主にスポーツに取り組む中高生に見られる腰椎(ようつい)分離症。少年期の過度なトレーニングなどによる、いわゆる腰の「疲労骨折」だ。かつては見過ごされがちだったが、放置すれば慢性的な腰痛から競技を断念せざるを得ないリスクも。専門家は「スポーツをしていれば誰でもなり得る。親や指導者が正しく知って予防することが大事」と呼びかける。

腰椎分離症の予防活動でサッカー部員の腰の状態を診る高松晃院長(左)=名古屋市で(高松院長提供)


腰に違和感 半年後に激痛で歩けず

 「疲れがたまってくると徐々に痛くなってきた」。愛知県の男子高校生(16)は中学3年の2月、サッカーチームの試合中に腰のあたりに違和感を覚えた。プレーできないほどの痛みではないためそのまま練習を続けたが、県内のサッカー強豪校に進学した高校1年の夏、試合中に歩くことすらままならない激痛に襲われた。腰椎分離症と診断され、約3カ月休養すると痛みはなくなり、現在は練習に復帰している。

 小学生の時はサッカーの部活とクラブチームを掛け持ちし、空手も習っていた。「丸1日が休みっていう日はほとんど無かった。楽しいばかりで疲れたとも思わなかった。今思えば、もうちょっと休んでも良かった」と悔やんだ。

ほとんどが小中高生「増えている」

 多くのスポーツ選手が通う吉田整形外科あいちスポーツクリニック(愛知県豊田市)には、年間350人ほどが同様のけがで受診。ほとんどが小中高生で、競技はサッカー、野球が多いが、バレーボールや陸上など、競技を問わずに症状が見られる。

 高松晃院長には患者が増えている実感があるといい、「昔はとにかく頑張れという風潮がスポーツ界で強く、病院に来ない選手が多かった。今は指導者もかつてよりは選手に無理をさせないため、結果として患者が増えているのでは」と推測する。

小学生の疲労がたまり中高生で発症

 高松院長によると、腰椎分離症は小学生時の疲労が蓄積し、中学生から高校生の初めごろに軽い腰の痛みや、腰付近が重たく感じる違和感などが出始める例が多いという。

 そうした前兆は日常生活ではなく、競技中に感じることがほとんど。サッカーのヘディングや方向転換といった、腰椎をそらしたりひねったりする動作の蓄積で発症しやすくなる。使いすぎのほか、太ももや股関節の筋肉が弱かったり、硬かったりすると腰に負担を与えやすい。

軽症ならコルセットつける保存療法

 初期はプレーも続けられる程度の痛みが多く、そのまま続けて悪化するケースも。軽い症状ならコルセットをつけるなどの保存療法で治るが、悪くなると手術の必要も出てくる。

 高松院長は「競技中だけではなく、腰を後方に倒したり、回したりする動作でも症状があるかは確認できる。少しでも感じたらすぐに専門医の受診を」と呼びかけた。

(上)両脚を縦に開き、前に出した膝に手を置いて押し出す。逆も同様 (中)立ったまま前屈して両手で足首を持ち、頭を下に、腰を上に伸ばす (下)右膝と左手を床につけ、左脚と右手を伸ばす。手足を替えて行う


体幹を鍛え、柔軟性を高めて予防を

 予防には、腰の負担を軽くするために体幹を安定させたり、太もも周りの柔軟性を高めたりするトレーニングが効果的。高松院長はそうした方法を紹介し、腰の状態を診断する活動にも取り組む。

 一方で一部の指導者からは「腰椎分離症なんて病院に行かずに治して克服するもの」という誤った考えも聞かれるといい、高松院長は「放置しておくと慢性的な腰痛を抱える可能性もある。早期の治療なら約2カ月で治るので、早い発見が鍵になる」と語った。