デジタル教科書の問題点が解説された酒井教授の講演=東京・永田町で


 デジタル教科書の導入が本格検討される中、紙で読む教育の大切さを訴える「活字の学びを考える懇談会」主催の講演会が2日、東京・永田町で開かれた。脳科学を研究する酒井邦嘉・東京大大学院教授が「デジタル化された教科書の内容は記憶に非常に残りにくく、学習にとっては相当なマイナスだ」と指摘した。

「考える前にすぐ検索」を学習だと勘違い 

 大学の教壇に立つ酒井教授は「現場で痛感している」とこんな体験を明かした。

 「簡単にネット検索などができると、確かに便利だが、考える前に調べてしまう。これは大学生たちをみていると本当に、何か少し私が話をしただけでスマホで検索が始まっているんです。自分で考えて咀嚼(そしゃく)する前に調べてしまう。考えようとしない。考えるのはバカバカしい。書いてあるモノを探してくればいいんだと。それが学習なんだと勘違いしている」

 要領のいい学生ほど検索に飛びつき、考えようとしないという。その結果、限られた少ない情報の中で論理を組み立てたり取捨選択したりする過程が省かれてしまう。

記憶に大切な「空間的な手がかり」がない

 学びがタブレットやスマホの端末で完結しがちで「紙のノートは使わなくなる。メモを取れない学生が増える」とも。酒井教授は「大学の講義を聴くのに大学ノートを持ってこない」と嘆いた。

 デジタル化しても教科書の内容は紙の教科書と同じではないかとの意見には、酒井教授は次のように反論する。

 「内容の把握(の仕方)が変わる。デジタル教科書の場合、画面上の位置が定まらない。スクロールすると位置が変わってしまう。電源を切って画面を閉じれば実体がなくなってしまう。記憶するには空間的な手がかりが非常に大切だが、何ページのどこに書き込んだとか、あそこで先生がこう言ったのをこうメモしたなとかの手がかりが、デジタルではほとんどない」

人間はムダな情報から知識を確立していく

 人間の脳について「非常に原始的に、記憶するときにはたくさんのムダな情報を取り込むことで自分で関連づけをして、自分なりの知識を確立していく。その過程は時間がかかる」のだという。

 こうした問題意識から酒井教授は「アナログとデジタルのバランスを取りたいという議論が多いが、あえてアンバランスを取らなければいけないと私は考えます。紙の教科書やノートが主であって、あくまでもデジタルは従。そうしないと教育そのものの質が低下していく」と話した。 

[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年6月15日]