福田正博 フットボール原論

■第15節を終えたJ1は、首位のFC町田ゼルビアをはじめ、ヴィッセル神戸、鹿島アントラーズなど、戦い方の志向が似ているクラブが上位に来ていると福田正博氏は指摘する。その理由も含め、リーグ序盤戦の各チームの戦いぶりを分析してもらった。

【町田の戦術はJ1の多くのチーム相手に効果的】

 J1は15試合を終えて、J2から昇格1年目のFC町田ゼルビアが首位に立っている。開幕前からJ1でも戦えると思っていたが、ここまでやるとは予想していなかった。


J1は第15節を終えて、FC町田ゼルビアが首位に立っている photo by Matsuoka Kenzaburo

 町田の躍進の要因は、現実に特化した戦いに徹しているところだろう。サッカーでは「内容」を求める向きもあるが、町田は「勝利」を最優先にしている。顕著なのが、ロングボール・ロングスローだ。

 サッカーには陣取り合戦の側面がある。相手陣でプレーできれば、得点の可能性は高まり、失点のリスクは減るからだ。相手陣でプレーするための戦い方といえば、パスをつないでいくポゼッションサッカーが代表的だが、これは選手の高いクオリティと連係が求められる。

 その点、町田の場合はシンプルだ。ボールを奪えば前線にボールを供給し、セカンドボールを拾いながら相手陣に入っていく。サイドラインを割ってマイボールになればロングスローでゴールに迫り、相手のDFラインを押し下げていく。

 J1のチームの多くは、ハイプレス・ハイラインのサッカーをするため、町田のこの戦術はとても効果的だ。町田の戦い方によって、相手の前線からDFラインまでは間延びし、どの試合でも町田ペースで試合が運べている。

【選手層の厚みも増している町田】

 黒田剛監督のことは、彼が青森山田高校を指揮する前から知っているが、実に現実主義者らしい戦い方をしている。一発勝負のトーナメント戦で、試合を通して相手を圧倒してもPK戦で敗れることもあった高校サッカーの指導経験があるからこそ、プロの世界で「結果」にこだわったサッカーに徹することができているのだろう。

 また、シンプルな戦い方のメリットは出場する選手のローテーションにも表われている。開幕から4月まで町田の攻撃陣を牽引したのは、FWの藤尾翔太やサイドアタッカーの平河悠だった。彼らがパリ五輪出場権をかけたU−23日本代表の活動に参加し、攻撃力が弱まるかと心配していたが、代わりに出場機会を得たほかのFW陣が躍動した。それを可能にしたのは、攻撃の形がボールを奪ったら相手陣へと進んでいく、シンプルなものだったことが大きいと言える。

 そして、選手層の厚みが増したことは、ここから先の戦いを見据えると、町田にとっては心強い。この先、夏になって体力的に厳しい気候で試合が続くなかでも、誰が出ても戦えるめどが立ったので、チーム力をそれほど落としはしないと思う。

 クラブは初めてのJ1を戦っているが、メンバーの多くはJ1での経験が豊富だ。なによりチームを最後尾から支えるGKに、谷晃生がいる安心感ははかり知れない。日本代表の実績がある彼の存在によって手にできる勝ち点を考えれば、開幕間際に彼を獲得できたのは大きかった。GKと守備陣が安定している限り、町田は終盤まで優勝争いの主役を演じても不思議ではない。

【縦に速いシンプルなサッカーの神戸と鹿島】

 その町田と首位争いをしている昨シーズンの覇者ヴィッセル神戸も、自分たちのストロングポイントを生かして、相手ゴール前へとシンプルに迫るサッカーで勝ち点を伸ばしている。1トップの大迫勇也にボールを預け、彼の個の力でタメができる間に味方が攻め上がる。大迫がいることで、武藤嘉紀、佐々木大樹や汰木康也などのアタッカーが躍動している。

 この神戸の戦い方は、本質的な部分では町田のサッカーと同じと言えるだろう。ボールを奪ったら、チームが持つ高い個人能力を最大限に活用して、素早く相手陣に攻め上がるからだ。

 神戸には、優勝経験のある選手たちが数多く揃う強みがある。その一方で、不安要素はリーグの優勝争いが佳境を迎える9月から予定されている「ACLエリート2024-25」が始まることだ。上位クラブの宿命とはいえ、試合数が増えれば、おのずとリーグ戦に影響が出る可能性は高まる。それだけに、神戸としては9月までにライバルに対して多くの勝ち点差をつけておけるかが、2連覇へのポイントになるだろう。

 3位につける鹿島アントラーズも、新監督ランコ・ポポヴィッチのもとで縦に速く強度の高いサッカーで勝ち点を積み上げている。サイドバックがアグレッシブにボールを奪いに行き、中央の守備も堅くて強い。ただし、このサッカーをシーズン終盤まで維持できるかは、未知数の部分がある。

 現時点でポポヴィッチ監督は、町田の黒田監督と同様に現実主義的な戦い方を志向している。しかし、ポポヴィッチ監督がこれまで率いてきたJリーグでの指導経験を振り返れば、監督の理想とするサッカーが別にあるように感じる。それだけに、最後の最後まで「勝利」だけを追い求めることができるのか。それとも「内容」にもこだわりを見せるのか。そこがリーグ優勝への分岐点になる気がする。

 中盤戦から後半戦に向けて注目しているのが、FC東京だ。序盤戦は、パリ五輪出場を決めたU−23日本代表で躍動した松木玖生と荒木遼太郎がチームを支えたが、彼らが五輪予選で不在の間に戦力が整い、戦い方のバリエーションが豊富になった。松木、荒木とも5月中旬からFC東京に戻ってきたが、それ以前までスタメンを張っていた選手たちもパフォーマンスがよかった。それだけに、コンディションと調子のいい選手を優先して使いながら、チームの勢いを保っていくのではないかと見ている。

【横浜FM、川崎は波のある戦いぶりで苦戦】

 一方で気になるのは、一昨シーズンまでJ1のトップに君臨していた神奈川の2クラブだ。

 横浜F・マリノスは、ハリー・キューウェル新監督のもとでスタメンをターンオーバーしながら戦ってきたが、それをどこまで続けるのか。今季の横浜FMは試合数が多く、タイトな日程になるため、そこへの対策なのは理解できる。だが、結果が伴わなければ選手たちのモチベーションが低下する危険性はある。

 現状は13位だが、試合消化数で他チームよりも2試合少ない。今季の優勝争いは混戦になる気配が漂っているだけに、その2試合でしっかり勝ち点6を積み上げて、上昇への足がかりにしてもらいたいと思う。

 川崎フロンターレは苦しい状況だ。華麗なパスワークと選手の連動によって黄金期を築いたが、その主力選手たちがことごとく移籍したのだから当然ともいえる。そこからの立て直しとなっているだけに、鬼木達監督にとっても難しい判断が迫られるシーズンになっている。このままだと残留争いに巻き込まれても不思議ではない。

 川崎が苦しいのは攻撃だけではなく、守備でも試合ごとに波が大きい点だ。守備に不安があれば安定した成績を残すことが難しい。ここの改善が急務だろう。

 そこで提案したいのは、センターバックの補強になる。たとえば谷口彰悟(アル・ラーヤン)の再獲得だ。DFラインでリーダーシップを発揮でき、中盤とGKをつなぐ役割もしっかりつとめられる。最終ラインでジェジエウの存在が際立っていたのも、谷口がいたからこそ。それだけに彼を獲得できれば、DFラインに安定感を取り戻せるし、そこから攻撃陣の再構築が図れると思うのだが......。

 J1の第15節終了時点で、首位・町田の勝ち点は32。10位の柏レイソルでも21を積み上げている。序盤戦の各チームの出来を見れば、今シーズンの優勝争いは混戦で例年よりも低めの勝ち点で争われそうな気配がある。

 残り20数試合で一気に波に乗って、連勝するチームが出てくることもあるだろう。どこのチームにもまだ優勝や上位を狙うチャンスがあるだけに、これからのJ1の動向にしっかり注目してもらいたい。

著者:text by Tsugane Ichiro