方で、そこでシュートで終わる、さらにはゴールやアシストといった結果に結びつけることができていなかった。
カタールW杯でリオネル・メッシやキリアン・エムバペといったエースたちが、ゴールという結果でチームを勝利に導いていく姿を見て、なおさら実感するところがあった。
だから、W杯で中断していたリーグ戦が再開し、2試合目となる12月21日のリヴィングストン戦を終えたタイミングで、僕はセルティックの監督であるアンジェ(・ポステコグルー)さんの部屋をノックした。
自分がさらに成長するために、課題を聞きにいくためだった。部屋を訪ねると、アンジェさんはこう言ってくれた。
「レオがさらに成長するために必要なのは、アタッキングサードでの質を高めていくことだね」
自分自身でもその課題に目を向けていただけに、アンジェさんの言葉を聞いて、確信を持てた。
これは余談だが、試合後の会見でアンジェさんは僕が毎日、コーチのもとを訪ねていると語ってくれたが、それは試合の翌日に映像を見せてもらうためのものだ。アンジェさんは自らアドバイスしたことを明かすのではなく、会見で自分の努力とコーチの仕事ぶりを称えてくれた。そうした周囲への気配りや信頼が、監督として、人として尊敬できるところでもある。
まさか、その直後に右サイドバック(SB)で試合に出場することになるとは思ってもいなかったけど......。
【右サイドバックで2ゴール】
あれは、アドバイスを求めにいった直後だった。セルティックはケガ人が出たのもあり、右SBの人材が足りなくなっていた。
「次の試合はどのようなメンバーで試合に臨むのだろうか」
「やっぱり、左SBの選手が代わりを務めるのかな」
僕自身はそんなことを考えていたが、ミーティングが終わると、アンジェさんに声をかけられた。
「レオ、右SBでいけるか?」
一瞬、驚いたが、チームのためになるのであればと思い返事をした。
「できなくはないと思います」
連戦だったこともあり、ほぼぶっつけ本番だったが、12月24日に行なわれたセント・ジョンストン戦で、自分は右SBとして先発出場した。
これまで左SBでプレーした経験はあったが、サイドが変わるだけで細かい動きやポジショニングは全く異なる。
練習では常に監督やコーチの指示に耳を傾け、自分に言っている言葉や自分のポジションのことだけではなく、すべてのポジションの選手に伝えている内容を聞き、把握するように意識している。それもあって、アンジェさんが右SBに要求していることを思い出し、やるべきプレーを頭に叩き込んで試合に臨んだ。
それにポジションが右SBであっても、"ゴール前の質"を追求してプレーしていくのに変わりはない。そう思って臨んだ試合で、僕は2得点を記録することができた。
セント・ジョンストン戦の14分に決めた先制点は、思いきりよく放ったシュートだった。自分が目を向けているゴール前での質を追い求めた結果、あの場面ではシュートを「打っていい」と判断したことがゴールにつながった。
52分に決めた2点目は今シーズン、ずっと取り組んでいるアタッキングサードに入っていく動きにプラスして、やはりゴール前での質を発揮できた。
セルティックは今季ここまで、相手に引かれて守備ブロックを作られ、それを崩せずに苦しむ試合が多かった。そのため、ニアゾーンの裏に走る動きがポイントになっていた。そう感じていた課題にトライした結果、生まれた追加点だった。
【自分の武器や個性につながる】
2022年最後の試合となった12月28日のハイバーニアン戦にも右SBで出場したが、この試合では、(古橋)亨梧くんにアシストすることができた。僕が出したパスは少し浮いてしまったが、それを確実に収めて、決めてくれたのはさすがだった。
これも今シーズン意識している、ボールを持ったら「まず最前線にいる亨梧くんを見る」ことで生まれたゴールだった。これまで亨梧くんには、いくつも似たような状況でパスを狙っていたが、ようやくゴールという結果に結びつき、亨梧くんからも「やっとレオからのパスを決めることができた」と言ってもらえた。
ポジションがどこであっても、プレーの幅を広げていけば、ゴール前に顔を出すことはできる。そして、ゴール前での質をより追求していくことで、結果を残せる。それが武器や特徴になり、自分にとっての強烈な個性になると、今は考えている。
旗手怜央
はたて・れお/1997年11月21日生まれ。三重県鈴鹿市出身。静岡学園高校、順天堂大学を経て、2020年に川崎フロンターレ入り。FWから中盤、サイドバックも務めるなど幅広い活躍でチームのリーグ2連覇に貢献。2021年シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。またU−24日本代表として東京オリンピックにも出場。2021年12月31日にセルティックFC移籍を発表。2022年1月より、活躍の場をスコットランドに移して奮闘中。3月29日のカタールW杯アジア最終予選ベトナム戦で、A代表デビューも果たした。
著者:text by Harada Daisuke