心のてあて 虐待防止の現場から 番外編

「虐待をなくすためには親の支援が必要」と話す白石さん=埼玉県和光市の理化学研究所で


 虐待防止のため保護者に支援プログラムを提供した理化学研究所の研究で、中心的役割を果たした白石優子客員研究員(川村学園女子大講師)は、自身も虐待を受けて育った。研究では「親が目の前で子どもをたたくんじゃないか」と、見ているのが怖い時期もあったという。悩む親たちを支えながら家族再生への道を探る思いを聞いた。

親が困っている根本は?

−なぜ虐待防止の研究を?

 物心ついたころから高校進学で家を出るまで、親から暴力を受けることがありました。ご飯を食べるのが遅くて皿が飛んできたり、髪を引っ張られて畳に引きずられたり。その経験から虐待の影響や心の働きに興味があり、研究職に就きました。

−保護者支援はなぜ必要か。

 悲惨な虐待事件が報じられると、親を罰するべきだとの社会の意見はまだ根強いですが、親の支援をしていかないと虐待はやまない。刑務所を出た後も出産、子育てと人生は続きます。親が困っている根本に目を向ける必要があると考えます。

−研究を通して感じたことは。

 プログラム受講後、子どもと向き合う親の心の持ちように変化が見られました。プログラムは変わるための手法の一つに過ぎませんが、人間は変わりうるってことですかね。私は家族のイメージがゆがんでいて、研究中も親が子に手を上げるんじゃないかと心配した時期もありましたが、プログラムを経て親子関係がよくなるのを見て、私自身の親子観も健康になってきていると感じています。

逃げることもあっていい

−保護者支援の現状は。

 理研で研究を始めた2015年当時は、大阪や東京など一部の自治体で取り組んでいただけでしたが、少しずつ増えてきていると思います。ただ、児童相談所では、深刻な虐待に至ったケースでも親支援のプログラムが受けられるのは5%以下という統計(2018年)もあります。

 一方、海外の特にアメリカ、カナダ、オーストラリアでは、今回の研究で使用したエビデンス(根拠)のあるプログラムを自治体で活用するのが主流になっています。

−なぜ国内で広がりにくいのか。

 「支援をして良くなる」というイメージが持たれにくいのかもしれません。児童相談所は、通告後の緊急対応に追われているのが現状です。ほかにも、プログラムの効果の検証結果を研究者が世間にうまく伝えられていない、プログラムの実践者不足で行き渡らない、などの課題がありそうです。

−今、子育てにもやもやを抱えている人に伝えたいことは。

 大変な思いをしていても、例えば温かいココアを飲んだ時など大丈夫だと思える瞬間があると思う。そこで自分の力に目を向け、どう動けるか考えてみる。逃げることもあっていい。自分の心に手を当てるってことなのかな。

 周りの人には、あまり高いものを親に求めないでほしいですね。怒鳴っちゃう瞬間もあると思うので。心にゆとりを持って、助けたりかかわり合ったりしていけたらいいと思います。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月27日