2023年10月から続いてきた、いわゆる袴田事件のやり直しの裁判が5月22日に結審を迎えました。判決は9月26日に言い渡されます。この事件のこれまでの経緯を振り返ります。
逮捕され犯行を自供
1966年、当時の静岡県清水市で味噌会社の専務一家4人が殺害され、現金が奪われたうえ自宅が放火される事件が発生しました。
逮捕されたのは味噌会社で働いていた袴田巖さん(88)。当時30歳でした。
袴田さんは当初犯行を否認していましたが、連日10時間を超える取り調べの末に犯行を自白しました。供述を録音した当時のテープが残っていました。
袴田巌さん:
大変に恐ろしいことをやったと思ってます。もう夢中で見られちゃったからしょうがないと
裁判で無罪主張も死刑判決確定
しかし、裁判では一貫して無罪を主張。
裁判所も45通の自白調書のうち44通は強要された疑いがあるなどとして認めませんでした。
ところが、事件から1年2カ月後に味噌工場のタンクから発見された「5点の衣類」について、裁判所は犯行着衣と認め袴田さんに死刑判決を言い渡しました。
そして1980年、最高裁は上告を棄却し死刑が確定しました。
静岡地裁が再審開始を決定
弁護団は裁判のやり直しを求め事件から47年以上が経過した2014年、静岡地裁の村山浩昭 裁判長(当時)はやり直しの裁判の開始を決定。
袴田さんの死刑執行の停止を命じ釈放を認めました。この時、袴田さんはすでに78歳となっていました。
元裁判官・村山浩昭さん:
健康状態が非常に危ぶまれていました。後でどういう批判を受けようとも私たちとしては釈放するしかないという結論になったということです
再審開始決定を東京高裁が取り消し
検察は不服を申し立てる「即時抗告」を行い、東京高裁は裁判の開始決定を取り消しました。
「証拠ねつ造の可能性」東京高裁が再審開始決定
しかし2023年3月、差し戻された東京高裁が出した結論は…
松下翔太郎アナウンサー:
弁護団が2人出てきました。再審開始です。再審開始です
東京高裁は5点の衣類に残る血痕の赤みについて「赤みは消失すると推測される」「犯行着衣であることに合理的な疑いが生じる」と指摘。「捜査機関の証拠のねつ造の可能性がある」として裁判のやり直しを認めました。
検察側は「主張が認められなかったことは遺憾である」とコメントしたものの特別抗告はせず、やり直しの裁判の開始が確定しました。
袴田さんの姉・ひで子さん:
56年間闘っている。この日が来るのを本当に心待ちにしていました。これでやっと肩の荷が下りたという感じ。本当にありがとう
2023年10月 再審公判開始
2023年10月、静岡地裁の前には大勢の人の姿がありました。
この日からやり直しの裁判が始まり、わずか26席の傍聴券を求め280人が朝から列を作りました。
齊藤力公 記者:
弟のため闘った57年。その答えを求め、ひで子さんが弁護団とともに法廷に向かっていきます
出廷が免除された巖さんに代わり、姉のひで子さんが支援者に笑顔を振りまきながら
法廷に向かいました。
冒頭、起訴内容を認めるか問われた ひで子さんは「弟に代わって無実を主張します。
弟に真の自由をお与えくださいますようお願いします」と無罪を主張。
一方、検察側は冒頭陳述で「犯人はみそ工場の関係者で凶器のくり小刀や放火に使った油などはみそ工場から持ち出した」「こうした行動を袴田さんがとることが可能だった」と説明しました。
また、5点の衣類について事件前に袴田さんが着用していた衣服と酷似している点や
血痕に赤みが残る可能性があるなどと指摘し、袴田さんの犯人性について主張してきました。
そして、15回目となる5月22日の裁判で検察側は再び死刑を求刑。