五輪代表のライバルたち(前編)

 大陸間プレーオフでギニアがインドネシアを破って最後の1枠が埋まり、これでパリ五輪を戦うすべてのチームが出そろった。

 五輪のサッカーは他のどの大会に比べても出場するのが難しい。たとえば20歳以下のU−20W杯に出場できるのは24カ国、フル代表のW杯なら次回は48カ国も出ることができる。それに比べて五輪でプレーできるチームは世界でたった16カ国。なにしろあのブラジルも、五輪本大会で2連覇をしていたのにもかかわらず、出場がかなわなかった。パリにやってくるのは厳しい予選を戦い抜いてきたチームということになる。

 それもサッカー界の次代を担う選手たちだ。そんな大会にふさわしいようにと、オリンピック委員会は試合会場に、1998年のフランスW杯で使用された、各地の3万人以上を収容する大きなスタジアムを7つ用意した。フランス対アメリカの試合が行なわれるマルセイユのスタッド・ヴェロドロームは6万7000人を収容するが、チケットはすでに売り切れている。

 どのような戦いが繰り広げられるか。グループごとに見ていくことにしよう。


U23アジアカップで優勝し、パリ五輪出場権を獲得したU−23日本代表 photo by Getty Images

 まずは日本が入ったグループD。「死の組」と言われるだけあって、どこが勝ち抜けるかを予想するのは非常に難しい。

 アテネ五輪以来、20年ぶりの五輪出場とあって、マリを率いるバダラ・アル・ディアロ監督は一躍、国の英雄となった。将来はフル代表を任されるだろうと言われている。

 マリの特徴は、フィジカルの強さとスピード、そしてテクニックにある。長身選手が多く、185センチを越える選手が8人もいる。アフリカのチームの多くは旧宗主国の国籍の選手が戻って代表に入るケースが多いが、マリの場合は多くがマリ生まれ、マリ育ちだ。国外の選手を当てにしなくてもいいことが、マリの強さを物語っている。

 そのマリでは今、若い世代が急速に成長している。カテゴリーは違うが、昨年のU−17W杯ではアルゼンチンを破って3位に輝いている。五輪本大会でもU−17世代から確実にふたりは入るだろうと言われている。国内でプレーするハミドゥ・マカルとイブラヒム・ディアラだ。ふたりはU−17W杯でマカルはシルバーボール賞(MVP2位)、ディアラはシルバーブーツ賞(得点王争い2位)を獲得している。

【どの国にもビッグクラブが狙う逸材が】

 日本にとって注意が必要な選手は、強力なCBコンビのイブラヒマ・シセ(シャルケ)とポルトガルでプレーするアミドゥ・ディアロ(ファレンセ)。またMFブバカル・トラオレ(ウルバーハンプトン)はマンチェスター・シティが狙っていると言われる逸材だ。すでに多くの選手がヨーロッパのクラブでプレーしており、経験も豊富だ。

 パラグアイは、強豪ひしめく南米で、アルゼンチンや五輪連覇中のブラジル、ウルグアイなどを抑えて1位となったチームだ。カルロス・ハラ・サギエル監督は74歳で、今大会最高齢の監督になるだろうが、実はパラグアイが唯一五輪に出場し、銀メダルを獲得した2004年アテネ大会の監督でもある。パラグアイは「その時の夢を再び」と、昨年10月に彼を監督に据えたのだが、その目論見は的中。再びチームをオリンピックに導き、"奇跡の人"と呼ばれている。

 チームの中心は、インテル・マイアミでリオネル・メッシとともにプレーするMFディエゴ・ゴメス。すでにフル代表入りしている彼は、現在300万ユーロ(約5億円)の価値があると言われている。また19歳のアタッカー、エンソ・ゴンザレス(ウルバーハンプトン)、23歳のフェルナンド・カルドソ(オリンピア・アスンシオン)も所属クラブでレギュラーの座をつかんでいる。

 イスラエルは、1976年のモントリオール五輪以来、2回目の五輪出場となるが、この時はアジア枠で出場していたので、ヨーロッパの代表として五輪に出るのはこれが初となる。並みいるヨーロッパの強国を抑えての出場は、快挙と言っていいだろう。昨年のU−20W杯では世界3位となっている。

 現在戦闘状態にあるイスラエルは、「五輪で負けるわけにいかない」という強いモチベーションを持っている。チームを率いるガイ・ルゾン監督は軍人でもある。

 チームは、U−20W杯とU−21ヨーロッパ選手権に出場した選手から、選りすぐりを集めると思われる。

 なかでも外せないのは、攻撃的MFで背番号10をつけるオスカル・グローク。176センチと背はそれほど高くないが、スピードとインテリジェンスがあり、U−21ヨーロッパ選手権では多くのチームを泣かせた。現在はオーストリアのレッドブル・ザルツブルクに所属するが、少なくとも15のチームが彼をほしがっている。また、GKダニエル・ペレスはマヌエル・ノイアーのサブとして、昨年夏にバイエルンに加入している。

 その一方で、オリンピック委員会もイスラエルチーム自体も、大会中のテロを非常に警戒している。かつてミュンヘン五輪では、選手村に忍び込んだテロリストが、イスラエルの選手11人を殺害した過去もある。イスラエルの試合はテロの「ハイリスクマッチ」に指定されており、そのなかには日本戦も含まれている。
(つづく)

著者:リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon