職員に保育の助言をする山森紀子さん。保育所では職員のような服装で子どもたちが違和感を覚えないよう配慮する=名古屋市内で


 保育所や幼稚園などで、保護者や職員向けのカウンセリングが広がっている。保護者は、発達の度合いなど育児に関わる悩みを相談。職員は気になる子どもとの関わり方を学べるほか、カウンセラーが保護者とのパイプ役にもなるため、負担軽減にもつながっている。保育士の離職防止に対する効果を検証する研究も始まった。

「集団行動が苦手な園児にどう対応?」

 「その子は、別の子どもを注意する声におびえているのかも。不安そうなら、大丈夫だよと先生から声をかけて」。今月中旬、臨床心理士の山森紀子さん(51)は、名古屋市内の認定こども園で、男性保育教諭に園児との接し方を助言していた。

 この保育教諭は集団行動が苦手な園児が気になり、山森さんに相談。山森さんはまず、園児の工作などの活動を観察し、保護者に園でのカウンセリングを提案した。保護者は山森さんに自宅での様子や成長過程を伝え、その内容を職員と共有することにも同意。山森さんと保育教諭の面談となった。

 保育教諭は「園児の発達の問題などを担任からストレートに保護者に話すと、保護者も受け入れがたく、関係もこじれやすい。山森さんが間に入るとスムーズになり、専門の知見に基づいた対処法も学べる」と感謝する。

臨床心理士や公認心理師 高まるニーズ

 保育所や幼稚園などで保護者や職員の相談に乗る専門家は、地域や事業によって「キンダーカウンセラー」などと呼ばれる。主に臨床心理士や公認心理師らが担い、職業としても知られるようになってきた。

 幼少期は成長に個人差があり、月齢による違いも大きい。カウンセラーが現場で園児を注視することで、より適切な保育につなげやすい。場合によっては行政や療育、医療など外部の機関とも連携。職員は園での困り事を相談することで、ストレスも軽減できる。

 カウンセラーへの費用を補助する自治体も出てきた。大阪府は2003年、全国で初めてキンダーカウンセラーを利用する私立幼稚園への補助を制度化。京都府や兵庫県、東京都日野市などでも同様の事業が始まっている。

 京都府臨床心理士会は55の幼稚園にカウンセラーを派遣。同会子育て支援部局の担当理事辻麻衣子さん(46)は「最近は子ども像が変わり、ベテランの職員でも対応に戸惑うという声をよく聞く。キンダーカウンセラーのニーズは高まっている」と話す。

 名古屋市も2019年度、民間保育所16施設にカウンセリングなどの費用を補助するモデル事業を開始。希望する保育所は増えており、2023年度は32施設に対象を広げた。

カウンセラー確保と専門家の育成が課題

 山森さんが代表理事を務める「みどり保育支援相談」(名古屋市緑区)は臨床心理士13人が所属し、市内の保育所で相談を受けて助言している。同市の事業化前の2017年から、山森さんにカウンセラー派遣を依頼してきた緑区の認定こども園「滝の水保育園」の近藤寛園長(50)は「職員の負担が減り、離職防止に一役買っている」と意義を語る。

 名古屋市は本年度に事業の効果を検証し、本格実施を探る。ただし、対象園を増やすと、カウンセラーの確保や乳幼児期の心理・発達障害に詳しい専門家の育成が課題となる。

 保育士の離職を研究する東京大大学院の高橋美保教授(臨床心理学)は「保育士や園の経営者に第三者の立場で心理士が関わると、人間関係の悩みなどを減らせて安定した経営につもながる。乳幼児期の発達にも良い効果をもたらすはずだ」と期待する。