虐待疑惑の児童養護施設、高校入学時に誓約書「署名しないなら…」 専門家「子どもの権利を侵害」

 東京弁護士会(東弁)が児童虐待を指摘した東京都中野区の児童養護施設「愛児の家」は、高校生になった入所児童に、施設のルールを守るよう記した誓約書にサインを求めていた。署名しない場合は施設にいられないとの内容だ。複雑な背景を抱え、行き場のない児童を誓約書で抑え込む手法を、勧告や識者は批判している。
入所児童が高校に進学する時などに、愛児の家が署名を求めていた誓約書のコピー

「オートバイ、喫煙、不純異性交遊は行いません」

 「愛児の家から高校に通う人のお約束」。本紙が入手した誓約書のコピーには、そんなタイトルの下にオートバイや無断外出、喫煙、不純異性交遊などは行いません、と誓約する内容が記されている。
 これらを守る気持ちがなければ署名する必要はないとしつつ、署名しない場合は「愛児の家以外の場所から高校へ通うようにして下さい」とある。児童が石綿徳太郎施設長(園長)に約束する形を取っている。
 「署名しない場合は出て行くしかない。ここにはいられないから」。職員6〜8人が児童を取り囲み、こう迫っていたと勧告書は指摘。携帯電話の契約時なども応接室に呼び出し、署名を求めていたという。

弁護士会「過度の萎縮的効果を与えている」と批判

 施設の子どもたちは虐待や親の病気などで家庭で暮らすことができず、児童相談所の判断で施設にいる。施設に児相の判断を変える権限はないのに、そう誤解させるような文言だ。東弁は「児童らに過度の萎縮的効果を与えている」などと厳しく批判。適切に養育される権利などを定めた児童福祉法に反するとした。
 日本女子大の林浩康教授(社会福祉学)は「施設で暮らす子の多くは虐待などの被害体験を抱えており、安全で安心できる環境と信頼できる人を必要としている。高校進学の際に、問題を起こさないという誓約書を書かせることは子どもの不信感を招くと同時に、子どもの権利侵害であり問題だ」と話す。
 都は虐待に当たらないとした一度目の調査で誓約書の存在を確認できなかった。東弁は「(都の)調査方法が不十分だった」とも批判。石綿施設長は「高校生になって世界が広がるから、気を付けてねという確認だった」と説明した。

「出て行けとは言っていない」施設長の一問一答

 愛児の家の石綿徳太郎施設長の主な一問一答は次の通り。
 −勧告の受け止めは。
 かなりひどい内容。虐待については都の調査で非該当となっている。
 −施設のルールを守らなければ施設にいられなくなるとの誓約書が問題視されている。
 住む場所はあなたが選べるのですよ、という権利を教えている。私たちがそれを縛り付ける方がおかしい。やりたいこととここに住むことが相反するなら他に行ったほうが良いよ、それなら相談してね、と。出て行けとは言っていない。
 ただ、東弁の調査後、都に誤解を招くのではないかと言われ、「(誓約書に署名しない場合は)愛児の家以外の場所から高校に通うようにして下さい」との文言は削除した。
 −署名時に複数の職員が児童を取り囲むことは。
 物理的に、同時に6人や8人の職員が1人にかかりきりになれない。複数で対応することはあるが、進路のことなどで相談しやすい職員に相談してね、ということ。
 −職員が反抗的な児童の首周辺を腕で絞め、ソファに押し付けるなどの身体的虐待や、「頭おかしい」などの発言は。
 この時代にあり得ない。うちは(多数の職員で多数の子どもを養育する)大舎制で、職員は必ず複数で対応する。(職員の)1人が不適切なことをしても、誰かが止めることができる。それぞれ抑止力になり、1人が暴走することがない。 

愛児の家

戦災孤児を救護するため戦後の1945年11月に創立。家庭環境などに恵まれない子どもたちを中野区の施設で養護、育成している。施設のホームページによると入所児童の定員は36人。


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