「(今シーズンは)攻撃陣が多くのゴールを決めてくれたね。我々には20ゴールを記録するようなアタッカーはいないが、ふたケタやそれに近いゴール数を量産してくれた多くの選手がいた。

 オナイウ阿道、ガウティエ・アイン、フロリアン・アイェ、ラシン・シナヨコ、ガエタン・ペラン......。これこそが我々のチームがコレクティブであることを証明するもので、私にとってはとても重要なことだったんだ!」

 リーグ最終節を終えて満足気にそう振り返ったのは、フランスのリーグ・ドゥ(2部)で優勝を果たし、1年でリーグ・アン復帰を決めたオセールのクリストフ・ペリシエ監督だ。


オナイウ阿道のオセール移籍は大成功だった photo by Getty Images

 その言葉のとおり、今シーズンのオセール最大の強みは、リーグ最高となる72ゴールを量産した破壊的な攻撃力にあった。

 そのなかでオナイウは、チーム最多の15ゴールを量産してリーグ・アン昇格に大きく貢献(アイン=11ゴール、アイェ=10ゴール、シナヨコ=8ゴール、ペラン=7ゴール)。とりわけシーズン後半戦の爆発ぶりは、目を見張るものがあった。

 フランス移籍後3年目で転機を迎えたオナイウにとって、2年間プレーしたトゥールーズを離れてオセールに新天地を求めたのは、結果的に大正解だったと言える。

 前回リーグ・ドゥでプレーしたトゥールーズ加入初年度(2021-22シーズン)のゴール数は10。昨シーズンはリーグ・アンで2ゴールしか決められずに屈辱を味わったが、今シーズンはリーグ・ドゥでのゴール数を前回よりも大きく上回ったことによって、その苦い経験が決して無駄ではなかったことを証明した格好だ。

 もちろん、加入直後から順風満帆だったわけではない。

 移籍が決まったのは、8月28日という移籍期限間近のこと。そのため、すでにチームは開幕から4試合を戦っており、チームにフィットするまでにはそれなりの時間を要したことも確かだった。

 ただ、基本布陣の4−2−3−1の左ウイングとして初めてスタメンを飾った第6節のポーFC戦で、試合終盤に値千金の同点弾をヘッドで決めると、第10節のパリFC戦ではGKの弾いたボールに詰めて、自身2ゴール目をマークした。

【最終節で今季2度目のハットトリック達成】

 そしてオナイウが、チーム内で存在感を発揮するきっかけとなったのが、昇格のライバルでもある名門サンテティエンヌとの直接対決(第14節/11月11日)だった。

 この試合でも左ウイングで先発したオナイウは、開始早々の3分にペランのクロスをヘッドで合わせて貴重な先制点をマークすると、36分に右SBポール・ジョリーのクロスを右足で叩き込み、66分にも再びペランのクロスを右足でフィニッシュ。

 クロスボールに対して点で合わせるという、自身が得意とするダイレクトシュートでハットトリックを記録し、ホームでの勝利(5−2)に大きく貢献したのである。

 ライバル相手の完勝劇に、本拠地スタッド・ドゥ・ラベ・デシャンのスタンドを埋め尽くしたサポーターも大熱狂。指揮官やチームメイトはもちろん、オナイウがオセールの人々に認められた重要な夜となった。

 この勝利で勢いに乗ったオセールは、以降、5連勝を含む14戦負けなしの快進撃を続けて、首位攻防直接対決となったアンジェ戦(第24節/2月10日)で勝利してからはリーグ首位をキープ。そのまま昇格と優勝を勝ち獲ることとなった。

 ペリシエ監督が印象的な試合だったと振り返ったのは、第36節のホームでのパリFC戦。勝てばほぼリーグ・アン昇格を手中に収めることができるという大事な試合でも、オナイウは57分にジョリーのお膳立てしたクロスをスライディングしながら左足で押し込んで、ダメ押しゴール。またしても重要な試合で結果(2-0)を出すことに成功した。

 圧巻は、優勝と昇格を決めたあとの最終節・コンカルノー戦だ。祝福ムードで包まれたスタッド・ドゥ・ラベ・デシャンでオナイウが爆発。40分、ジョリーのクロスを今シーズン自身6点目となるヘディングによるゴールを決めると、63分、80分とゴールを重ねて2度目のハットトリックを達成したのだ。

 特に3点目のゴールは、ホットラインを形成するジョリーのクロスを絶妙な右足トラップで収めると、そのままハーフボレーで右足一閃。まさに"ゴラッソ"と呼ぶにふさわしい一発を決め、シーズンを締めくくることに成功した。

【日本代表の激しいフォワード争いに参戦】

 最終的にチーム最多ゴールを記録したオナイウだが、その背景には、シーズン終盤に入ってから左ウイングのみならず、4-2-3-1の1トップを任される試合も増えたことも、ゴール量産につながったと言えるだろう。

 それは、来シーズンからリーグ・アンでのリベンジを目指すオナイウにとってポジティブな材料であり、ストライカーとしての成長の跡と見ることもできる。少なくとも、サイドでもセンターでも得点ができるとなれば、ペリシエ監督の選択肢を増やすことにもつながるはずだ。

 同時に、今シーズンにオナイウが見せたパフォーマンスは、2021年6月から遠ざかっている日本代表入りの可能性にも影響するだろう。

 今シーズンに証明した決定力の高さを来シーズンもリーグ・アンの舞台で継続できれば、ライバルがひしめく日本代表の攻撃陣に食い込むチャンスは十分にある。現在28歳という脂の乗った時期にさしかかったオナイウ阿道の来シーズンは、いろいろな意味で注目に値する。

著者:中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi