ウガンダのシングルマザーたちと(前列右から2人目が仲本千津さん)=仲本さん提供
日本とアフリカを行ったり来たり
―初めまして。よろしくお願いします。仲本さんはウガンダで起業されていますが、よく現地には行くのですか?
はい。日本とウガンダを行ったり来たりしていて、年に3回ほどはウガンダに行きます。一度行くと、2、3カ月くらいはいますね。向こうは日本の5月くらいの気候が一年中続いていて、とても快適なんですよ。

インタビューに答える仲本千津さん=東京都新宿区で(由木直子撮影)
―起業して今年で8周年。振り返っていかがですか?
本当に、ここまで続くとは思いませんでした(笑)。情熱だけで動いてきたのですが、「私って経営者に向いていないかも」と思いながら、いろいろな人に相談して、どうにか進んできたという感じです。
―店の名前の「RICCI EVERYDAY」の由来を教えてください。
私と母の名前をくっつけたんです。母の律枝と私の千津のブランドなのでRICCI(リッチー)と。起業に当たって母も共同代表になってもらったので、逆に名前に入れなかったら、母から怒られたと思います(笑)。それと、「お金ではない豊かなものを毎日感じられるように」という願いも込めました。
やりたいことの先延ばしはやめて
―きっかけは何だったのですか?
2011年の東日本大震災です。それまでも志はあったのですが、目先の仕事を優先し、自分を納得させて生きていたんですね。また、周りの先輩がすごくいい人たちばかりで、応援もしてくれていたので、ここで頑張るのが自分の運命かなと思っていた時期もありました。

仲本さんの工房で働く人たち=桜木奈央子さん撮影
―でも、考え方を変えた?
はい。3.11が起きて、思ったんです。人生の最期を迎え、病室で自分の人生を振り返ったとき、いい人生だったと言えるかどうかと。そのとき、「あ、このままじゃダメだ。やり残したことがある」って。やりたいことを先延ばしにするのはもうやめようと決意したんです。
―最初にアフリカに行ったのは2011年10月ですね。
銀行を辞め、まずは、アフリカを支援するNGO(非政府組織)に入りました。そこでNGOの駐在という立場で行って、ダメなら日本に戻ればいいと。アフリカでは何カ国か行きましたが、正直、水が合わない土地もありました。でも、ウガンダは食べ物も気候も合ったんです。
―そこで起業を思いついた?
ウガンダのマーケットをうろうろしていたときのことです。アフリカンプリントの布を見て、すぐに虜(とりこ)になりました。アフリカンプリントって、どんなものも柄になるし、モチーフにもなる。どんな色の組み合わせもあり、ルールがない。一期一会な感じがして、この布を使ってビジネスがしたいと思ったんです。

アフリカンプリントを使った仲本さんの商品
ウガンダの男性は本当に働かない
―仲本さんの工房は女性が圧倒的に多いですね。
ウガンダって、男性が本当に働かないんですよ。ずっと、家の軒下に座って一日中、ぼーっとしていて。あと街中で人が集まるトレーディングセンターみたいなところで男性だけ集まって、ビリヤードをやったり、お酒飲んでフラフラしたりとか…。もちろん、働いている男性もいるし、都市部では男性も女性も働かないと生活が回らないんですけど、感覚的には、ほとんど女性しか働いていないという印象です。
―最初からシングルマザーの支援だったのですか?
いえ、アフリカンプリントの布を見つけて、これでバッグを作りたいと思い、バッグを作れる人を探したら、別々のところから集まった3人が3人ともシングルマザーだったんです。女性を巻き込んで仕事がしたいとは思っていましたが、最初からシングルマザーの支援が目標というわけではありませんでした。

工房で働く女性たち=桜木奈央子さん撮影
―なぜ、シングルマザーが多いのでしょう?
HIVとか紛争とかが理由のようです。あとは家庭の問題ですね。家庭内暴力とか、また、ウガンダは一夫多妻制が慣習的に認められていて、クリスチャンでも一夫多妻の人がたくさんいます。でも、そうなると、嫉妬やねたみがあり、最終的に、子どもを連れて出て行く人が多いそうです。それで都市部に仕事を探しに出てくるのですが、簡単に仕事は見つからない。どうやって生きていけばいいんだと悩んでいる人がほとんどです。
―それで仲本さんの工房では他の3、4倍も高い給料を払っているのですか?
ウガンダの田舎で平均月収が9000円くらいと言われています。うちでは最低限、食費と家賃と教育費、医療費がまかなえるようにしたかったので、そのあたりをカバーできる給与設定にはなっています。子どもにはいい暮らしをして、いい教育を受けてもらいたいと思うのは、全世界の親の共通の願いですよね。

工房で働く女性たちには自然と笑みがこぼれる=桜木奈央子さん撮影
最初からうまくいったわけではない
―最初は苦労したそうですね。最初は縫い目がギザギザだったり、バッグのポケットが表裏反対に付けてあったとか?
商品を見た瞬間、「うわぁ!」って、時が止まったときもありました(笑)。でも、初心者を短期間トレーニングしたところで日本向けの商品が作れるわけがなくて、私の見通しが甘かったんです。その後、縫製ができる人が仲間に加わって、ようやく見通しが立ちました。
―文化の違いもあったと思います。
考え方の差というか、ウガンダでは形になればOKで、壊れても自分で直して使ってくださいというスタンス。「日本ではそうではないですよ、何年も長く使えるものを考えているんですよ」という考えをすりあわせ、目線合わせをしながら、徐々に品質の良いものができるようになりました。
最初は3人から始めた仲本さんの工房は、今では20人ほどが働くようになりました。事業立ち上げの様子や仲本さんの半生は、「アフリカで、バッグの会社はじめました」(江口絵理、さ・え・ら書房)に詳しく書かれています。
正真正銘のメイド・イン・アフリカ
―商品を作る際の基本的な考え方は?
自分たちはこういうブランドです、こういうことはやりますけど、こういうことはやりません、ということを明確にすることです。実は、アフリカンプリントってウガンダでは作っていなくて、売られているものは輸入品ばかり。調べてみると、大抵はコートジボワールとかナイジェリアとかで作られた布を中国で違法にコピーして、大量生産したものをまたアフリカに流すというビジネスをしているんです。そういうのを最初は知らずに使っていたのですが、どうしてもモヤモヤして、それはやっぱりやめようと決めました。
―それで、どうしたのですか?
いろいろ探して、ガーナでアフリカンプリントを作っているところを見つけて、そこから仕入れるようにしました。正真正銘、メイド・イン・アフリカのものを使いたい。正しく作られたものを使おうと。モヤモヤしてまで仕事する意味はないと思うので。

工房で働く女性たち=桜木奈央子さん撮影
―そこがこだわり?
だから、お客様には正直に話します。私たちがなぜ、ガーナから布を仕入れているのか、今、ウガンダの布は何が問題なのか、どういう人たちが作っているのかを。とにかくオープンにしたい。消費ってある意味、選挙みたいなところがあって、自分はこういう気持ちなので、同じポリシーを持っているところを応援したいと思ってくれる人もいるんです。
―なるほど。それがポリシーなんですね。
私たちは、自分たちの利益だけでなく、社会にとっていいことをやっていきたい。正しいものを作っていきたいんです。それをお客様に伝えると、呼応してくれる人もいて、それはすごくうれしいですね。

東京・神楽坂のショールームで、商品を手に取る仲本さん(由木直子撮影)
今度は難民の人と仕事がしたい
―社会起業家と呼ばれるのは?
恐れ多いですよね。自分からは恥ずかしくて言えないです。
―利益を追求するために工房を大きくしないのですか?
別に、会社の中にため込む必要もないので。みんなで継続的に、持続的に生きていけるレベルを確保しながら、回していければいい。やろうと思えば、中国の工場でできた布を使って日本の工場で作ることもできますが、それは他の会社さんがやればいい。私たちがやりたいのはアフリカに暮らす女性が、どうやったら仕事を得られるのかを考えることです。
―これからは?
海外向けに商品を出していけたらなとは思います。あと、ウガンダって難民を多く受け入れている国なんですね。150万人くらい受け入れているのですが、聞けば、彼らは月に3ドルとか5ドルくらいしか収入がないそうなんです。だから、今度は難民の方と一緒に仕事がしたい。何か少しでも自立する支援ができればと思っています。
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