【ディープインパクトvsキングカメハメハ、優勢な血統は?】

 5月26日(日)、東京競馬場で3歳馬によるGⅠ日本ダービー(芝2400m)が行なわれる。

"競馬の祭典"と称され、3歳馬の頂点を決する一大イベントであるこのレース。今年は、無敗の皐月賞馬ジャスティンミラノ、同レース2着のコスモキュランダ、GⅠホープフルSの勝ち馬で紅一点のレガレイラ、GⅡ青葉賞を制したシュガークンなど役者が揃った印象で、ハイレベルな争いが期待できそうだ。


皐月賞馬ジャスティンミラノが本命になりそうだが...... photo by 東京スポーツ/アフロ

 そんなレースを血統的視点から占っていこう。

 今年の日本ダービーの大きなテーマに、「父仔3代制覇」がある。JRAのGⅠにおいて、グラスワンダー系などが父仔3代でGⅠ制覇を果たした例はあるが、同一レースでは達成されたことがない。メジロアサマ〜メジロティターン〜メジロマックイーンは、父仔3代でGⅠ天皇賞を勝ったが、メジロアサマとメジロティターンは「東京・芝3200m」の天皇賞・秋、メジロマックイーンは「京都・芝3200m」の天皇賞・春で、コースも時期も異なり、厳密に言うと別のレースになる。

 日本ダービーは今年で91回目を迎えるが、1932年の第1回から東京・芝2400mで行なわれてきた歴史があり、一生に1回しか出走できないクラシックレース。その最高峰レースで3代制覇となれば、極めて価値の高いものとなる。今年は、そんな歴史的瞬間が見られるかもしれない。

 今年は出走馬18頭中、8頭が父仔3代制覇の対象となっている。まずキズナ産駒では、サンライズジパング、シックスペンス、ジャスティンミラノ、ジューンテイク、ショウナンラプンタの5頭。ドゥラメンテ産駒がシュガークン、ミスタージーティーの2頭。そして、レイデオロ産駒がサンライズアースの1頭だ。

 この8頭の父系を見ると"別の戦い"も見えてくる。キズナの父がディープインパクトで、ドゥラメンテとレイデオロの父がキングカメハメハであることから、「ディープインパクトvsキングカメハメハ」の対決でもあるのだ。

 2頭の、日本ダービーでの父系の成績を見てみよう。ディープインパクトは、キズナを含めて7頭のダービー馬を出している、日本屈指の大種牡馬。その父サンデーサイレンスも直仔に6頭、直系の子孫から、ディープインパクト系を含めて18頭の日本ダービー馬が出ている。

 一方のキングカメハメハは自身と、産駒はドゥラメンテとレイデオロの2頭がダービーを制覇。キングカメハメハの父キングマンボまで広げても、キングズベスト産駒で直系の孫になるエイシンフラッシュが加わるだけで、合計4頭となる。

 これは数的な問題も大きい。サンデーサイレンス系の馬はこれまで251頭が出走し、18勝、2着19回、3着16回で勝率7.2%、連対率14.7%。ディープインパクト系に限れば61頭で7勝、2着3回、3着4回で勝率11.5%、連対率16.4%と数字は上がる。これに対して、キングカメハメハ系は41頭と出走数が少なく、2勝、2着1回、3着2回なので勝率は4.9%、連対率7.3%。数的にも確率的にもサンデーサイレンス系(=ディープインパクト系)が優勢であり、今回はキズナ産駒を上に見たい。

【キズナ産駒のなかで期待は?】

 今回のキズナ産駒では皐月賞馬ジャスティンミラノが人気を集めそうだが、筆者はシックスペンス(牡3歳、美浦・国枝栄厩舎)を上に見る。

 母の父トワーリングキャンディが米GⅠマリブS(サンタアニタ・ダート7F)の勝ち馬で、母フィンレイズラッキーチャームは米GⅠマディソンS(キーンランド・ダート7F)の勝ち馬。スピード寄りの配合で距離不安を感じるかもしれないが、過去のダービー馬の母もスピードタイプが多く、2021年のシャフリヤールの母ドバイマジェスティは米GⅠBCフィリー&メアスプリント(チャーチルダウンズ・ダート7F)を勝った米牝馬チャンピオンスプリンター。2022年のドウデュースの母ダストアンドダイヤモンズも、米GⅡギャラントブルームH(ベルモントパーク・ダート6.5F)などダート6〜6.5Fの重賞を2勝していた。

 また、母フィンレイズラッキーチャームはクリプトクリアランス(父ファピアノ)のクロスを持っているが、2020年の三冠馬コントレイル(父ディープインパクト)の母もファピアノのクロスを持っている。さらに、キズナの母の父ストームキャットはコントレイルの曾祖母の父なので、全体的な血統構成が非常によく似ている。

 シックスペンスはここまで3戦3勝。前走のGⅡスプリングS(中山・芝1800m)は、3番手追走からラクな手応えのままゴール前で後続を突き放し、2着に3馬身半差をつけての圧勝。上がり3Fは33秒3と優秀だった。これまで1600m、1600m、1800mと、2000m以上の経験がないのが気になるところだが、2021年の勝ち馬シャフリヤールも距離経験は1800mまでで、GⅢ毎日杯(阪神・芝1800m)を勝って皐月賞をパスしての参戦だった。同馬と似た雰囲気があるだけに、期待したい。

 とはいえ、本命ジャスティンミラノ(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)の血統も分析しておこう。

 母の父エクシードアンドエクセルは豪GⅠニューマーケットH(フレミントン・芝1200m)の勝ち馬で、母マーゴットディドも英GⅠナンソープS(ヨーク・芝5F)を勝ったスプリンターだが、エクシードアンドエクセルは母の父としてGⅠ英ダービー馬のアンソニーヴァンダイクを出している。

 ディープインパクト系と母の父ダンチヒ系の配合は、2019年の勝ち馬ロジャーバローズ(父ディープインパクト、母の父リブレティスト)と同じ形。さらに、祖母の父シャリーフダンサーはGⅠ愛ダービー(カラ・芝12F)の勝ち馬で、スタミナのポジティブ要素も十分なだけに、距離延長は苦にならないだろう。

 ただデータ的には、近年、皐月賞馬&1番人気馬の苦戦が目立つのが気になるところ。皐月賞→日本ダービーと連勝したのは、過去10年で2015年のドゥラメンテ、2020年のコントレイル2頭のみ。皐月賞馬は近3年でエフフォーリア(2着)、ジオグリフ(7着)、ソールオリエンス(2着)と3連敗を喫している。

 ジャスティンミラノは皐月賞をコース・レースレコードで制したとはいえ、着差はタイム差なしのクビ差と抜けた存在ではないので、他馬がつけ入る隙はある。その可能性が高いのは、未対戦で能力の底を見せていない、前述のシックスペンスだろう。

 この図式は無敗の皐月賞馬エフフォーリア、毎日杯を勝ったシャフリヤールの2021年のそれに似ている。ダービー初制覇を狙う戸崎圭太騎手(ジャスティンミラノ)、ダービー勝利経験がある川田将雅騎手(シックスペンス)という騎手の関係性も、2021年の勝ち馬シャフリヤールに騎乗した福永祐一騎手と、2着馬エフフォーリアに騎乗した横山武史騎手を思い起こすものだ。以上、ジャスティンミラノの強さを認めつつも、今回はシックスペンスに賭けたい。

著者:平出貴昭●文 text by Hiraide Takaaki