ウルグアイ戦(国立競技場・24日)、コロンビア戦(ヨドコウ桜スタジアム・28日)を戦うサッカー日本代表26人のメンバーが以下のように発表された。

GK
シュミット・ダニエル(シント・トロイデン)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、谷晃生(ガンバ大阪)

DF
板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、橋岡大樹(シント・トロイデン)、角田涼太朗(横浜F・マリノス)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、菅原由勢(AZ)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、半田陸(ガンバ大阪)

MF/FW
遠藤航(シュツットガルト)、伊東純也(スタッド・ランス)、浅野拓磨(ボーフム)、守田英正(スポルティング)、鎌田大地(フランクフルト)、西村拓真(横浜F・マリノス)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、堂安律(フライブルク)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)、田中碧(デュッセルドルフ)、町野修斗(湘南ベルマーレ)、中村敬斗(LASKリンツ)、久保建英(レアル・ソシエダ)


カタールW杯後、最初の日本代表メンバーを発表する森保一監督

 W杯本大会を挟むと、価値観に少なからず変化が起きる。代表サッカーはそうした宿命を抱えている。これまではそうだった。新監督によって持ち込まれた従来とは異なる価値観が、その就任を機に幅を利かせていく。メンバーの顔ぶれにそれは端的に表れたものだ。

 しかし、森保一監督が続投する今回、もし任期を全うすれば8年間、代表サッカーとその周辺は、同じ価値観に支配されることになる。

 日本代表がW杯本大会に初めて出場した1998年フランスW杯以降では初のケースだ。出場を逃した1994年アメリカW杯を挟んだ時も、代表監督がハンス・オフトからロベルト・ファルカンに変わっているので、1990年イタリアW杯以来、32年ぶりとなる話なのだ。

 新監督が発表する日本代表メンバーにはそのつど、従来の価値観では選ばれることがなかった意外な選手が含まれていた。それが循環をコンセプトとする代表チームに不可欠な刺激となっていた。サッカーというスポーツの、それこそが文化であり習わしだった。続投にはメリットもあるが、デメリットも多い。代表監督に限らず、サッカー競技全般に監督交代が多いのは、むしろそのほうが多いと捉えるからだろう。

【W杯予選落ちの心配はない】

 そうしたリスクを犯しても続投するのであれば、代表監督は自分自身をそれなりに変える必要がある。今回の新星日本代表のメンバー発表は、そういう意味で注目された。森保監督は自分の過去をどこまで否定できるか。

 会見の席上で森保監督は「候補者は今回選んだ選手の何倍もいる」と述べた。選びたかったけれど、選べなかった選手が多くいるという悩ましい心境を吐露した。日本の選手はよく言えば粒ぞろい、悪く言えばどんぐりの背比べだと再三述べてきた筆者には、森保監督の気持ちがわからないではない。そうした横一線で並ぶ候補者の競争心をどう煽り、かき立てるか。

 W杯のアジア枠は4.5から8.5に増えるので、予選落ちの心配はない。2026年W杯に向け、慌てず騒がず一段一段、階段を確実に昇っていくことができるかとの視点に立つと、現在はまだ畑を耕す時期にあたる。

 その昔、ファルカンは新監督としてメンバー発表の会見に臨んだ際、その意外な顔ぶれを見て訝しがる日本の報道陣に対し、現在が4年周囲で回る1年目であることを説いた。ハビエル・アギーレも就任してから数試合、多くの新顔を登用した。ブラジル戦にベストメンバーを選ばなかったそのやり方に対し、メディアは批判したものだ。イビチャ・オシムが就任直後に選んだ選手も、思いがけない選手が多かった。これがサッカー的な考え方なのである。

 今回のメンバー発表のポイントは、森保監督がカタールW杯を戦った26人からどれほど離れられるかにあった。言い換えれば、どれほど知名度の低い選手を選ぶことができるか。だが、ウルグアイ戦の舞台は国立競技場だ。チケットもすでに完売している。そうした華やかな興行然とした舞台で行なわれる一戦に、人気の三笘や久保らを招集しないわけにはいかない。

 森保監督は空気を読むことに長けた日本人監督らしく、その結果、カタールW杯メンバーを26人中16人も選出した。入れ替えは初選出4人を含む10人に止まった。少ない。勇気に欠けたと言うべきだろう。

【フェアな目をアピールすべきだった】

 旗手怜央と古橋亨梧をカタールW杯に引き続き、今回も選ばなかった理由について「総合的に見て......」「リーグのレベルが......」「セルティックの試合は毎試合見ていますが......」等、例によってハッキリしない口調で断片的に言葉を並べた。だが、前回、もし彼らが次点で落選したとすれば、今回は選ぶべきだったと筆者は考える。セルティックで中心選手として活躍しているチャンピオンズリーガーをW杯本大会のみならず、その後も選ばないとなると、明らかに好き嫌いのレベルに入る。

 古橋のライバルは浅野、上田、町野の3人。リーグのレベルでは、浅野(ドイツ)>上田(ベルギー)>古橋(スコットランド)>町野(湘南・Jリーグ)の順になる。UEFAランクではドイツ3位、ベルギー8位、スコットランド9位の順に並ぶ。ボーフム(浅野所属)はドイツで現在14位。セルクル・ブルージュ(上田所属)はベルギーリーグで8位につける。一方、セルティック(古橋所属)はすでに優勝を決めた。

 今季挙げた得点は、浅野がわずか1点であるのに対し、上田は13点(リーグ4位)、古橋は20点でスコットランドのトップスコアラーだ。

 また、浅野の出場時間は946分で、1701分の古橋の55%にしかすぎない。実績で上回るのは古橋と言わざるを得ない。繰り返せば、カタールW杯のメンバーに浅野、上田、町野は選ばれたが古橋は落選した。森保監督の古橋評が浅野、上田、町野より下だとしても、ここは畑を掘り起こす原理で、古橋が一番にくるべきである。

 一方、旗手のライバルは守田、田中あたりになる。相変わらず森保監督の旗手評が3番手だとしても、古橋と同様の理屈から、ブンデスリーガ2部の現在5位につけるデュッセルドルフ所属の田中を外し、旗手を選ぶことがW杯明けの初戦では妥当な選択になる。

 カタールW杯の最終メンバーから惜しくも落選した選手は、この際、全員選ぶぐらいの度量の広さを森保監督は示さなくてはならなかった。フェアな目の持ち主であることを、僅差で連なる多くの候補選手に向け、続投初戦を前にアピールする必要があった。

 森保監督はカタールW杯で出場機会が与えられなかった町野については、「悔しい思いをしたはずだ」とおもんばかったが、旗手や古橋はチャンピオンズリーガーになりながら落選したわけだ。町野とは落胆のレベルが違うだろう。

 ケガでカタールW杯を棒に振った菅原が今回、選出されたのはよかったが、「候補者は今回のメンバーの何倍もいる」と述べた割に、森保監督は自分のなかの優先順位を崩そうとしない。見かけによらず、頑なな人柄が見て取れる。

 W杯の予選落ちがなさそうな設定が緩いなかで行なわれる今回の代表活動は、自身がつけたその順番を可能な限り疑いながら指揮を執るべきだし、そうした余裕があるはずだ。1期目と同じ調子で選手を選ばないでほしい。26人のメンバー顔ぶれを見て、筆者はあらためてそう思った。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki