5月25日、ラ・リーガ最終節。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地レアレ・アレーナにアトレティコ・マドリードを迎え、0−2で敗れている。

 ディエゴ・シメオネ監督が率いる強豪アトレティコは、一枚上手だった。ボールを握って運ぶプレーに転換し、華麗に守備を崩した。サムエル・リノの先制点は実に鮮やかだった。一方で伝統の守備濃度も高く、激しいチャージで、とても"消化試合"とは思えない。見事なダメ押し点に象徴されるように、「最後まで集中したアトレティコが粘るラ・レアルを打ち負かした」格好だ。

 ラ・レアルの久保建英は、右サイドアタッカーとして先発出場している。何度となく切り込み、90分間を戦い切った。今シーズン最終戦、チームが敗れるなかでも、あらためて価値を示した。

「Picante」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』はスペイン語で「ピリッとくる辛さ」と久保のプレーを評している。

「"グレー"だったシーズン後半戦を締めくくるのに、いい試合だった。リノも、(セサル・)アスピリクエタも、彼を止める手立てを見つけられていない。(アルセン・)ザハリャンへの反転クロスはすばらしかったし、3人をかいくぐってゴール正面から冷静に放ったシュートはGK(ヤン・)オブラクの輝きに止められたが、最後までゴールに迫った」

 久保に対する各紙の評価は軒並み高かった。スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は星ふたつ(0〜3の4段階)で両チームを通じてトップタイ。スペイン大手スポーツ紙『アス』も同じく星ふたつのトップタイで、「ラ・レアルの攻撃で最もインスピレーションを感じさせた。バックラインまで入っていくと、ほとんど止められない」と絶賛した。


今季最終戦、アトレティコ・マドリード戦にフル出場した久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 今シーズンを振り返って、久保の評価はどうだったのか?

「タケ(久保)はラ・レアルに来て以来、持っているものをすべて出しきれるようになっている。すごいスピードで成熟しているし、その成長はこれからも続くだろう。(チャンピオンズリーグの)インテル戦を見ても、相手が研究して封じてきたときに、それを上回っている。そうした戦いを重ねることで、可能性はさらに広がるだろう」

【大きかったアジアカップの影響】

 去年の秋、アルベルト・ゴリスは柔らかな声で、ラ・レアルで輝きを放つ久保についての印象を語っていた。1980年代にラ・リーガ連覇を成し遂げた伝説的センターバックだけに、説得力があった。

 久保がシーズンを通じて選手として成長したことは間違いない。何よりチャンピオンズリーグ(CL)でインテル、ベンフィカというイタリア、ポルトガルの王者を上回ってベスト16に進出する立役者になった点は歴史的と言える。ラ・リーガでも序盤は月間MVPを受賞するなど、ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)、アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ)などに比肩する輝きだった。

 惜しむらくは、今年1月、アジアカップに招集されてしまったことか。

 筆者はずっと指摘してきたことだが、シーズン途中に大陸別の大会に参加するなど言語道断だった。それもラ・リーガ、CL、スペイン国王杯が重なる日程でのことだった。案の定、後半戦の久保はわずか1得点に終わった。筋肉系の小さな故障を抱え、全力でプレーを続けることができていない。

 久保離脱後、ラ・レアルはラ・リーガで失速した。国王杯は勝ち上がったが、準決勝でマジョルカにPK戦にまで持ち込まれて決勝進出の機会を逃した。そしてCLのパリ・サンジェルマン(PSG)戦は完敗。1月27日のラージョ・バジェカーノ戦で敗れた後、3月6日にPSGに敗れるまで、カップ戦含めて10試合で1勝5敗4分けという体たらくである。

 もし久保がラ・レアルでのプレーに集中できていたら、まったく違った結果になっていたはずだ。

 そしてアトレティコ戦は図らずも、今シーズンのラ・レアルを象徴していた。久保、アレックス・レミーロ、ブライス・メンデスの3人は『マルカ』『アス』とも星ふたつだったが、他の選手の出来は星ひとつと凡庸。悪くはないが、物足りない。

 今シーズンを振り返ると、過去2年間で補強した選手たちの不振が目立った。すでに退団したモハメド・アリ・チョ(ニース)を筆頭に、ウマル・サディク、ザハリャンは期待外れ。アンドレ・シウバ、キーラン・ティアニー、アルバロ・オドリオソラも及第点は与えられない。

 シーズン前にノルウェー代表アレクサンダー・セルロートと完全移籍の契約を締結できなかったが、逃した魚は大きかったと言える。セルロートは移籍したビジャレアルで23得点。サディク、アンドレ・シウバはともに3得点だ。セルロートは久保とのコンビネーションもよかっただけに......。

 強化部門の失敗を背負ったイマノル・アルグアシル監督への批判は、お門違いだろう。下部組織スビエタと完璧な意思疎通が取れるアルグアシルが指揮官でなかったら、散々な結末になっていた可能性もある。そもそも今季は、ダビド・シルバを開幕前に失い、想定外のダメージを受けていた。久保だけでなく、アマリ・トラオレもアフリカ選手権で失うなか、最後まで戦いきったことはむしろ称賛に値する。

 そして、沈んでもおかしくなかった船の舵を取り、どうにか航海を続けさせた"キャプテン"が久保と言えるか。その点では救世主に近かった。ダビド・シルバ、セルロートの穴を埋めたのだ。

 来シーズンに関してはさまざまな噂が出ているが、久保は現状、2027年6月末までラ・レアルの契約選手である。最後に、ゴリスの啓示を引用しよう。

「ラ・レアルは下部組織から選手を輩出させながら、いいチームを作っている。そこにタケのように重要な選手たちが入って違いを出せれば、どんどん強くなる。勝つことで自信をつけて戦いに挑むことができたら、かつてのような快挙(ゴリスの時代のラ・リーガ連覇)を再現できるはずだ」

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki