特別な会話はなくても、一緒にいられる親子時間が宝物です


自分の今の実力を知って

 息子がまだ小さい時に言われた言葉がある。「今は体力的にしんどいことが多いかもしれない。でも、親としての役割は、息子さんがこの先、いろんなことを経験するようになってからまだまだ待っているよ」。その時は正直、「今、大変だし!」と思っていたけれど、その言葉の意味を実感する日々が続いています。僕は息子に何をしてやれるんだろうか。

 4月から始めた少年野球。これまで公園での親子ふたり野球は数多くやってきた。でも、チームに入り、自分の今の実力を知った息子の悔しさが、言葉にはしなくても伝わってくる。

 初めての試合。自分でもびっくりするくらいバッターボックスに立つことに緊張したこと。そして、思うようにはいかないこと。帰りの車の中、息子はいつもよりテンションが高い。でも、試合の話をあえてしないのがわかる。妻がいてくれたら、どんな言葉をかけるんだろうかと考えてしまう僕がいました。

 何ができる? どんな言葉をかけてあげられる? 妻の闘病中、何も言葉をかけることができなかった、あの時と一緒だ。家に帰って、いつも通りに、ふたりでキャッチボールをすることしかできない自分がいる。一緒に汗をかいて、ばあちゃんのおいしいご飯をいつも通りに食べる。これでいいのかな? わからないことだらけです。

頭の中は、野球とゴジラ

 今の息子の頭の中は、大好きなソフトバンクホークス、少年野球、ハマりにハマっているゴジラでいっぱい。野球中継を見ながら「ギータ(柳田悠岐選手)まで回してほしい!」と全力応援し、自分が本格的に野球する楽しさを覚え、眠いのを我慢してゴジラの映画を初代から全て見直す。勉強も!と言いたいところだけど(笑)、それでいい。本気で取り組めるものを見つけてほしい。

 悔しい思いもいっぱいするだろう、進路で迷うこともあるだろう、恋をして落ち込むこともあると思う。初めてのバッターボックスに立つ息子の姿を見て、この先のことを想像した。しっかりとバットを振っての空振り三振。そんな姿を見られるのが幸せですよね。

 親の役割はその時々で変わっていき、答えはないのかもしれない。ぶつかることもあると思う。でも、何があっても、息子の一番の味方でいてあげられる親でいたい。

 妻の闘病中と同じように、近くにいることしかできないけれど、それがどれだけ幸せなことなのか。親でよかった。親にならせてくれた。今年の母の日も、息子が選んだお花を妻の写真の前に飾りました。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。9歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。