今シーズンのJ2は、清水エスパルスが首位を突っ走っている(5月20日現在)。

「戦力的にJ2にいるべきチームではない」

 ライバルたちがそう言ってため息をつくほど、個人の能力は突出している。カルリーニョス・ジュニオ、ルーカス・ブラガというブラジル人はJ2ではトップレベルの外国人選手。GK権田修一、FW北川航也など、実績のある日本人選手も少なくない。ベンチに元ワールドカップ日本代表の乾貴士を置くほど恵まれた陣容だ。

 清水を追う2位のV・ファーレン長崎も、外国人選手が傑出している。ブラジル人のマテウス・ジェズスとエジガル・ジュニオはともに北川と並ぶ8得点で、J2得点ランキング1位。フアンマ・デルガド(スペイン)も高さやポストワークで後半の切り札として5得点を記録し、新加入マルコス・ギリェルメ(ブラジル)もフィットしつつあるなど、J2上位の資金力の高さが伺える。

 3位のベガルタ仙台は、森山佳郎監督の就任で「勝負強さ」の点で追い風を受けている。直近の栃木SC戦も、先制されながら逆転。直近は4連勝しているが、いずれも1点差のクロスゲームを制している。

 4位の横浜FCは、昨シーズンJ1で戦っていた"貯金"を垣間見せる。リーグ最少失点で、守備の法則は徹底されている。そして要所に、有力なブラジル人選手も擁する。

 この4チームが、1、2位の自動昇格を争うことになるか。

 もっとも、3位から6位に与えられるプレーオフ出場圏をかけた戦いはし烈を極めている。5位で大健闘を見せているレノファ山口FCから11位の大分トリニータまで勝ち点はわずか5ポイント差。数字上、たった2試合でひっくり返る。そして11位と12位の愛媛FCは勝ち点差1で、17位のロアッソ熊本まで4ポイントしか離れていない。つまり、熊本が連勝すれば、降格圏から昇格圏へ一気に景色が変わる可能性もあるのだ。

 J2の混戦模様は、今シーズンも続くだろう。
 
 その点、横浜FCが首位の清水を迎えた一戦は、リーグの行方を占う意味でひとつの試金石になるはずだった。だが......。

【ビルドアップやポゼッションを放棄】

 5月18日、横浜。残念ながら、この日の清水に"強者の風体"はなかった。開始直後から、至るところでノッキングを起こしていた。特に横浜FCのカプリーニをつかまえきれず、サイドチェンジなどで起点を作られる。焦ってファウルを重ね、そこからのセットプレーで劣勢になって、必然としてCKからの一撃を押し込まれ先制されてしまった。

「前半は、横浜の出足の鋭さ、気迫に差し込まれてしまいました。相手のほうが、執念のようなものを感じました」

 清水の秋葉忠宏監督はそう語っていたが、いわゆる士気の高さや強度だけの問題だったのか。後半も潰し合いになっただけで、決定機には持ち込めていない。それどころか、チームとして「ボールをつないで運ぶ」というプロセスを省いているからか、まったく形を作れなかった。

 後半、乾を投入したあとは、むしろ混乱が増した。彼が中盤に落ちてボールを受け、ビルドアップしようとするが、孤立無援でボールを失う。攻撃どころではなく、むしろ逆襲を受け、最後には突き放されて、2−0と敗れることになった。8連勝を目指していたチームとしては、あまりに不甲斐ない最後だったと言える。


横浜FCに敗れて下を向く清水エスパルスの北川航也 photo by Matsuoka Kenzaburo

 J2の清水は、昨年のJ1で優勝したヴィッセル神戸とも姿が重なる。戦力で他を上回るだけに、個人がタフに戦うだけでも勝ち点を稼げる。しかも、J1より明らかにミスが多いJ2では、勝ち点を計算しやすい。しかし、ビルドアップやポゼッションの形を放棄し、とにかくボールを裏に入れ、偶発的な決定機を探し求めるだけでは、得点へのアプローチの再現性のなさで混乱し、この日のような事態になるのだ。

 一方で、横浜FCが画期的なサッカーをしたわけでもない。

 シャドーに入ったカプリーニは左足でチャンスメイクし、中盤でユーリ・ララが積極的なミドルを放ち、センターバックのガブリエウは決勝点も叩き込むなど、攻守で高さや強さを発揮した。また、福森晃斗は左足のフィードで相手の裏を狙い、プレースキッカーとしても脅威を与えていた。要所に武器になる人材がいて、昨シーズンJ1で作り上げた守備の規範も生きていた。"弱者の兵法"で、相手のラインの裏を狙ったカウンターは、お手のものと言える。

 しかし、自分たちでボールを持って、運び、相手の意表を突くようなプレーは少なかった。基本的に裏へ蹴り込むだけで、攻撃は単発の個人任せ。能動的なプレーはほとんどない。目先の勝利に満足していると、昨シーズンJ1で降格の憂き目を見たようにも......。

 もっとも、清水も、横浜FCも目標は「J1昇格」だろう。その点で、両者にその戦線を勝ち抜く戦力があることは間違いない。やはり長崎、仙台を加えた"四つ巴"の争いか。

 そこに割って入るような伏兵が出てきてこそ、J2全体が面白くなるはずだ。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki