子育て中の地方議員へのアンケートを実施した横浜市議の小酒部さやかさん=横浜市で



 「夜間の会議や会合を見直し、オンラインの選択肢を設けてほしい」「土日や早朝・夜間の活動には限界がある。地域の集まりやイベントに顔を出すことが難しいと理解してほしい」−。未就学児を子育て中の1都3県の地方議員へのアンケート結果を4月に発表し、全国的な調査とガイドライン策定を国に求めた超党派の「子育て中の議員の活動を考える会」。その中心となった横浜市議の小酒部(おさかべ)さやかさん(47)は、小学2年生(7)と保育園年長児(6)の2人を育てながらの活動に自らも苦労し、「少しでも楽なバトンを次に渡したい」という思いで動き始めた。「多様な人材が活躍できる環境を整えるため、政治の世界にも働き方改革を起こしたい」と発信している。


1度目の選挙、50票差で落選して…

 小酒部さんが初めて横浜市議選に立候補したのは、2019年4月の統一地方選。マタニティーハラスメントをなくそうと2014年から活動してきた経験を政治の場でも生かせれば、と立候補を決め、本格的に動き出したのは2019年の年明けだった。その時、長女は1歳9カ月、長男は0歳7カ月。「まだどっちも、ばぶちゃん(赤ちゃん)で夜寝ない。私も眠れない。夜中のおむつ替えもある。小さい子2人を抱えての選挙は、本当に大変で死ぬかと思った」と振り返る。

0歳の長男を抱く小酒部さやかさん。この数カ月後に横浜市議選への立候補を決めた=2018年秋、東京都内の友人宅で(本人提供)


 とりわけ理不尽だと感じたのが、選挙の日程だ。3月29日の告示日から4月7日の投票日にかけては年度の替わり目にあたる。告示前の準備期間も含め、子育て世代にとっては子ども関連の行事や進級に伴う準備が目白押しの時期だった。

 0歳の長男は4月からの保育園入園が決まっていたが、園に通えるのは4月1日からで、入園後も、初めは慣らし保育で徐々に預ける時間を延ばしていくため、いきなり長時間は預けられない。選挙期間中も抱っこかおんぶする手が必要だった。

 入園式にも半日が取られた。「この時間、他の候補者は活動しているのに」と心ここにあらずで、息子の晴れの日を手放しでは喜べなかった。

 結果は50票差での落選。当選もあり得たギリギリの落選だったからこそ、「入園式に出ないで、駅に立って有権者に呼びかけていれば」と悔やむ気持ちが生まれた。「もっと早くから、もっと長く育休を取ってくれていれば」と、当初は1カ月育休を取る予定だった夫のことも責めてしまった。

 同時に、次の選挙のことを考えた。2023年の選挙は長女の小学校入学と重なる−。卒園、入学準備、入学式…。子どものことに時間を取られ、また同じ思いをすることになるのか。

2度目は投票日の直前に入学式が… 

 2023年の選挙は3月31日告示、4月9日が投票日だった。小学校入学を4月7日に控えた6歳の長女、保育園年中児の4歳の長男を抱えて臨んだ。

 入学式は、投票日が2日後に迫る4月7日。半日時間が取られるのは痛かったが、「子育てファースト」を掲げる自分が、子どもの入学式を欠席する選択肢はない。それでも自分が入学式に出席している間、他の候補は最終盤の街頭活動に力を入れ、有権者に投票を訴えていると思うと、「せめて入学式を選挙後にしてくれれば」と願わずにはいられなかった。

子育て中の地方議員へのアンケートでは、「子どもとの時間にしわ寄せが行ってしまう」という声が多かった=2022年4月、公園で(本人提供)


 9日の選挙では、定数7の7番目で当選。同じような立場で苦労した人の声を集めようと、翌月から動き始めた。

 1度目は息子の保育園入園式、2度目は娘の小学校入学式と重なった選挙期間。自分のように小さい子を子育て中の候補者もいるはずだ。この大変さを分かってもらうためには、感情的に訴えるのではなく、データで示す必要がある。同じ立場の地方議員とつながり、声を集めて形にしよう。この未就学児を子育て中の候補者に圧倒的に不利な選挙活動をなんとかして変えたい。2度の選挙をへて、その思いを強くした。

子ども同伴の活動はどこまでOK?

 2019年の統一選では、3月29日の告示の時点で、2歳0カ月の娘は保育園に入っていたが、0歳10カ月の息子は4月1日からの入園は決まっていたものの、3月末までは、選挙の準備期間中も含めて0歳の息子を自分か夫が見ていなければならない状態だった。

 乳幼児2人を抱えて臨んだこの2019年の選挙では「子ども同伴での活動はどこまでOKなのか」という壁にぶつかることが想定された。公職選挙法は、年齢18歳未満の子どもは選挙運動をすることができず、子どもを使用して選挙運動をすることもできないと定めているが、個別の状況判断には迷うケースも多い。

「子育てをする人たちに、もっと政治の場に入ってきてほしい」と願う小酒部さやかさん(左端)=2022年4月、公園で(本人提供)


 子どもにビラを配らせるのは、公職選挙法で禁止されている。でも、「0歳児の息子を抱っこひもで私の背中におんぶして、私がビラを配る」のは? 選挙カーに子どもを乗せて候補者名をアナウンスさせたり手を振らせたりすることはできない。でも、「選挙カーに0歳児の息子を一緒に乗せておくだけ」は?

 選挙経験のある先輩からは、「選挙管理委員会に問い合わせても明確な答えは得られないだろう」「返答のないまま選挙が終わるだろう」と言われていた。結局、「違反なのでは?」と他の陣営などから指摘を受けるリスクがある行動は全て控え、「選挙期間中は夫がずっとおんぶや抱っこで息子の面倒を見る」という選択をするしかなかった。

 「こうした細かい基準を選管が明示してほしい」と求め、乳幼児を子育て中の候補者が活動しやすいよう、「子どもの同行をある程度までは認めてほしい」と訴える。預け先がなければ、常に保護者がそばにいる必要がある。「特にシングルで育てている人や、家族の助けが得にくい人は、同行を認めてもらえないと活動が大幅に制限される可能性がある」

子育て中の議員へのアンケート結果を伝える記者会見で、「国が全国規模の調査をし、ガイドラインを策定してほしい」と訴える横浜市議の小酒部さやかさん(左)=2024年4月15日、東京・永田町の衆議院第1議員会館で(本人提供)


活動中に保育園は利用できるか?

 保育園に入るための就労証明も、子育て中の新人候補者がぶつかる壁の一つだ。2023年の統一選前の段階では、子どもがいる候補者が選挙に立候補するために仕事を退職した場合、自治体によっては保育園などに子どもを預けられなくなるケースがあった。

 岸田文雄首相は2023年3月の参院予算委員会で「選挙活動や政治活動は一般的に、(保育園の)入所要件である『求職活動・就労等』に該当すると考えられる」として、保育園が利用できることを自治体に周知していく考えを示したが、自治体によっては今も「選挙活動時に保育園の利用が可能」だと明示していない。

 「これまで該当する人が極めて少なかったことも、明示されていない背景にはあるんでしょうね。選管も、過去の事例がないから分からない」と推測する。子連れ選挙についての選管の規定も、選挙活動中の保育園の利用も、自治体ごとにルールを整備すると内容やスピード感に差が出る可能性があると危惧する。「この自治体で立候補すれば保育園が利用できるけれど、隣の自治体ではダメ、ということがないように、国が総務省主導で進めてほしい」

働き方改革 政治の場は遅れている

 2023年4月の横浜市議選で当選し、1期目を務める中で感じるのは「政治の場の働き方改革が一番遅れている」ということ。政府が企業に対して働き方改革を呼びかけておきながら、自分たちはできていない。「私自身も、もし2019年の選挙で当選していたら、0歳と2歳の子を抱えての議員活動は大変だったと思う。オンライン視察の選択肢の導入などが進まないような非生産的な職場に優秀な若者は来ない。このままでは政治の世界の人材不足につながってしまう」と危機感を抱く。

「政治の場の働き方改革が一番遅れている」と話す横浜市議の小酒部さやかさん=横浜市で


 「地域のお祭りを回らないと次の選挙で落ちる」と言われるような議員活動のあり方にも疑問を持つ。子育て中の議員は、週末や早朝・夜間の活動が難しく、「地元の集まりやイベントにどれだけ顔を出すかで判断されるのはつらい」と訴える。

 「夏の土日は毎週お祭りを回り、子どもとキャンプにも行かずに過ごすとしたら、議員本人の家族にとってどうなんだろう。それをしないと後援会や支援者が認めてくれない、次の選挙に影響するという評価基準でいいのか、という点も有権者の方にあらためて考えてほしい」

子育て中の人に入ってきてほしい

 子育て中は、土日や早朝夜間の活動には制約がある。その代わり、自分がマタハラを受け、それを発信することで社会や企業の意識や制度を変えてきたこれまでの経験を政治の世界で生かしたい。今回の子育て中の議員への調査もそのひとつだ。

 夏祭りを回るのではなく、例えば学校や保育園を1カ所ずつ訪ねてアンケートへの協力を依頼したりする方が、同じ足を運ぶなら意味のある足の運び方ではないか。調査して、エビデンスを基に政策提案をしたい。「従来とは違うやり方でやってみて、うまくいく事例になれればと思う。これを一つの事例にして、こういうやり方でも当選できるよって言えるようになりたい」

 女性議員や子育てと両立する人たちを励ましたいし、もっともっとそういう人たちに政治の場に入ってきてほしいと願っている。「同じことをやってみようと考える議員や候補者が出てきて、そういう人に票を入れたいと思う人が増えたら、議員の活動の仕方も変わっていくと思う」