【"清原ジュニア"ではなく、清原正吾の名を響かせたい】

 佳境を迎えた東京六大学野球春季リーグ戦の優勝争いは、勝ち点4の早稲田大と、勝ち点1差で追う明治大と慶應大の3校に絞られた。

 選手個人を見ると、今秋のドラフト候補たちが期待された成績を残せずにいる。「大学No.1ショート」と評価される明治大の宗山塁は、右肩甲骨の骨折やコンディション不良により欠場が続く。また、早稲田大の主砲・吉納翼は打率.229、1本塁打(5月26日時点。以下同)と苦戦。同大の小宮山悟監督は「少し力み過ぎだが、どうしてもネット裏(スカウト)の評価が気になるでしょうから仕方ない」と不調の要因を語った。

 そんな春の神宮球場で、ひと際の注目を集めているのが、昨秋に続くリーグ制覇を目指す慶應大の清原正吾だ。西武、巨人、オリックスの3球団で通算525本塁打を放った清原和博氏の長男で、今季は「僕にとって特別な打順」と話す4番で出場を続ける。


慶應大の4番として活躍する清原正吾

 慶應中ではバレーボール部、高校ではアメリカンフットボール部に所属し、6年間のブランクを経て、慶應大野球部のユニフォームに袖を通した。しかし部員が約200名という野球部の中で出場機会は限られ、3年までの成績は5試合に出場して9打数1安打。昨春のリーグ戦では、法政大のエース左腕・尾崎完太(現、セガサミー)から左前に初安打を放ったものの、その後はベンチを外れる機会も増え、チームが4季ぶりの優勝を成し遂げた昨秋のリーグ戦も出場ゼロに終わった。

 だが、今年の春季リーグでは4番として11試合に出場し、打率.273、6打点とチームを牽引する。

 5月4日の立教大戦では4打数3安打1打点と活躍。「常にセンター返しを意識している」という清原は、9回には「当たった瞬間は『どこまでも飛んでいってくれ』と願いを込めて、全力で走りました」というタイムリー2塁打を放ち、チームを勝利に導いた。試合後には「"清原ジュニア"ではなく、清原正吾の名をみんなに響かせたい」と力強く語った。

 さらに8日の立教大戦でも、3回裏の1死満塁の場面で2点タイムリー2塁打を放ち、堀井哲也監督も「勝負所で4番らしい役割を果たしてくれた」と称賛。清原は2塁上で、バックネット裏やスタンドに人さし指を向けた。

「父親への『やってやった!』という気持ちと、僕にとってかけがえのない存在でもある、ベンチ入りできなかった野球部のメンバーへの感謝の思いを込めました。初めてまともに、4番の仕事ができたと思う」

 ネクストバッターズサークルで、相手投手の投球モーションを見ながら何度もタイミングを確認する様子が印象的だが、スイングに関しては「シーズン前に小指を怪我した時に取り入れたコンパクトなスイングに、微調整を加えながら打席に立っている」という。内角のボールへの対応は、父・和博氏の打撃を参考にしているそうだ。

「父親もたくさん本塁打を打っていますけど、バットは短く持っていました。まだ決まった形はないですが、自分もバットを短く持ったほうが調子がよかったですし、コンパクトなスイングができたほうが気持ちに余裕も出てきます」

 出場を続けていることについては、「体力的な疲労もありますが、それでも4番としてのプレッシャーを乗り越えていかないといけない。堀井監督が『勝ち負けは監督のせいにして、その分個人のプレーに集中してくれ』とおっしゃってくださるので、自分の打席を楽しむつもりで、バッターボックスに入っています」と話す。

"清原ジュニア"という肩書、4番の重圧と向き合いながら、チームの2季連続優勝を懸けて6月1日、2日に行なわれる早慶戦に挑む。

「僕たちは、どの大学よりも練習してきている自信がある。リーグ戦に出させてもらっている以上は、応援してくれる人たちやメンバーの分まで頑張りたいですし、その気持ちが自分にとっていい刺激になっています。試合に出て、応援される選手になりたい」

 そう優勝に向けての意欲を語る清原は、自身のバットで歓喜の瞬間を手繰り寄せることができるか。

【父と同じサブマリン右腕】

 その清原正吾のいる慶應大と第1週(4月13日、14日)に対戦した東大野球部の投手で、試合前には「もし清原選手と対戦して打たれてしまったら、確実にネットでバズってしまうので、対戦した時には絶対に抑えないといけない」と闘志を燃やしていたのが、かつてロッテで活躍した渡辺俊介氏(現・日本製鉄かずさマジック監督)の長男、渡辺向輝(3年)だ。

 投球フォームは、父と同じサブマリン。俊介氏とロッテ時代のチームメイトで、向輝投手の幼少期を知る早稲田大の小宮山監督は次のように印象を語った。

「試合が終わった後、一緒に風呂に入っていたあの子が(対戦相手として)目の前にいて、親父そっくりのフォームで投げている。顔はそこまで似ていないと思うけれど、シルエットやサインを覗き込む姿は父親にそっくりで、どこかタイムスリップしたような感じがして感慨深いですね」

 清原との"2世対決"はお預けとなったが、渡辺はリリーフとして8試合に登板。従来のスライダーに加え、カーブやシンカーを習得したという今季は、11イニングを投げて防御率2.45と安定した投球を見せた。

 都内屈指の進学実績を誇る海城高校を経て東大の理科二類に入学。複数の球種を近い軌道から変化させて、打者の見極めを困難にする"ピッチトンネル"を追求する理論派は、先発ローテーション入りを目指して投球に磨きをかけている。

 そのほか、吉鶴翔瑛(4年・法政大/父・憲治=元中日、ロッテ)、広池浩成(2年・慶應大/父・浩司=元広島)、大越怜(3年・立教大/父・基=元ダイエー)ら元プロ野球選手の2世たちが盛り上げたリーグも、残すところあとわずか。勝利の女神はどのチームに微笑むのか、その行く末を見守りたい。

著者:白鳥純一●文・写真 text & photo by Shiratori Junichi