「大切な言語は母語」と話すピーター・フランクルさん=東京都渋谷区で


 「子どもには英語で苦労させたくない」―。こんな親心から、子どもを幼少期から英会話教室などに通わせる親も少なくない。ただ、12カ国語を話せる「語学の達人」で数学者のピーター・フランクルさん(68)は、英語の早期教育に懐疑的だ。小さいうちはまず、母語である日本語をしっかり身に付け、他者や異文化への好奇心を育む方が、結果的に英語学習に役立つと助言する。 

「国際人」の資質 幼少期にどう育むか

 「視野を広げ、人生を豊かにできる」。ピーターさんは外国語を学ぶ魅力をこう話す。さまざまな国・地域の人と交流でき、日本で公開されていない映画や書籍にもアクセスでき、従来と違う発想が得られ、生きる力が養われるからだ。

 一方で、「英語ができても真の国際人とはいえない」と指摘。大切なのは「国際人」としての資質で、それを育む大事な時期が幼少期という。「真の国際人は、相手と自分が違うという多様性を認めつつ、異なる意見を聴く耳を持ち、お互いの共通点を探して友達になろうと考え、行動できる人」と説く。

 その土台となるのが、日本人としてのアイデンティティー。幼少期から絵本の読み聞かせや、かるた遊びなどを通じ、日本語をはじめとする豊かな日本の文化に触れることで心のよりどころをつくる。母語を身に付けると、心の安定や自己肯定感をもたらし、学力や能力を伸ばす上で欠かせない土台となるという。ただ、自国の素晴らしさにしか目を向けない内向きな態度や、他国を見下してはばからない考え方は「国粋主義」であり、「愛国心」ではない、と強調する。

「日本はアジアを軽視し、内向き志向に」

 「自分が来日した1980年代の日本人は、多様な外国文化に好奇心旺盛だった」と懐かしむ。1990年代のバブル崩壊後は米国一辺倒でアジアを軽視するようになり、内向き志向が強まったと感じるという。

 「子どもは好奇心旺盛で、生まれつきの国際人。なのに成長するにつれて心に壁をつくるのは、子どもに偏見や先入観を持たせるような言動を大人がするからではないのか。自分と違うものへの興味や関心を深めるような育て方をすることが、世界の共通言語である英語学習への意欲を自然と高める近道になる」

 ピーターさんの著書「子どもの英語教育はあせらなくて大丈夫!」(草思社)では、算数の早期教育の是非にも触れている。

発音にコンプレックスは不要です「大切なのは形式より内容」

 ピーターさんはユダヤ系ハンガリー人で、来日して約40年。母語のハンガリー語や日本語をはじめ英語、ロシア語、中国語など12カ国語が堪能だ。110カ国を訪れた経験も持つ。

 最初に覚えた外国語はドイツ語。親の勧めで6歳から学び始めたという。だが、語学の習得には繰り返し練習など地道な努力が欠かせない。「小さい頃は興味を持てず、ほとんど身に付かなかった」と振り返る。

 転機となったのは中学3年の夏休み、ドイツ語が母語のオーストリア人家族と交流したこと。「もっと上手に話せたら」との悔しさがバネになり、ドイツ語力が短期間で飛躍的に伸びた。「本人が学ぶ意欲を持たなければ、語学力は向上しない」と実感を込める。

 ピーターさんによると、英語は中学や高校から始めても高いレベルに到達できる。ネイティブ並みの発音ができなくても、コンプレックスを持つ必要はない。「大切なのは形式よりも内容。日本人らしい発音でも自分の思いを素直に表せれば認められるはずだ」